第八十九話 一本目
翌日。
ログインすると、先にログインしていたシダが駆け寄ってきた。
「おはようございます、先生! ちゃんと休めましたか?」
「うん。おかげさまで」
嘘をついた。実際は2時間ほどしか眠れていない。どうやっても上手く眠れなかったし、眠れてもすぐに起きてしまって、結局そのまま朝になってしまった。
ちゃんと休まないといけないのは分かっているけど、逸る気持ちは抑えられない。竜の試練を終わらせて、それからちゃんと寝よう。
「配信はどうします?」
「んー……やめとこうかな」
竜の試練関連の情報を隠したいというわけではないけど、ちょっと今は武器を作る方に集中したい。そっちにまで気を配る余裕がない気もするし。
SNSで今日は配信を休むと投稿し、金床へと向かった。
さて、今回の武器を作るにあたって、まずは鍛冶竜の心核について確認しておく。
見た目は赤黒い金属塊。インゴット状ではなく採掘された鉱石のような見た目だけど、すでに精錬された後のような輝きを放っている。
表面は脈打つように僅かに赤く光っていて、触れてみると熱いわけではないのに、指先の奥までじんわりと温度が伝わってくるような不思議な感覚があった。
「やっぱり分類としてはユニーク素材なんだ」
詳細を確認すると、これまでのユニーク素材と同様に特殊効果を付与できるようになっていた。
基本的に3つくらい選択肢がある中から選ぶって感じだけど、この素材はどうなんだろう。
一覧を開いてみると、そこには大量の選択肢が並んでいた。
[熔断]、[灼刃]、[過熱]、[蓄熱]、[火脈]、[融灰]、[火重]、[再鍛]――などなど。
「なんか多いな……」
想像していたよりもずっと多い。選べるのは一つだけってところは変わらないので、選ぶのが大変そう。
単純に火属性を大幅に強化するものもあれば、攻撃を当てるたびに熱を蓄積し放熱で大ダメージを与えたり、一定条件で形状を変化させたり、武器が損耗するほど火力が上がるみたいなものまである。
こうなると、鍛冶竜の心核をどういう方向性で使うかが、今回の武器製作ではかなり重要になってきそう。
特殊効果の説明を見つつ、どのような武器を作るか考える。
「まずは……双剣かな」
分身体は五メートルほど。体格のバランスは人間に近く、当然両手で武器を持つこともできる。
機動力はあるだろうし、それを活かした連撃を主体とするのも悪くないはず。
鍛冶竜の心核の効果にも、連撃と相性の良さそうなものがあった。
選ぶのは[蓄熱]。攻撃を命中させるたびに武器内部へ熱を蓄積し、溜まれば溜まるほど火属性ダメージが強化されていく。さらに溜まった熱ゲージを消費すれば、一気に大きなダメージを叩き出すこともできる。攻撃回数の多い双剣向きだ。
まずは心核を二つに分けるように加工する。素材としては一個だけど、こういう武器に使う場合は分けても問題ない。
こうするとさすがに心核だけでは武器を作れるほどの量がないので、別の素材を組み合わせる。
使うのはバンドラード鉱。色合いが比較的近く、レベルの高い素材なのでキャパシティ値も高い。火属性の効果も付くので、そもそも心核と相性がいい。
金床の出力を上げ、心核を加工する。心核は出力500で変質し、硬すぎず柔らかすぎずでかなり扱いやすい状態になった。ある程度の曲線を意識しつつ、細身の刃へと鍛えていく。
形状が出来上がったので、今度はバンドラード鉱を加工する。心核に纏わせるようなイメージで配置し、馴染ませる。心核の説明に書いてあった加工しやすいという一文は本当らしく、特に難しいこともなく刃を形作ることができた。
二振りの剣は、分身体の体格に合わせてかなり大きく作っている。人間用の剣で言えば大剣すら超える大きさだけど、分身体にとっては片手で扱えるサイズだ。
刃の中心には、心核の赤い光が脈のように走っている。デザインは結構良い感じ。
柄は太く、竜の爪でも握り込めるような凹凸を付けて調整。鍔は分身体の手元で邪魔にならないように小さくまとめる。
最後に、UNITを付与する。
一覧から[蓄熱]を選択すると、二振りの刃の内側に赤い文様のようなものが浮かび上がった。文様は脈打つように明滅し、刃の中へ沈み込んでいく。
「……よし。形にはなったかな」
微調整はできるけど、とりあえず今はこの状態で持ってもらって全体のバランスを確認したい。
地下に移動してヘイルフォートの分身体を呼び出す。
さすがに五メートル近い巨体を工房内で呼ぶわけにはいかないので。
メニューから分身体を呼び出すと、丘で見たままの姿で現れた。ヘイルフォート本体より小さくても、威圧感はすごい。隣でシダがちょっとビビってる。
分身体に双剣を差し出すと、彼はゆっくりと腕を伸ばし、二振りの剣を握って構えた。
見た目は悪くない。何ならかなり良い。
刃の内側を走る赤い光が分身体の鱗とよく馴染んでいて良い感じ。
「ちょっと振ってみてもらえる?」
そう声をかけると、分身体は少し距離をとってから、部屋の中のマネキンに対し双剣を振るった。
一撃。二撃。三撃。
刃が振るわれるたびに赤い軌跡が残り、攻撃が連続するほど剣の光が強くなっていく。[蓄熱]もちゃんと機能しているようで、一定回数を超えたところで刃が一際赤く輝き、火炎放射のような勢いで炎が吹き出した。
かなり良い感じ。良い感じではある……はずなんだけど。
「……なんか違うな」
かなり出来は良いはずなんだけど、ちょっと引っかかる部分がある。
竜が双剣を振るう動きが若干小さく見えてしまっている? 爪で戦った方がのびのびしてそうな感じがするというか、そう考えると窮屈になってるのかな。
でも竜である意味とか考え始めたらそもそも竜は生身で戦った方が強いんじゃない? って話になってくるし、そこは大した問題じゃない……はず。
特殊効果ありきで作ったのが問題? 武器として先に考えた上で、それにあった特殊効果を選ぶべき?
答えがあるわけじゃないし、うまく言語化もできない。ただ少なくとも、自分で違和感を感じている以上これを最高傑作として送り出すのはちょっと違うかも。
「うーん……これは無しかな」
双剣を分解し、素材を回収する。
武器として確定させる前だったので、素材はすべて回収できた。
思ったよりも、先は長いのかもしれない。




