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第八十三話 格納庫にて



 機械島イクテュエスには、未だプレイヤーが探索しきれていないエリアがかなり存在する。

 

 更に、この迷宮は今も拡張し続けている……なんて噂もあるらしい。それが本当かどうかは分からないけど、そんな噂が真実味を帯びる程度には、このイクテュエスの内部空間はごちゃごちゃとし過ぎている。

 ギュスターヴに先導されてどうにか進んでいるけど、ルートが複雑だからもう道を記憶するのは諦めてしまった。これでモンスターまで出てくるから余計に道が分からなくなる。


 曲がって、下って、また曲がって。歩き続けるうちに、前方に隔壁が見えてきた。



「よし、ここだ」



 ギュスターヴが壁の端末に触れると、低い駆動音と共にゲートが開き――

 視界に飛び込んできたのは、格納庫の中央に立つ巨大な人型ロボットだった。


 白と青を基調にした外装、全身を走る直線的なライン。10メートルは優に超えるであろうその巨体は静かに立っているだけなのに妙な威圧感があって、存在そのものが空間を占拠しているみたいに見えた。



「あれが機兵……」


「おう。こいつを一機作るのに特殊な素材が大量に必要なんで、まだこいつしかいねぇけどな」



 思わず見入ってしまったけど、ギュスターヴは話しながら慣れた様子で先へ進んでいく。私たちも慌ててその後を追った。



「そういや、ここからは配信してもいいぞ」


「え、いいの? これ結構重要な施設だと思うんだけど……」



「ああ。前提クエストは伏せるが、機兵(こいつ)の存在はもう公開しちまおうと思ってるんだ。こいつは恐らくどこかのクランが独占するようなものじゃねぇ。レイドの形式から察するに、ある程度機兵が行きわたるのが前提って感じもしたしな」



 なるほど。そういうことなら特に断る理由もないし、配信をつけることにしよう。



「じゃあ、お言葉に甘えて」



 映像と音声を再接続し、配信を再開する。

 画面の向こうでコメント欄が一気に流れ始めた。



『えっ』

『どこここ!?』

『でっか』

『うおおおおおお』

『ロボ!?』


「説明すると長くなるんだけど…………ちょっと今回あの巨大ロボ用の武器を作ることになったから」


『どういうことなの』

『これ武器職人の仕事の範疇?』

『またすごいことしてる…………』



 格納庫内の様子が見えるようにカメラを操作しつつ、格納庫脇の階段を上り、そのまま上部に設けられた製造室へと向かう。

 部屋の前面はガラス張りになっていて、格納庫に立つ機兵の全身が見えるようになっていた。


 室内には椅子と机が一組。机は表面全体が青い物質で覆われていて、近づくとわずかに光を反射して揺らめいている。水面みたいにも見えるけど、指先で触れてみるとゲルのような、少し重たい感触が返ってきた。


 机の端にあるパネルへ手を伸ばした瞬間、ピコンと電子音が鳴った。



『ISCへの新規ユーザーのアクセスを検知しました』

 

『データベースへの登録が完了しました』



 直後、机の中央がゆっくりと盛り上がった。

 青いゲルが形を変え、数秒とかからずに目の前の機兵をそのまま縮小したような立体モデルを作り上げる。

 色まで再現されているが、それだけじゃない。恐る恐る肩のあたりに触れてみると、金属装甲らしい感触が指先に返ってくる。

 本当に“そこにあるもの”として再現されているみたいだった。感触を確かめていると、パネルの表示が切り替わった。

 どうやらこの机は、ただ縮小模型を表示するだけのものじゃないらしい。素材の呼び出しから加工、配置まで、ここを通して全部やるみたいだ。



「この共有倉庫ってとこから素材を出せばいいのかな。これ、勝手に使っていいの?」


「その倉庫に入ってるものなら好きに使っていいぞ。別で使うやつは他の倉庫に保管してあるからな」



 パネルの一覧を開くと、【猛獣戦線】が用意したらしい素材がずらりと並んでいた。イクテュエス内で採集した金属系素材に、レイドで手に入れた特殊素材など、一括で管理されている。


 試しにその中から適当な金属素材を一つ選んで呼び出してみる。

 すると、格納庫の片隅に設置されていた格納棚が静かに開き、内部から鈍い銀色の素材塊がせり出してきた。同時に、机の上のゲルも盛り上がり、同じ形をした縮小モデルを作り上げる。



「おお……ほんとに出た」


『なんだこれ』

『机にも出てる!』

『連動してるのか』

『これアリフラ?』



 ゲル上に現れた素材へ手を伸ばし、そのまま少し持ち上げてみると、ガラスの向こう、格納庫側でもマシンアームが動き出し、同じ素材を少し遅れて持ち上げた。

 持ち上げた素材を少し横へずらす。格納庫内でも同じように素材が移動する。角度を変えれば向こうも傾き、机の上で軽く回せば、向こうでもアームがそれに合わせて回転した。

 タイムラグは少しだけあるが、基本的には机の上で起きたことがそのまま向こうに反映されるみたい。


 思っていたよりずっと分かりやすいシステムだ。やってること自体はかなりいつもの武器製作に近いかも。完成するもののサイズはすごいし、巨大なものは巨大なものなりのデザインってのがあるから多少考え方は変わってくるけど。



『未来すぎる』

『なんか急にロボアニメの研究室みたいになってきたな』

『横のスライダーは何?』


「スライダー?」



 確かに机に横にホログラムのスライダーが浮かんでる。試しにそれを操作してみると、机の上の素材モデルがゆっくりと拡大した。さっきまで手のひらサイズだったものが、今度は両手で抱えるくらいの大きさになる。縮尺を変える機能か。

 細かい加工をする時は拡大、全体のバランスを見る時は縮小、って感じかな。



「どうだ。できそうか?」


「うん。手順はわかったし、作ることはできるはず。ただちょっと、こういうロボット的なものに対しての知識がそんなにないからそこだけ不安かな……」


「そこは私がお手伝いできそうですね!」



 不安を口にした途端、すごい勢いでシダが身を乗り出してきた。



「実はこういうの結構好きなんですよ! なので意見を出すくらいはできると思います!」


「そうだったんだ。それなら安心だね」



 巨大ロボ用の武器製作なんて、最初はどうなることかと思った。

 でも触ってみれば案外サイズが違うだけで、やることの本質はいつもと同じだ。

 素材があって、使う相手がいて、求められる性能がある。



「じゃあ、始めようか」


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巨大ロボの武装!!ロマン!!
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