第九十三話 滾る意志とロマン
「よし、こんな感じかな」
再配置した金床などの設備を見てつぶやく。
今回は竜の分身体のデータを正確に取りたいので、近くで作業できるよう設備を地下に移した。
模様替え自体はハウジングのインベントリ経由で簡単に行えるので、ものの数分で普段のような環境が地下にできあがった。
『なんか新鮮』
『普段からこれでいいんじゃない?』
「一応人が来てもすぐ気付くように一階にしてるんだよね。店閉じてるときはこっちでもいいかもだけど、移し替えるのが面倒だし」
「それならいっそ同じ設備を買ってどっちでも作業できるようにしても良いんじゃないですか?」
「え、流石にそれはちょっとお金かかりすぎるんじゃない? この設備だってすごく良いのを使ってるわけだし……」
「先生……この店の資金、確認してないんですか? 先生の仕事の売り上げだけでこの工房を高層ビルに増築出来るぐらいありますよ」
そんなに?
資金関連は未だにシダにやってもらってるからちゃんと見てなかった。
「まあそのあたりは後で確認するとして……武器を作っていこうか」
『わーい!』
『待ってました!』
『槍だっけ?』
『たのしみ~』
まずは、槍としての全体像を考える。
武器種として槍にする以上、最低限“槍”として成立していないといけない。
形状があまりにも外れすぎるとシステム側に別の武器種として認識される可能性があるし。
方向性としては、ギミックのために槍身は四つに分けるつもりで、つまり四叉槍になる。
フォークのように横一列に並べるわけではなく、それぞれの高さをずらす。さらにそれぞれの槍身には対応する柄があり、それぞれの柄が捻れるように絡み合う形にする。
簡単に言うと、四つの槍が寄り集まって一本の槍となっているような形だ。
全体的な雰囲気は整いすぎない方が良い。ある程度の荒さとスタイリッシュさを同居させられればそれが一番良いけど、このあたりは試してみないと分からないかな。
ある程度方向性も固まったところで、制作に移る。
まずは鍛冶竜の心核を重量が均等になるように四つに分割する。心核は主に槍身に使い、そこから柄の方にもある程度細く伸ばす。
素材はこれまで通りバンドラード鉱を中心に使い、それに追加して、黒曜鍛鋼という素材も用いる。
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黒曜鍛鋼
特殊な環境でのみ生成されるフロンティライト鉱石が、長期間溶岩の熱に晒されることで鍛え上げられたもの。黒曜石のような紫がかった黒色をしており、UNIT化に対し高い適性を持つ。
その性質上、主に活火山の火口で入手できる。
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現状かなりのレア素材だけど、思い切って使ってしまおう。
全体として、心核、バンドラード鉱、黒曜鍛鋼の順番に赤黒から黒へグラデーションするように作る。多少ムラがあった方がそれっぽくなるだろうし、それも考慮して使う量を選定。
今回の槍は四つのパーツの重量とサイズ感をできるかぎり均等にしたいのでこのあたりはちゃんと記録しておきたい。
分割した心核を両刃に成形し、棘のような返しを左右に付けていく。
バンドラード鉱と黒曜鍛鋼で作った柄に槍身を接続し、これで一本の槍ができあがった。
これを四つ作ってから、柄を曲げて組み合わせる。それぞれのバランスをみて絡み合わせるようなイメージで組み合わせていくけど、ここで複雑にしすぎるとあとが大変になるのでほどほどに。
ここまでできたら武器の特殊効果を選択する。
今回使うのは[竜星]。効果としては、突進系の攻撃を使用した際に移動速度が上昇し、さらに装備者の移動速度が一定値を超えると、速度に応じて貫通力と威力が上昇するというもの。
使い道としては槍をランスのように運用するみたいなのが考えられるけど、今回は少し違う。
「……よし。まだ完成じゃないけど、ひとまずこんな感じかな」
『おお~!』
『なんかもう出来てない?』
『デザインがそのドラゴンみたいでいいね』
『ここからまだ何かあるのか……』
出来上がったのは、四つの穂先を持つ溶岩の槍。
心核の光が槍身から柄に流れ、固形化した溶岩の内側で尚も燃え盛る炎のように、柄の隙間から赤く脈打つ。
柄の後方は完全に黒曜鍛鋼で作られているため、発光しているのは二つの素材が混ざり合う柄の中心付近まで。このグラデーションも、穂先から徐々に冷え固まっていく様子を表している。
この時点でかなり様になっているけど、この武器はここからが本番だ。
「じゃあ、次は分身体のデータを取ろうかな」
『サイズ合わせ?』
『持ち手の調整かな』
「まあそんな感じ」
詳しい理由はまだ言わないでおく。
ヘイルフォートの分身体を呼び出し、肩や腕まわりの長さや太さ、関節の可動域を確認する。特に肩から肘、肘から手首、手の開き方、爪の位置。干渉しそうな箇所を細かく測っていく。
分身体は静かに腕を伸ばし、こちらの指示に従ってくれた。
その姿を見ながら、私は頭の中で槍の形を少しずつ変えていく。
ただ持たせるだけならここまで細かく測る必要はないけど、今回の槍はそれだけでは終わらない。
まずは槍の四つのパーツそれぞれにUNITを組み込む。
使うのは[変形]。といっても、単純に刃が伸びるとか柄が畳まれるとかそういう簡単なものではない。四つのパーツをそれぞれ別の形へ変形させる必要がある。
四つの槍身を分割し、刃と柄を複数の部位に分けて設定し、動作時にどこがどのタイミングでどう展開するのかを決めていく。
滑らかに変形させるためにはただ形を変えるだけでは駄目で、途中で素材同士が干渉しないようにスペースを考える必要がある。
一つ一つ順番に展開するのならある程度楽にはなるんだけど、それだと変形に時間がかかりすぎる。戦闘中に変形することを考えると、少なくとも四本同時に変形させたい。
初期位置から一定のポイントまでの変形を作り、プレビューで動きを確認し、干渉していればそこを調整する。一つ直せば他にも影響が出るので、この時点から最終的な形状を考えてなるべく無駄のないように調整していきたい。
かなり根気のいる作業だけど、こういうことは今までにも何度もやってきている。
一番複雑だったのは……EX-CALIBURかな。あれはUNITの種類もバラけさせてたから余計難しかった。
「ここはこう……いや、この角度だと干渉するから少し逃がして……」
変形中の挙動や変形後の形状を調整するために付け足した部分を調整し、変形前の槍としてのバランスを整える。
変形後の位置関係や、今回のギミックを作動させるための条件も設定し、ついでに変形するときに分身体がどこを持っていれば良いかわかりやすいように柄に少し細工する。
そんな作業を一時間以上繰り返し……
「……できた」
『!!』
『おおおお』
『8888888888888』
『めっちゃ時間かかったね』
『かっこよ!』
最後の調整を終え、深く息を吐く。
これでヘイルフォートに捧げる武器が完成した。これだけでも良いぐらいの見た目をしているけど、もう一つの姿がある。
その姿に関しては敢えて配信上ではわかりにくいように作業していた。試運転もあとで配信を一度切ってから行うつもりだ。
「名前とステータスは……後で。変形も実際に使う時まで秘密かな」
『えー!!!』
『焦らすじゃん』
『ここからは有料?』
「ちゃんと後で見せるよ。いったん配信切るけど、このあとヘイルフォートにお披露目するときに配信再開するからちょっと待ってて」
『はーい』
『お預けだ……』
『え、そこまで見せてくれるんだ』
『地味に凄いものが見れるのでは……』
「じゃ、また後で」
配信を中断し、私はゆっくりと伸びをした。
完成した槍に手を触れ、それから竜の分身体に目を向ける。
「ちょっとだけ覚えてもらう動きがあるけど、いいかな?」




