第八十話 彼岸に咲く一矢
さて、エリエザの戦鎚はかなり派手な仕上がりになったけど、今度作るのは短弓だ。
武器種が違うのはもちろん、使用者の雰囲気もかなり違う。エリエザが堂々と前に出て殴るタイプなら、狼真は後衛で継続的にダメージを与えるようなポジションになるはず。
「短弓だから要求ステータスはDEXになるけど、どのくらいまで行ける?」
「DEXとAGIの二極振りだから、ボーナスポイントを振れば……190くらいまで行けるな」
「なるほど。まあそのくらいあれば大抵のことはできそう」
素材台の上に、狼真が所有しているユニーク素材を置く。
骸灼花。花螂エルバガモールの死後に咲いた赤い花。
見た目のモチーフは彼岸花だろう。その花弁は炎のようにゆらゆらと揺らめいている。
そんな見た目でも熱を帯びているわけではなく、指先で触れてみても、熱いどころか少し冷たさを感じるくらいだ。
「で、問題はこれをどう使うかだけど」
『素材としてはちょっと小さいよね』
『なんか使いにくそうではある』
『これ剣とかだったら使いようなくない?』
『弓ならギリいける?』
「うーん……これ弦にできたりしないかな」
もちろん、花をそのまま弦にするわけではない。
骸灼花の茎を細く伸ばし、両端に花が来るような形で二輪を束ねれば、弦のような形にできる可能性はある。そうすれば弓の上下に花が来るから見た目もいい感じになるし。
壊れないよう《シルクタッチ》を使って保護し、その状態で茎を曲げたり引っ張ったりして試してみる……が。
「微妙かなぁ」
「難しいか?」
「強度は足りてそうなんだけど、弾性率がちょっと微妙かも。弦には向いてなさそう」
弦に求められるのは強度だけじゃない。弾性率、つまり伸び縮みする性質も必要になってくる。
これは矢の威力に関わってくるというより、本体に掛かる衝撃を和らげるためのもの。
この辺りもちゃんと気を付けておかないと武器ステータスに影響が出るし、耐久力の減少も早くなってしまう。
とにかく骸灼花は弦には使えない。そうなると、自ずと弓本体に使うことになる。
もう一度骸灼花を見る。赤い花弁。炎のように揺らめく形。細く、でも確かに芯のある茎。
「確か木っぽい素材があったような」
机に置かれた花螂素材の中から、木のテクスチャを持つ素材をいくつか取り出す。
花螂の蔓茎、花螂の節枝、花螂の繊維根。
名前だけ見ると植物素材そのものだけど、実際にはエルバガモールの身体から取れた素材らしい。
触ってみるとどれもかなり弓の本体として使うのにちょうど良さそうな性質を持っている。
蔓はしなやかで、枝はほどよく硬く。根は直接使うというよりもそれらをつなぎ合わせるのに適した性質を持っている。
「この辺りの素材で弓本体を作って、そこに上手いこと骸灼花を組み合わせられれば、弓から花が咲いているようなイメージで行けそう」
まずは節枝を二本、短弓用の長さに切り出す。そこへ蔓茎を沿わせ、さらに繊維根を絡ませて一本の弓身にしていく。
短弓は大弓ほどの長さはいらない。取り回しの良さが重要になる。
束ねた素材を固定し、金床の上で少しずつ反りをつける。
加工出力は320前後。強すぎると節枝が割れるし、弱すぎると蔓茎が馴染まない。
魔導コテで節の部分を軽く変質させ、ハンマーで外側から叩いて曲線を整える。
中央だけは少し厚めに残す。逆に上下の弓身は、細く、しなやかに整える。引いた時にきちんと力を溜められるよう、節枝の厚みを少しずつ削っていく。
「よし、いったんベース部分できたからちょっと構えてみて」
「分かった」
仮組みした弓を渡す。狼真はそれを受け取ると軽く構えてみせた。
小柄な体と、少し細めの短弓。見た目のバランスは悪くない。
「ちょうどいいサイズだな」
「おっけー、じゃあこれをベースに作っていこうかな」
グリップを付けるスペースを確保し、その上下に花螂の樹甲片を組み合わせていく。いい感じの木の見た目をしている素材だけどこれもれっきとした花螂の甲殻の一部らしい。
自然をイメージして植物の弓を作っていこうとしてるし、実際見た目もそういうものになってるんだけど、素材としてはカマキリの身体をつぎはぎしてるような状態で……うん。考えないようにしよう。見た目さえよければね。
生物的な曲線をイメージしながら曲げ方を調整。植物が成長していくようなニュアンスで、太さの違う枝がねじれるように配置してみる。弓の端にあたる部分は逆方向に曲げ、弓としての綺麗なシルエットを作った。
グリップ部分には鮮黒獣皮を使用。ちょうどいい黒さが木のベージュ系の色合いにマッチして、全体の雰囲気を引き締めている。
ここからはユニーク素材、骸灼花の出番だ。何輪かある骸灼花のうち、茎の長いものをそれぞれ弓の上下に配置していく。
ただぐるぐる巻きにするのではなく、木の流れに合うように、ゆるやかに巻き付くようなイメージ。さらに花弁の小さい骸灼花をアクセントとして配置する。これは茎を短くし、花を目立たせるように使う。
最後に銀霊蜘蛛の靱糸という素材を使って弦を作る。結構なレア素材だけど、その分一本だけで弓の弦として申し分ない性能を持っている強力な素材だ。
骸灼花と同じような赤になるよう糸を染める。銀霊蜘蛛の靱糸自体がある程度光を反射する艶を持っていて、赤く妖しく輝く様子がかなりマッチしている。
弓の両端に糸を掛け、張り具合を調整。
「これで弓は完成だね」
『888888888』
『かっこいー!』
『雰囲気いいな』
『フレーバーテキスト付ける?』
「その前に、今回は矢のデザインもやるよ。最近までこの仕様知らなかったんだけど、矢のデザインも作れるんだよね」
アリフラの矢は一部の特殊な矢を除き弾薬という概念がなく、使うたびに矢筒内に補充されるシステムになっている。そこで補充される矢のデザインは弓側に紐付いているようで、武器制作の段階で作成することができるのだ。
コメントで教えてもらうまで全く知らなかった。そもそも矢を消費アイテムだと思ってたし……。
「今回は仇花の効果で強化版の矢のデザインもあるから尚更デザインに差を付ける意味があるんだよね。あとそれとは別に矢に[噴射]を付けて弾速を上げるっていうのができるはずなんだけど、付けてみる? キャパシティ的には行けるんだけど使用感変わっちゃうから、狼真がやりやすい方で作るよ」
「UNITを矢自体に付けるってことか。矢が速くなるのは明確に強いし、やってみてくれ。操作感はこっちが慣れればいいしな」
「いいね。じゃあやってみるよ」
UNIT効果、[噴射]。放たれたものに短時間の追加推進を与える。
銃器とか投擲武器に付与する効果なのだろうけど、矢にも乗せられるなら相性はいいはずだ。
通常時用の矢と仇花の効果で生成される矢をそれぞれ作成する。ホワイトゴールドの鏃に赤黒い矢柄。邪魔しない程度に装飾を付けて、通常時用の矢はこれで完成。
仇花の矢に関しては通常時とベースは共通で、その上で矢羽根の部分に骸灼花を用いる。
多分仇花が発動したらUIとかで分かるとは思うんだけど、一応見た目の分かりやすさも考えてちょっと派手にしておく。いい感じだ。
最後に弓本体にチャームのような形で赤い宝石を付け、余ったキャパシティ値を埋めて……
「これで今度こそ完成」
「わーい!!」
「オレより先にエリエザが喜ぶのかよ。……でも、本当にいいな。こんなカッコいい武器になるのか」
武器を受け取った狼真が、隠しきれない喜びを顔に浮かべながら弓を眺める。
「ねえねえ、これ早速使ってみたいんだけど、できる!?」
「うん。いったん使ってもらって微調整したいし、名前付けて完成させる前に試してもらおうかな」
興奮した様子の二人をつれて、早速地下へと向かうことにした。




