第九十四話 焔滅槍ドラグ・ランドラヴァル
配信外で確認したところ、武器は問題なく動作した。あくまでも変形と解除を見ただけなので、これが実際どのように見えるのかはまだ未知数ではあるけど、とにかくこれで準備は出来た。
鍛冶竜ヘイルフォートのもとには、マップ上の一時的なワープポイントから向かうことができる。扱いとしては普通のワープと変わらないはずなので、シダとパーティーを組めば一緒に行くことができるはず。
ワープポイントは大陸西方、グラカム山付近の連峰に位置している。
「それじゃ、行こうか」
「はい!」
シダの返事を聞いてから、ワープポイントを選択する。
視界が切り替わり、次の瞬間には冷たい風が頬を撫でていた。
そこは山頂だった。
周囲には高い山々が連なり、空気は澄んでいて、肌寒さを感じる。
かなりの標高ではあるけど、足下には草が生い茂っていた。時間帯が違うからか、前に来たときよりも明るい雰囲気だ。
周囲を観察しつつ、カメラを呼び出して配信を付ける。
『山だ!!』
『めっちゃ景色いい』
『ここが試練の場所?』
『登山配信?』
『マジで竜の試練見れるのか』
コメント欄の流れる速度がいつもよりも速い。というかそもそも……視聴者数が多すぎる。
「せ、先生! 視聴者数10万人超えてますよ!」
「なんで……?」
『竜の試練と聞いて』
『竜の試練が見られると聞いてきました!!』
『初見です』
『ここが話題の配信ね』
『なんか全然知らないエリアなんだけど!?』
『初見さんいらっしゃ~い』
『竜の試練くる?』
なるほど、竜の試練効果か……。
普段の配信はピーク時でも一万人付近だから明らかにこの数はおかしいんだけど、多分配信を切ったあたりで竜の試練が見られるらしいって話が広まったのかも。
生産職だからそんなに参考にならない気もするけど、そもそもの情報の数が少ないらしいし、それでかな。
なんて考えてる間にも視聴者数は増えていく。ちょっと追いつかないのでいったん見なかったことにして……今は竜の試練を優先しよう。
クエスト一覧から鍛冶竜ヘイルフォートの試練を選択し、クエストを進行させる。
するとすぐに、巨大な影が周囲を覆った。
赤熱する銅のような鱗。背の突起から漏れる黒煙。胸殻の奥で脈打つ火。
鍛冶竜ヘイルフォートは、翼を広げてゆっくりと山頂へ降り立った。
『――完成したようだな』
「うん。少し時間はかかったけど」
私がそう応えると、隣に竜の分身体が出現した。
これまで通りステータスや装備のウィンドウを開けたので、インベントリ経由で武器を渡す。
するとすぐに分身体の手元に武器が出現した。
四つの槍穂が絡み合う、赤黒い溶岩のような槍。
ヘイルフォートはそれを一瞥し、目を細めた。
『ほう……ではその力、試させてもらおうか』
ヘイルフォートが上体を反らし、胸殻がゆっくりと開く。溶鉱炉のようなその中から赤熱する金属片が大量に溢れ出し、積み上がり、それはガラクタの巨人のような姿になった。
高さは竜の分身体と同程度。多分工房のマネキンと同じような役割なのだろう。
こちらを一目見てから、分身体が動く。
巨大な槍が赤い軌跡を描き、巨人を裂いた。
突き、払い、引き戻し、もう一度突く。五メートル級の体格に合わせた長さがあるので、ただ振るうだけでもかなりの迫力だ。
巨人の反撃を躱しながら、分身体は巨人の胸部に強烈な一撃を叩き込んだ。
分厚い胸部装甲に四つの穂が食い込み、大量の火花と共に表面に亀裂を走らせる。槍を引き抜くと、巨人は大きな音を立てて膝をついた。
『ふむ……武器としては申し分ない。が、まだ何かあるようだな』
「本番はここから。やってみて」
私がそう言うと、分身体は槍を両手で持ち直した。
穂先を上に向け、自らの眼前に垂直に構える。そして、柄の端、石突の部分を地面に強く打ち付けた。
一瞬の静寂。そして――次の瞬間、四叉槍が蠢いた。
柄がほどけるように流動し、槍身が立体的に形状を変化させる。
四つに分かれた槍のパーツが絡み合った状態から一斉に展開し、ポーズを保ち続ける分身体の腕にまとわりつくように大きく変形していく。
一本目と二本目は分身体の両腕へ。
肘の後ろ側から手の先へ沿うように伸び、穂先が腕の前方へ突き出す。
三本目と四本目は両肩へ。
肩装甲に沿って翼に干渉しないよう装着され、槍は天を刺すように伸びた。
柄だった部分は各所で固定され、まるで槍そのものが分身体の身体に沿って装着されたような姿になった。
『!?』
『変形した!!!』
『そうなるの!?』
『なんか凄いことになってる……』
『かっこよ!!』
『これどうやって攻撃するんだ??』
『とりあえず凄いことが起きてるのは分かった』
コメント欄が加速していく。
竜の武器を作るに当たって、竜自体を武器とするような案に関しては初期から色々と考えていた。
いくつかそういうコンセプトで作ってみたもののあまり上手くいかなかったので、途中からその方向性は捨てていたんだけど、分身体のスキル――ドラゴンダイヴを見たことでひとつのイメージが浮かんだ。
最初に浮かんだイメージはあまりにも無茶で、まともに運用できるものではなかった。けど、逆にそれが[変形]によって二つの形態を共存させるという考えにつながったのだ。
分身体は翼を広げ、力強く羽ばたいた。巨体が浮き上がり、風が吹き荒れる。
そのまま分身体は両手を身体の前で交差させるように力を込め――解放した。
四本の槍の根元で心核の赤い光が強まり、槍身全体が赤熱する。
そして、後方へ向いた柄の一部から炎が噴き上がった。圧倒的な光量と轟音。その炎が山頂の空気を揺らした直後、分身体は勢いよく空へ飛翔した。
速い。速すぎる。
この一連の動きがドラゴンダイヴのスキルに含まれているせいか、飛び立つ瞬間から[竜星]の効果が発動し、移動速度が大幅に上乗せされている。
分身体はものすごい勢いで突き進み、数秒後には豆粒ほどの大きさに見える距離まで離れていた。
『はっや!!』『どこ行った!?』『飛んだ!?』
『待ってもしかしてあれか?』『別エリアからも見えてるらしいぞこれwww』
『今パルテノスなんだけど凄い騒ぎになってる』『未確認飛行物体!!』
山を中心に、赤い光が大きく円を描くように旋回する。その半径は徐々に縮まり、高度が上がっていく。
その軌道が頂点に達したその瞬間、赤い光が強く明滅した。
エネルギーが爆ぜる音が響き、分身体の姿が徐々に……いや、明らかな速さで接近してくる。
地表ではヘイルフォートが生み出した鉄の巨人が、離れた位置で空を見上げ両手を突き出している。
分身体はまるで彗星のように炎の尾を引いて、空気を切り裂く音と共にその鉄巨人に向かって急降下し――着弾した。
凄まじい轟音と爆風。土煙が柱のように噴き上がり、衝撃波が全身を強く押した。
数秒後、土煙が晴れるとそこには大きなクレーターができていた。中央に立つ分身体の両腕と両肩に装着された槍が強く赤熱し、鉄が焼けるような音を出している。
鉄巨人は完全に消し飛んでいた。
分身体が両腕を身体の前で合わせると、身体に装着されていた槍が動き出す。蠢く槍は、やがて元の四叉槍の姿へと戻った。
ヘイルフォートが、低く笑うように喉を鳴らす。
『竜が竜として駆け、穿つための武器。これこそが、汝の答えか。……見事だ』
その一言で、胸の奥にあった緊張が解けていく。
『ならば授けよう。汝が守護者として歩むための、我が火の欠片を』
ヘイルフォートが巨大な手を差し出す。
私は少しだけ迷ってから、その指先に触れた。
瞬間、突風が吹いたように髪がたなびく。
腕を伝って、柔らかい熱が流れ込んできた。
目の前にシステムメッセージが表示される。
[護竜紋章が解放されました]
メニューを開くと、新しく護竜紋章の項目が追加されていた。
軽く中を確認すると、どうやらスキルツリーのような強化要素らしい。詳しくはまた後でみよう。
ヘイルフォートは、満足そうに翼を畳んでいる。
『武器を鍛つ者よ。汝の火は、己のみのために燃えるものではない』
その声が、山頂に低く響く。
『誰かに渡り、誰かの力となり、時に誰かの心を照らす。汝がそれを忘れぬ限り、その火は決して消えぬだろう』
ヘイルフォートの胸殻の奥で、炉のような火が静かに脈打った。
『進め。汝の鍛つ武器が、いずれ来たる戦いの一助となることを、我は願っている』
その言葉を最後に、ヘイルフォートは広げた翼を強く羽ばたかせ、どこか彼方へと飛び去って行った。
[鍛冶竜ヘイルフォートの試練をクリアしました]
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焔滅槍ドラグ・ランドラヴァル
武器種:槍/竜用武装
[竜星]、[変形]、攻撃力強化+3420、貫通強化+940、突進強化+760、火属性強化+520、弱点特攻+460、火傷付与+310
鍛冶竜の分身体のために鍛えられた四叉槍。
力を欲すれば槍は忽ちその姿を変え、荒れ狂う炎熱を生じさせる。
空を舞う竜の背後に伸びる炎跡は彗星の尾にも似て、天より隕ちる竜星は、あらゆる敵を穿ち砕く。
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