第九十話 二本目
(ゴールデンウィーク中は遠出していたので全然書けませんでした……)
心核を見ながら考える。
作ったものがしっくり来ないというのは、これまでにほとんどなかった気がする。
常にこれまで以上のものを作り続けられるわけではないけど、だからといって作った武器に自信を持てないなんてことはない。
これまでにない感覚に戸惑いつつも、もとから一発で決められるとも思っていなかったわけだし、別の方向性で作ってみることにする。
ヘイルフォートの分身体は五メートル近い巨体を持つ。膂力も人とは比べものにならないはず。
それならむしろ一撃の破壊力を重視するべきだったかも。
「だったら……斧かな」
特に両刃ではなく片刃の斧。剣よりも荒々しく、存在感がある。
竜が振るう武器としても見た目の相性は悪くなさそうだし、斧の大ぶりな動きも似合うかも。
大まかなイメージを描いて製作に移る。
今回は心核の効果をあとから決めることにした。選択できる効果の数は多いし、これだけあればまず見た目を重視して作成してから適した効果を選択することもできるはず。
効果を見た感じ属性自体は火で固定なので、多少その方向性で素材を選ぶ程度にしておく。
まずは斧の中心に鍛冶竜の心核を据える。
ベースの大まかな作り方は双剣の時と変わらない。心核をそのまま刃にするのではなく、斧の根元に埋め込むような形にする。
斧刃の主材には双剣の時にも用いたバンドラード鉱を使う。ただ今回はそのまま使うのではなく、上竜骨鋼を合わせて合金にすることで色合いに変化を付ける。
多少扱いは難しくなるものの、赤みがかった銀色の刃から徐々に赤黒く変化していくグラデーションを作ることができる。
上竜骨鋼は強力な竜の骨を精錬して作ることのできる特殊な金属素材で、普通の金属よりもやや白く、硬さと粘りが両立している。素材としても申し分ない。
さらに外縁部分には、火砕竜の牙片を組み込む。牙をそのまま並べるのではなく、砕いて溶かして刃の縁に混ぜ込む。綺麗な刃ではなく少し荒れた質感にするためだ。
竜が使う武器に竜の素材を使うのはどうかと思ったけど、確か設定上ヘイルフォートみたいな意思疎通ができる竜とフィールド上にモンスターとして現れる意思疎通ができない竜は、扱いとして別種……? みたいな感じらしい。
詳しいことは分からないけど、多分問題ないはず。
金床の出力を上げ、素材を加工していく。バンドラード鉱と上竜骨鋼が混ざり合い、赤みがかった銀色から赤黒へと変わるグラデーションが生まれる。効果を選択していないからか、心核の光はまだ弱い。
柄には黒燐樹の硬材を使う。真っ黒な木材で、表面に鱗のような木目が浮かぶ素材だ。
削って加工し、分身体の両手で握れる長さと太さに調整する。そこへ竜皮の帯を巻き付け、グリップ力を高める。
斧頭は片側に大きく張り出させる。刃は綺麗な半月形ではなく、竜の顎を思わせるような鋭い曲線に。
刃の根元は分厚く、外側へ向かうほど広がり、先端部分は少し下へ垂れるように。
さらに、刃の背側へ牙系の素材を複数追加して突起を作る。
竜の背鰭や棘を思わせるような装飾だ。見た目の荒々しさはかなり増す。
最後に、覚醒効果を選ぶ。刃物としての性能が上がる[熔断]や[灼刃]、斧の重さを活かせる[火重]などいくつか候補はあったけど、今回の武器には合っていないような気がした。
そんな中で、選んだのは[暴炉]。
心核に宿る熱を武器の後方からジェットエンジンのように噴き出させる効果だ。ゲージを消費することでアフターバーナーのように爆発的な推進力を得ることもできる。制御は難しくなるが、その分だけ一撃の威力と衝撃は大きくなる効果だ。
今の形には、このくらい荒っぽい効果の方が似合う。
[暴炉]を選択すると、斧の根元に埋め込んだ心核がどくんと大きく脈打った。赤い光が刃の内側を走り、刃の背側から火の粉が舞うようになった。
装飾的に付けた牙がノズルみたいになって意外によく似合っている。
「これで完成かな」
出来上がった武器を見る。
片側だけに大きく張り出した斧刃。根元で脈打つ鍛冶竜の心核。黒い柄には竜皮が巻かれ、全体としてかなり野性的な仕上がりになっている。
普通の斧として考えるなら少しバランスが悪いけど、今回はそれでいい。整いすぎた武器ではなく、見るからに力任せで、叩きつけた相手に食い込んで斬り砕くような斧を目指した結果だ。
これなら竜にも似合うはず。
地下に移動し、分身体を再度呼び出す。斧は重すぎて持てないのでインベントリを経由して渡した。
竜が斧を両手で持つ。斧に埋め込まれた心核の赤い光が、分身体の胸の奥にある火と呼応するように脈打っている。
こちらが声をかける前に、分身体は恐竜のような形状のマネキンに向かって武器を構えた。
両手で柄を握り、巨体をわずかに沈める。斧の根元で心核が脈打ち、刃の背側に取り付けた牙状の突起から火の粉がぱちぱちと散った。
次の瞬間、分身体が踏み込む。五メートル近い巨体が片刃の大斧を振りかぶり、火が勢いよく燃えるような音とともに刃が振り下ろされる。
轟音。
竜族の膂力と[暴炉]の圧倒的な推進力が掛け合わさって放たれた一撃はマネキンを食い千切るように両断し、地面に放射状のひび割れを残した。
双剣とは比べものにならないほど一撃が重く、見た目もかなり良い。赤銅色の竜が荒々しい片刃の大斧を振るう姿は迫力があるし、[暴炉]の噴射も武器の雰囲気に合っている。
武器としては、かなりよくできている。
よくできている、はずなのに。
「……違う」
思わずそう口に出ていた。
何が違うのかは分からない。
双剣の時に感じた違和感は改善したはず。竜に似合っているし、荒々しさもある。素材の組み合わせも、覚醒効果も、最初の狙いから外れてはいない。
それでもなぜか、これでいいとは思えなかった。
「先生、大丈夫ですか? ぼーっとしてるみたいですけど……」
「あ、ごめん。大丈夫」
心配そうに声をかけてくるシダにそう返しながら、私は斧を見上げる。
悪くないどころか、かなり良い。
でも、この斧をヘイルフォートに答えとして差し出せるかと言われると、どうしても頷けなかった。
「……これも無しかな」
分身体から斧を受け取り、分解する。
何かが明確に悪いわけではない。どこかで間違えてるとも思えない。
なのに、完成にできない。
何がおかしいんだろう。
素材に戻った心核を見ながら、私は小さく息を吐いた。




