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第八十六話 機神が生まれた日



「セシル! 試運転行けるか?」



 ギュスターヴが部屋のマイクにそう話すと、巨大ロボの横に立っていた青髪の男性が手を挙げて応えた。

 彼が乗り込んでいくのを見ながら、ギュスターヴが説明を続ける。



「試運転についてなんだが、エネルギー量の問題があって今は簡単な動きしかできねぇんだ。本格稼働には天魔のエネルギーを使う……つまりレイドイベントでしか使えねえ」


「なるほど……まあ一旦武器として破綻してないかが見られればいいかな」


「ああ。次のレイドは見に来てくれよ」



 しばらくすると、格納庫に低い駆動音が響き始めた。

 機兵の全身を走る青いラインに光が灯り、ゆっくりと頭部が持ち上がる。静止しているだけでも圧があったけど、実際に動き始めるとその存在感はさらに増した。



『動いた!?』

『うおおおおおおお』

『でっか』

『これ本当にプレイヤーが動かすやつ?』

『ロボアニメ始まったな』



 コメント欄が一気に加速する。


 機兵はまず右腕を軽く持ち上げた。外装に格納されていた壊天槍ディスコラプサーが展開し、多段に分かれたドリル部分が低い音を立てて前方へせり出す。

 出力を絞っているからか回転速度は控えめだけど、それでも左右交互に動く刃の構造ははっきり見えた。奇数段と偶数段が逆方向に回るたび、空気を削るような音が格納庫に響く。

 製作中にもある程度確認していたけど、特に手と干渉するようなことはなさそうで一安心。


 ドリルの回転が終わり、再度格納される。続いて、機兵は背中に装備された覇界棍メテオスラスターへ手を伸ばした。

 全長とほとんど同じくらいある六角柱状の巨大棍を引き抜く。明らかにデカいけど、特にそれでバランスを崩すようなことはなさそう。


 メテオスラスターを両手で構え、感触を確かめるように軽く振る。

 それから機兵はメテオスラスターをゆっくりと構え――その側面に並んだ噴射口が青白く光った。棍が振り抜かれ、青白い軌跡が残る。出力を大分絞っているようだけど、その威力は凄まじく、押し退けられた空気によって離れた製造室のガラスが震えるほどだった。



「問題なさそうだね」


「ああ。完璧だ」



 ギュスターヴは満足そうに頷いた。



「ところでよ。あの機兵に名前つける気はねえか?」


「名前? そういえば名前ないんだっけ」


「ああ。ウチじゃなんとなく初号機っつってたが、シリーズってよりかはワンオフの機体になるから合ってねえんだ」


「私が付けていいの?」


「俺が付けるってことになってるんだが、どうにも思いつかなくてな。まあ俺が任せるんだから問題ねえだろ」



 機兵の名前は考えてなかったな……。

 改めて格納庫に立つ機兵を見下ろす。白い装甲と、その全身を走る青い光のライン。

 右腕には壊天槍ディスコラプサー。背には覇界棍メテオスラスター。


 武器を装備したことで、ただの巨大ロボットではなく、明確な役割を持つ存在になったように見える。


 あのレイドで現れた天魔ニルンスケイラー。空に浮かんだ途方もない数の白き御使いと巨大すぎる女神像。この機兵は、それに抗うために造られた。


 青いラインを脈のように明滅させながら、この機兵は空を行き、彗星のように敵を討つ。



「……抗天機神ヴェインスターっていうのはどうかな」



 少しの間を置いて、ギュスターヴが牙を見せて笑った。



「いいじゃねえか。天魔に抗う機神、か。ウチにはぴったりだ」



 格納庫の中で、ヴェインスターは試運転を終えた。青いラインは消え、静かに立ち尽くしている。


 次に動くのはいつになるんだろう。 レイドがどのくらいの間隔で発生するのかもよく分かってないけど、明日にでも来て欲しいと思った。



――――――



 それから数日後。

 再びレイドイベントの発生が通知され、アリフラはお祭り騒ぎになっていた。


 何の準備もできなかった前回とは違い、今回はある程度情報が出ている。そのためプレイヤー達の士気は高く、たくさんのプレイヤーがレイドの対象地域に押し寄せた。


 今回は私もそんなプレイヤーたちと同じように、レイドイベントへと向かう。

 イクテュエス外殻エリア上部。金属とも石ともつかない人工島の外殻に設けられた広い足場からは、空と海、そして戦場全体が見渡せる。

 道に迷ってしまったけど、レイドが始まった直後のタイミングで到着することができた。周囲では【猛獣戦線】のメンバーたちが既に戦闘を始めている。

 前回と同じように空には白い御使いたちが現れ、遥か上空には途方もない大きさの女神像――『天魔』ニルンスケイラーの姿が浮かんでいる。



「おう、遅かったな!!」



 ギュスターヴが御使いを切り捨てながら振り返る。



「今回も操縦はセシル……うちのサブマスがやることになってる。トラブってなけりゃそろそろ来るぞ」



 その言葉と同時に、外殻上部の一角が開いた。

 そこから姿を現したのは、白と青の機兵――抗天機神ヴェインスター。格納庫で見た時とは違い、全身を走る青いラインが眩しいほどに輝いていた。


 すぐに外殻の床から、長大なカタパルトレールが展開される。

 ヴェインスターが膝を沈め、姿勢を低くした。次の瞬間、背部と脚部の推進器が一斉に点火する。

 轟音と共にヴェインスターが押し出されていき、そのままの勢いで空へと射出された。



「すご……」



 思わず声が漏れる。


 巨大な機体が空を駆け上がり、白い御使いたちの群れを突き抜けていく。その先にいたのは、上半身が人、下半身が獣の大型の御使いだった。背中に翼のような大理石の装甲を持ち、空中でゆっくりとこちらを見下ろしている。


 上昇していくヴェインスターに向け、御使いが腕を振るう。

 空中に白い光の刃が生まれ、ヴェインスターへ向かって放たれた。

 ヴェインスターは機体を傾けてそれを避け、背中からメテオスラスターを抜き放つ。


 六角柱状の巨大棍。その側面に並んだ噴射口が青白く灯り、御使いの腕を殴打した。派手なエフェクトが散り、御使いが腕を逸らす。上手く反動を制御したヴェインスターがさらに数度、今度は翼へと打撃を叩き込む。

 エフェクトが散り、大型の御使いの翼にひびが走った。


 御使いが距離を取ろうとするが、ヴェインスターは逃がさない。

 機体そのものの推進力に加え、メテオスラスターの噴射を姿勢制御にも利用して一気に間合いを詰める。巨大な棍が再び振り抜かれ、翼装甲の亀裂へ叩き込まれた。

 白い破片が空中に散る。翼の亀裂を起点に複数箇所の装甲が連鎖するように砕け、淡い光を放つ部位が露出した。


 御使いの反撃を回避しつつ、ヴェインスターはメテオスラスターを左手で持ち直す。刃の攻撃を掻い潜りながら御使いの腹部へと飛び込み、右腕を前へ突き出した。

 右腕外装が展開し、壊天槍ディスコラプサーが姿を現す。

 多段に分かれたドリルが唸りを上げ、回転を始めた。


 大型の御使いが身を捩って逃げようとするが……ヴェインスターの方が速かった。

 推進器を噴かせて一直線に突撃し、露出した腹部の弱点へディスコラプサーを叩き込む。


 ディスコラプサーの刃が回転するたび、大型の御使いの身体の亀裂から漏れる白い光が強くなっていった。

 裂傷のような赤いエフェクトが白い身体を走る。御使いは逃れようと暴れるが、その動きを許さない。最後に、青い光が一際強く輝いた。


 ディスコラプサーが弱点を穿ち抜く。

 大型の御使いの身体が内側から砕けるように崩壊し、無数の白い破片となって空へ散った。



「うおおおおおおお!!」

「すげー!! マジでやった!!」

「めちゃくちゃカッコいいじゃん!」



 周囲にいた【猛獣戦線】のメンバーたちが歓声を上げる。



「まさかこのゲームでこんなバトルが見られるなんて……!! ありがとうございます、先生!!」



 感極まったシダが私の腕を強く抱きしめながら空を指さした。

 その頭をなでつつ、私も空を見る。

 槍と棍。自分が作った武器が、あの巨大な機体の手でちゃんと戦場を動かしている。

 その光景を見て、思わず胸の奥が熱くなる。


 こんな武器を作ることになるなんて全く予想していなかったけど、この機兵――ヴェインスターの武器を作ることができて本当によかったと、心の底からそう思った。

これにて第六章終わりです。

次は終章。いったん物語に区切りが付くことになります。


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