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第10話:魔改造ショットガンと、大豆ミートの絶望

ギィィィガガガガッ……!


『オールド・ギア・タウン』の路地裏に

金属が悲鳴を上げる凄惨な音が響いていた。


……気を失ったザックの両腕から

アルフレッドが強引にガトリングガンのパーツを引き剥がしている音だ。


「よし、冷却シリンダーと回転機構のベース……それに

魔力拡散用のチョーク(絞り)も無傷だ」


アルフレッドは満足げに頷くと

血と油に塗れた巨大なパーツ群を地面に並べた。

そして、自身のホルスターから

『高圧縮照準レンズ』が乗った魔改造リボルバーを取り出す。


「親父さん、まさかここでイジるのか……?」

ブラッドが固唾を呑んで見守る中

伝説の殺し屋による『カスタマイズ』が始まった。


アルフレッドは無骨な手つきで

リボルバーのシリンダー前方にガトリングの回転機構を押し当てると

工具も使わず素手で金属のジョイントをへし曲げ、強引に噛み合わせた。

剥き出しの歯車が


ギチ……ギチギチッ!


と不満げな音を立てるが、アルフレッドが拳でガンッ!と叩くと

不思議とカッチリと固定された。


「よし……」


アルフレッドの手に握られているのは

もはや拳銃としての原型を留めていない異形の兵器だった。

銃身の上には巨大な狙撃用スコープが鎮座し

銃口の先にはガトリングの砲身を短く切り詰めたような

ブツ穴の空いた拡散器(チョーク)が取り付けられている。

異様な重さと威圧感を放つ、不格好極まりない鉄塊だ。


「す、すげえ……。狙撃(スナイプ)機構に加えて

散弾(ショットガン)機構まで組み込んじまったぜ!?

これで遠距離も複数の敵も、一本の銃で対応できるってわけか……!」

ブラッドは感心した様に目を輝かせながら頷いた。


「とんでも無いわね……でも

テストもせずにぶっつけ本番で撃つのは危険じゃない?」

カルメンが心配そうに眉をひそめる。


「テストには、ちょうどいい的(マト)が来た」

そんな中、アルフレッドは銃口を路地の奥へと向けつつそう言った。


……直後、路地の角から一斉に飛び出して来た十数名の荒くれ者共

倒れたザックを見て、怒り狂い銃を構える

だが――


「散れ」


アルフレッドは一歩も動かず、ただ腕を上げて引き金を引いた。


――「『Tap, Rack, Bang』(タップ・ラック・バン)」――


ドガァァァァァァァァァンッ!!!


路地裏を揺るがす程の轟音

リボルバーのシリンダーから放たれた光弾は

新たに取り付けられた拡散器を通過、無数の光の散弾へと分裂し

扇状に広がって路地全体を薙ぎ払った――


「「「ぎゃあぁぁぁぁっ!?」」」


――避ける隙など一切ない。

十数名の敵兵は、一瞬にして光の暴風に吹き飛ばされ

壁やゴミ箱に叩きつけられて全滅した。

もちろん、今回も『娘に怒られないよう』急所は外したアルフレッド。


「……完璧だ」

アルフレッドは紫煙を上げる銃口を見て、深く頷いた。


(これなら、一々走り回って狙いをつける必要がない。

立ち止まったまま引き金を引くだけで終わる。


……俺の膝と腰は、これで守られた!)


感動に打ち震えるアルフレッド。

その顔は、長年の夢を叶えた少年のように輝いていた。


「……見たか、カルメン。あの親父さんの顔」

「ええ。プロテインを台無しにされた怒りを

圧倒的な力で敵をねじ伏せることで昇華したのよ

まさに『修羅』ね……でも、どこか神々しさすら感じるわ」


……二人の監視役は、またしても的外れな畏敬の念を抱いていた。


「運動とテストは終わった……行くぞ」

そんな二人を気にする事もなく、アルフレッドは足取り軽く

魔改造リボルバーを無理やりホルスターにねじ込み、路地を歩き出した。


……彼の向かう先は、先ほどチンピラから聞き出した

『鉄屑亭(スクラップ・ダイナー)』

この街で一番脂の乗ったTボーンステーキを出すという

彼にとって夢のような場所であった。


「いらっしゃい! 空いてる席へどうぞ!」

店に入った瞬間、アルフレッドを包み込んだのは

肉が焦げる暴力的な匂いと、強い酒の香りだった。


(これだ……! 蒸し鶏でもふかし芋でもない

本物のジャンクな世界がここにある……!)


アルフレッドは最も大きなテーブルの席にどっかり座ると

メニューも見ずに大声で叫んだ。


「おい! この店で一番デカいTボーンステーキを焼け!

脂身は切り落とすなよ! それと

一番度数の高い酒をボトルで……!」


「ちょぉぉぉっと待ったぁっ!!!」

カルメンがテーブルに両手をバンッ! と叩きつけて立ち上がった。


「アル! ……何考えてるの!? さっきプロテインを飲めなかったからって

いきなりそんな脂とアルコールの塊みたいなものを胃に入れたら

消化器官がビックリして明日の作戦に響くわよ!?」


「……カルメン。

俺は今日、崖を登り、街の門を吹き飛ばし、サイボーグを解体したんだ。

これくらいの報酬(カロリー)は許されるはずだろう」

アルフレッドの目に、かつてないほどの哀願の色が浮かぶ。


「ダメよ! アナタの体はもう、アナタ一人のものじゃないの。

この街を……ううん、裏社会を潰すための大事な資本なんだから!」

(訳:娘さんから『絶対に油物を食べさせないで』ってボーナス積まれてるのよ!)


……直後、カルメンはウェイターに向き直り、ビシッと指を差した。


「マスター! この人に、裏メニューの

『大地のフェイクミート・ステーキ』を!

もちろん塩分オフで、付け合わせは温野菜!

お酒の代わりに、特製の青汁をお願い!」


「お、おい! カルメン、貴様ッ……!」

アルフレッドが立ち上がろうとするが

ブラッドが肩をガシッと押さえつける。

「親父さん、カルメンの言う通りだ!

伝説の男なら、己の欲に打ち勝ってみせてくれ!

俺は親父さんを信じてるぜ!」


……数分後。

アルフレッドの目の前には、茶色く色付けされただけの

『大豆ミート(味付けなし)』と

鮮やかさ皆無……泥水のような『青汁』が置かれていた。


周囲のならず者たちが美味そうにステーキに齧り付く中

アルフレッドは無言で大豆ミートをナイフで切った。

弾力だけは無駄にあるそれを口に運ぶ。


(嗚呼(あぁ)……ゴムだ。

少し大豆の匂いがする、タイヤのゴムだ……)


「嗚呼(あぁ)……娘よ」


アルフレッドは青汁を一気飲みし、天を仰いだ。

「帰ったら……お前の作る、味の濃いシチューが食いてえ……」


「クゥ〜ッ! 任務が終わった後の、平和な家庭のシチュー!

最高のモチベーションだぜ、親父さん!」

ブラッドが涙ぐみながら拍手をする。


(違う。極度の塩分不足で命の危機を感じているだけだ)


心の中のツッコミすら声に出す気力もなく

アルフレッドはテーブルに突っ伏した。

どれほど凶悪な魔改造リボルバーを手に入れようとも

彼の食卓に平和(ジャンクフード)が訪れる日は、まだひどく遠い。

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