第七十九話 薔薇の戴冠
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「じゃあ、まずはエリエザの武器から作っていこうかな」
花螂の劫花冠を手に取る。花弁と言っても本当の花のように薄いものではなく、多肉植物のようなしっかりとした厚みがある。簡単に曲がるような強度でもなく、金属系の素材に似た性質を持っているような感じ。
金床で柔らかくしないとハンマーに使うには形状がちょっと難しいな……と考えていると、その様子を見ていた狼真が声を上げた。
「……それ、エルバガモールの首についてたやつと同じだよな?」
「え? あ、確かに! いわれてみればそんな感じだったかも!」
「性質まで同じだとすると、これは活性化してない状態……のはず。特定の攻撃の後に一枚ずつ開いていってたな」
「なるほど。そういう部位なんだ」
散華の効果発動条件が12カウントで花弁の数と同じだったことからある程度想像はしていたけど、スタックが貯まるのと連動して花弁が変形する仕組みっぽい。
スキルを使って見てみると、やはり花弁には閉じた状態と開いた状態の二種類の形状が存在していた。
クリティカル発生時に一枚ずつ花弁が開いていき、満開になってからの攻撃で大ダメージ。
ただ、単純に満開の状態をイメージして作るというわけにもいかない。満開になるのはその一瞬だけで、ほとんどの時間、この花は閉じた状態か中途半端に開いた状態で過ごす。
つまり、閉じていても美しく、開けばさらに美しく。
花弁の仕組みと活用方法は理解したけど、問題は全体的なデザイン。
これを花の形状にするだけだと今の武器と大差ない仕上がりになる。宝石で豪華にすると言っても限度があるし。
とはいえ花が開くギミックを考えると花状のモチーフから離れられないのも事実。
「いい感じに花の要素を残しつつ、派生させたようなモチーフ……なんかないかな」
『花束とか?』
『風車みたいな感じとか』
『花畑にしよう』
『花冠にして被れるように!』
『花系のモチーフってあんま思いつかないな』
コメント欄を見つつ考える。花束はデザインそのものはハンマーに落とし込めそうだけど、花弁の大きさを考えると難しい。
風車みたいなデザインも、花の咲き方によってはそれもありな気はする。でもハンマーだしそれだと厚みが足りないかも。
他だと、花冠とか……はサイズ的にもハンマーの形状的にも難しいかな。
「……いや、できるかも?」
花冠と言って思いつくのはシロツメクサとかの花を編んで輪っかにしたやつだけど、王族が被っているような豪華な冠をベースに考えるとすれば……上手く活かせるかもしれない。
「ちょっと奇抜なデザインかもしれないから、完成イメージだけ共有」
メモ帳代わりのウィンドウを表示させて、軽く完成予想図を描く。
「大体こんな感じになると思うけど大丈夫?」
「面白い! オッケー!」
『え、どんな感じ?』
『見せてくれー!!』
『見せろー!!』
『ウオー!!!』
「ここで完成図見せたら面白くないでしょ。じゃあ製作に移るよ」
まずは花弁の加工から始めていこう。
出力を高めた金床の上に花弁を並べ、加工しやすい状態にする。加工出力400程度で曲げられるくらいの柔らかさになった。
なだらかな曲線を描くように慎重に曲げ、閉じた状態と開いた状態の差分も確認しながら、十二枚すべてを整えていく。
ここではあくまでも大まかに形を整えるだけ。のちのち微調整は必要になる。
「花弁はこれでよさそう。次は本体かな」
豪華さを演出するために武器のベースは金色の鉱石を使用したいけど、金鉱石は戦鎚に用いるには強度が足りない。重い鎚頭に耐えられる程度の硬さと柔軟さを併せ持つ金属が必要になる。
別の強力な素材と金鉱石を組み合わせて合金にするのもいいけど、今回はイヴラディウム鉱石を使用することにした。これ自体が比較的最近流通するようになった素材でキャパシティ値も高く、強度や柔軟性も申し分ない。
『イヴラディウム?』
『最近出た金系の上位素材だっけ』
『高そ~』
「え! めっちゃ高かったりする?」
「心配するほど高いものじゃないから大丈夫。採れる場所が解放されたのが最近ってだけでそのエリアの中じゃ大してレアな素材でもないから」
「ならよし!」
「……いや、ユニークの討伐報酬で相当稼いだからそもそもそんなに気にする必要ないけどな」
ユニークって討伐報酬とかもあるんだ。関連するクエストの報酬とかかな。まあ金銭的にも余裕があるのならこちらとしても気兼ねなく素材を使える。
イヴラディウム鉱石を金床に置き、出力を上げる。加工出力は750。細かく調整しながら叩き、細長い帯状に伸ばしていく。
これをある程度の長さで12本分作って、次に花弁を用意。
花弁の外周に細長くしたイヴラディウムを沿わせていく。魔導コテでイヴラディウムを柔らかくし、花弁と接着。次に花弁の根元から先端までを通るようにイヴラディウムで線を引き、中央辺りに枝分かれした棘のような意匠の装飾を施す。
「これで上手くいくかだけど……」
変形の様子を確認してみる。もしかしたら花につけた別の素材は曲がらないんじゃないかと思っていたけど、問題なくイヴラディウム部分も一緒に曲がってくれた。
確認もできたので、これと同じものをあと五枚分作成。残りの六枚にも縁取りは行うけど、それ以外の装飾は少し控えめにして差をつける。
花弁の大きさを確認しながらイヴラディウムで円形の土台を作成。土台を囲うような形で外側にリングを作り、その内側に花弁を配置。
輪の内側に花弁の下端を貼り付けるように、隙間を開けつつ一、二、三、四、五、六と並べると、ちょうど一周埋まった。残りの六枚はその内側に重ねるように配置する。
外側の六枚は大きく開くように。内側の六枚は、中央に置くパーツを包み込む想定で並べる。
「いい感じ。中央に置く重りなんだけど……エリエザは要求STRどのくらいがいい?」
「調整すれば250まで平気!」
「結構あるね。なら相当重くしても平気かな」
花弁に囲まれた中央部に重淵鋼を配置。これはとにかく重さが必要なときに使う鉱石で、名前からも想像がつくと思うけどとにかく重い。これを使うだけで要求STRが跳ね上がるものの、武器ステータスの伸びもいいのでSTRに特化させてるようなプレイヤー用の武器なら使えるだけ使っていいような素材になっている。
完成予想ステータスを見ながら重さを調整。このあとも装飾などは追加するので余裕を見ながら切り出して、花弁の変形後に見えてもいいように外側をイヴラディウムでコーティング。ある程度側面に装飾も付け、常に見える上部には花螂素材の大きな青い宝石――ゲンティアナイトを配置する。
こうして出来上がった重り部分を、エリエザに手伝ってもらってなんとか花弁の中心部に配置することができた。
『この形状って……』
『王冠ってことか!』
『なるほどね』
ここまで作るとさすがに何を作ってるのか分かったみたい。
この時点で結構いいかんじのシルエットになってるので、ここからは細部を詰めていく。
青い宝石を輪や花弁の側面に並べ豪華さを演出。イヴラディウムの装飾も派手に足していき、これでかなり王冠らしい見た目になった。
「すご~!! これ持ってもいい?」
「いいよ。重いから気をつけて」
エリエザは王冠をひょいっと持ち上げて頭上に掲げた。王冠は頭のサイズよりも巨大なのでかぶってる感じにはなってないけど、エリエザの装備の色合いも含めていい感じの色合いにまとまってるのを確認できた。
というかめちゃくちゃ重いのにそんな持ち上げ方できるんだ……。
それはともかく、柄の部分を作ってしまおう。
ベースは花螂の鎌脚殻という素材。かなり直線的な形だし、削って整えればいい柄になる。
エリエザの背丈からちょうどいい長さを計算し、調整。出来上がったベースに瑠璃鱏の靱皮を巻き付けてグリップ力を高める。
「そういえば叛く鉄の薔薇みたいに反動ダメージあった方がよかったりする?」
「あ~、今はスキルで結構削れるようになったからなくて大丈夫! 代わりに逆境系の効果がついてるとありがたいかな!」
エリエザは狼真の頭に王冠を乗せようとしながらそう答えた。乗せたら潰れるんじゃない……?
ちなみに逆境とはプレイヤーのHPが低下するほど火力が上がる効果のことで、運用が難しい分火力の伸びがいいらしい。それ系の効果がつく素材はいくつか心当たりがあるけど……今回はインドミタブルストーンというアイテムを使う。
「逆境付与なら、この武器に合うのはこれだね」
『石?』『なんか普通の石にしか見えないけど』
コメントの反応をよそに、私はインドミタブルストーンをグラインダーで削っていく。
表面を薄く削っていくと、その内側に存在する透き通った黄色い宝石が明らかになった。
「磨けば光る、不屈の意思…………完全に言葉遊びなんだけど、まあこれで逆境は付くよ」
『不屈の意思?』
『インドミタブルって不屈って意味なんだよね』
『不屈の石ってことなのこれ!?』
『そういうことだったんだ……初めて知った』
削ったインドミタブルストーンを柄の目立つ位置に配置。これで柄が完成した。
「よし。じゃあエリエザ、王冠の下の部分をこっちに向けて」
「? 分かった!」
エリエザが構えた王冠に向け、柄を突き刺す!
あらかじめ付けておいた窪みに柄が噛み合って、これで完全にハンマーの形になった。最後に接合部分を補強し、全体のバランスを見ながら装飾を整えて…………
「よし、これで完成」
「やったー!! ありがと~!!」
『王冠だ!!』
『おおおお』
『8888888888888』
『なんかすごい見た目になってるけどかっこいいな……』
『女海賊が薔薇モチーフの王冠型ハンマーをぶん回しながら戦う絵面すごそう』
『でも似合うんだろうな』
飛び跳ねて喜ぶエリエザにハンマーを持たせてみる。今回のデザインは言ってしまえば王冠に棒を突き刺したようなデザインになるわけだから結構奇抜で正直似合うか心配だったけど……かなり似合ってる。
持ち手の部分とか微調整できそうなところはあるけど、あとでテストしてもらってから調整しようかな。
「じゃあ名前とフレーバーテキストを……と言いたいところなんだけどパッと名前が思いつかないから、先に狼真の武器を作ろうかな」
「ん、分かった。よろしくな」
次は植物系の短弓。骸灼花の使い方を思案しつつ、私は次の製作に取りかかったのだった。
ちなみにあと18話くらいでいったんメインストーリーは完結する想定です。




