第九十二話 再起動
〈アリスフィア・フラグメンツにログインしました〉
システムメッセージが表示されて、私は工房のソファで目覚めた。
まだシダはログインしていないみたい。
軽く跳んで身体の動きを確認したり、ハンマーを握って感触を確かめたりすると、明らかに感覚が異なっていた。もちろん良い意味で。
武器を作らずとも、ここ数日と比較して圧倒的にコンディションが良いことが分かる。
なんとなく続いていた体の違和感とか倦怠感も消え去っていた。やっぱ睡眠は正義だな……。
そうこうしているうちにシダがログインした。
「おはようございます、先生! ちゃんと眠れましたか?」
「うん。今回は本当に」
「よかったです……!」
シダは心底安心したように息を吐いた。
昨日まで散々心配をかけてしまったので、少し申し訳なくなる。
「今日はどうしますか?」
「配信、再開しようかなって。結構休んじゃってたし」
「本当ですか? まだ無理しない方が良いと思いますけど……」
「それについては、むしろ今の私には配信が必要かな……って」
配信を休めば、その分だけ集中できると思っていた。
ただ、私は……いつのまにか、一人で黙々と武器を作るよりも、コメントを見たり、シダと話したりしながら作る時間に慣れきっていたらしい。
配信はただの発表の場ではなく、もう私の武器作りのリズムの一つになっていた。
もちろん、竜の武器を作り始めたときは配信にまで気を配る余裕はなかったし、その判断自体が間違っていたとは思わない。ただ結果として状況を悪化させる要因の一つではあった。
「だから大丈夫」
そう言いながら、配信の準備を整える。
SNSにも久しぶりに配信をすると投稿して、溜まっていた数日分の通知に目を通してから、私は久しぶりの配信を始めた。
『配信だー!!』
『乗り込めー!!』
『久しぶりだ』
『わーい』
『おかえり!』
『うおー!』
「ただいま。数日ぶりだね」
配信してすぐ雪崩のようにコメントが流れてくる。
なんというか、すごく安心感がある。これが実家のような安心感ってやつなのかな?
「最近なんで配信を休んでたかっていうと、まあちょっとゲーム内でいろいろあって……具体的に言うと、私のところにも竜の試練が来たんだ」
『!?』
『なんやて』
『えっ』
『生産職にも来るの!?』
『なんかすごい情報出たな……』
『竜と戦った?』
『え、生産職も竜と戦うの?』
「竜の試練はイベント用の素材を使って武器を作るって内容だったよ。生産職だとそうなるんじゃないかな」
というか戦闘職だと竜と戦ったりするんだ。生産職で良かった。あんなデカいドラゴンを相手に戦うとか私にはちょっと無理だし。
「それで、竜のための武器を作ろうとしてたんだけど……これが全然上手くいかなくて。ちょっと出来に納得いかなかったというか、ちょっとプレッシャーもあって、スランプになっちゃって。……でももう大丈夫。今はもう絶好調だし」
『よかった~』
『前はなんかすげえ調子悪そうだったな』
『回復したなら良かった』
「というわけで、改めて竜の試練に向けて武器を作っていこうと思ってるんだけど……今のところ特に何も浮かんでないんだよね。これまでに配信外で作ったものをもう一回作るってのも芸がないし」
『竜の武器か~』
『ちなみにどんな武器作ったの?』
「作った武器? 数が多いからざっと言うけど……」
作った武器をそれぞれ説明する。途中から分解する前に写真を撮るようにしていたから、それを見せつつ思い出しながら簡単に話していった。
『多すぎる……』
『これでスランプなの?』
『なんかどれもめちゃくちゃ良かったけど』
正直言って、没にしてきた武器はどれも自信作と言って全く問題ない出来をしていた。
今ならどれを作っても自信を持ってヘイルフォートに差し出していただろう。
それができなかったのは、ひとえに私の精神状態がひどいことになっていたからだ。
武器には何の問題もなかったけど、それを信じられなかった。
『竜用の武器って難しそうだよな』
『そもそも竜に人間の武器持たせるっていうのも難しいよな』
『素手で良くない?』
『爪とか牙とかが武器みたいなもんだしな~』
「まあね」
実際、竜に合う武器というのはかなり難しい。
竜が武器を使うイメージは特にないし、分身体が本体より若干人間に近い身体をしていたとしても、竜であることに変わりはない。とはいえ装備のような形状の武器種は手甲と足甲くらいで、武器として作るなら持たせる必要がある。
一般的な武器種で装備できるようなものを作るといっても、形状がかけ離れすぎたらその武器種として認識されないし……このあたりをどうにか解決できれば良いんだけど。
「そうだ。竜の分身体、見る?」
『え普通に見れるの?』
『見たい!!』
『どこにいるんだろ』
カメラを持って地下に行き、ヘイルフォートの分身体を召喚する。
ここ数日で何度も見た竜が現れて、コメントの流れが加速した。
『かっこよ!』
『なんか竜飼ってるみたい』
『この武器とか想像つかない……』
『名前とかあるんかな』
そんなコメントを見つつふと気になってメニューを開いてみると、なんと分身体の能力を見ることができた。
そういうものだと思っていなかったのでこれまで確認していなかったけど、どうやらシステム上の扱いとしてはテイムしたモンスターの扱いになっているらしい。
だからといって実際に使役したりできるわけではないけど。あくまでもこの分身体を一時的に召喚できるシステムを実装するにあたって、こうするのが都合が良かったってだけかな。
それはともかく、ステータス欄にはこの分身体が覚えているスキルも記載されていた。
スキル一覧にはドラゴンブレスやワイルドクロウなどいかにも竜って感じのスキルが並んでいる。
そんな中で目を引いたのが、ドラゴンダイヴというスキルだった。
リキャストが重い分高火力の技らしい。空高く飛び上がって加速し、敵目掛けて急降下する突進攻撃。速度が高いほど威力が上昇し、着弾時に衝撃波を発生させる。
こういうこともできるんだ……なるほど。
「一つ思いついた。かなり無茶苦茶な案だけど」
『おお!』
『武器製作の時間だ!!』
『武器種は?』
「武器種は槍になるかな」
正直言ってかなり無茶苦茶な案だし、実現できるかも分からない。UNITの[変形]がどこまで自由に出来るのか、作った武器が槍と認識されるのか。完璧に作れたとして、分身体がそれを使えるのか……。
懸念点は多い。それでも、やってみる価値はある。
鍛冶竜の心核を手に、私は改めて竜の試練へと挑むのだった。




