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願い星ー宇宙を駆ける王位継承レース  作者: ネコ雲


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22/25

言葉


 通路をいくつも曲がる。


 地下街の中心から離れるにつれて、人の姿は少なくなっていった。


「……まだ追ってくる」


 ゆきが振り返る。


 遠くから、複数の足音が響いていた。


「急ごう」


 サクラに促され、二人はさらに足を速める。


 臭い玉をぶつけられてから、ずっと追われ続けている。


「本当に最悪……」


 ゆきが自分の服をつまんだ。


「これ、いつまで残るの?」


「分からない」


 サクラが苦笑する。


「でも、今は逃げることを考えよう」


「分かってる」


 ゆきは鼻を押さえながら頷いた。


「……絶対に許さない」


 二人は次の角を曲がった。


 その先から――


 三人の男女が歩いてくる。


 一人は長い髪の女性。


 その隣には、大柄な男。


 もう一人は、少し小柄な少年だった。


「……人がいる」


 ゆきが足を緩める。


 サクラも前方へ視線を向けた。


 しかし、その直後――


「いたぞ!」


 背後から盗賊の声が響いた。


「逃がすな!」


 ゆきとサクラが振り返る。


 通路の向こうから、盗賊たちが走ってくる。


 その姿を見た盗賊たちは、前から来る三人にも気づいた。


「……!」


 一瞬、足が止まる。


 盗賊たちは警戒するように、三人を見た。


 セリアも足を止めた。


 目の前には、追われている二人。


 その後ろには、二人を追ってきた盗賊たち。


 そして――


「……何か臭いな」


 セリアが呟いた。


 ゆきの顔が固まる。


 セリアは二人と盗賊たちを見比べた。


 追われていること。


 盗賊たちが何かを投げたような跡が、二人の服に残っていること。


 そこから漂う強烈な臭い。


 状況を察したセリアが、盗賊たちへ目を向ける。


「なるほど」


 そして、二人へ声をかけた。


「女の子をこんなに臭くするなんて、可哀想じゃないか」


「……やっぱり」


 ゆきが俯く。


「私たち、臭いんだ……」


 サクラもわずかに肩を落とした。


「いや、そういう意味じゃなくて!」


 セリアが慌てて手を振る。


「この人たちに何かされたんだろうなって……」


 大柄な男が呆れたように口を挟んだ。


「今のはセリアが悪い」


「うっ……」


 セリアが目を丸くする。


「……ごめん」


「やっぱり臭いんだ……」


 ゆきがさらに落ち込む。


「だから違うって!」


 セリアが困ったように笑う。


 少年が小さくため息をついた。


「セリア、説明するほどややこしくなってる」


「そうかな?」


「そうだよ」


 セリアが首を傾げる。


 サクラは思わず苦笑した。


 その間にも、盗賊たちが距離を詰めてくる。


「どけ!」


 一人が怒鳴った。


「俺たちは、その二人に用がある!」


 セリアは盗賊たちを見た。


「そういうこと」


 そして、二人へ振り返る。


「追われてるんだね?」


「はい」


 サクラが頷く。


「だったら――」


 セリアが一歩前へ出た。


「ここは一緒に戦おう」


 ゆきが驚く。


「いいんですか?」


「もちろん」


 セリアが笑った。


「人数は多い方がいいからね」


 ゆきが頷く。


「お願いします」


 サクラも背中から光の羽根を浮かせる。


「私も戦います」


「うん」


 セリアが頷いた。


「じゃあ、いこう」


 盗賊たちが一斉に駆け出した。


 先頭の男がセリアへ拳を振り上げる。


 セリアは拳の軌道を見極め、身体をわずかに横へずらした。


 拳が頬をかすめる。


「止まれ」


 短い言葉に心気を乗せる。


 男の身体が、ぴたりと止まった。


「……!」


 動けるのは、ほんの数秒。


 だが、それだけあれば十分だった。


「今!」


 ゆきが男の足元へ狙いを定める。


 心気を一点へ集め、空気中の水分を固めるイメージを浮かべた。


 パキンッ!


 男の足元が一瞬で凍りつく。


「うわっ!」


 足を取られ、男が体勢を崩す。


 その横を、別の盗賊が駆け抜けた。


「こっちは任せて!」


 サクラが羽根を放つ。


 真っ直ぐ飛んだ羽根が、男の目前で軌道を変えた。


 右へ。


 さらに背後へ。


「何だ、こいつ!」


 男が振り返る。


 羽根はその動きを追うように回り込み、逃げ道を塞いだ。


 男が横へ飛ぶ。


 その先へ、羽根が先回りする。


「くそっ!」


 男が腕で羽根を払おうとした。


 その瞬間――


「お座り」


 セリアの声が響いた。


 男の身体が、ストンとその場へ腰を落とす。


「……本当に座った」


 ゆきが目を丸くする。


「うん」


 セリアは何でもないように頷いた。


「今のうちだよ」


「分かった!」


 ゆきが再び狙いを定める。


 男の足元へ心気を集中させる。


 パキンッ!


 氷が地面を覆い、両足を固定した。


「これで動けない!」


 ゆきが笑う。


 サクラも羽根を引き戻す。


「いいね」


 セリアが二人を見る。


「二人とも、息が合ってる」


「貴女の命令があるからです」


 サクラが答える。


「でも、私の命令は長く続かないからね」


 セリアは次の盗賊へ視線を向けた。


「二人がすぐ動いてくれると助かるよ」


 その瞬間、別の盗賊が突っ込んでくる。


「危ない!」


 ゆきが叫んだ。


 セリアが横へ跳ぶ。


 拳が頬のすぐ横を通り過ぎた。


「止まれ!」


 セリアが言葉を放つ。


 男の身体が、一瞬だけ止まった。


 しかし――


「……っ!」


 すぐに動き始める。


「もう効いてない!」


 ゆきが驚く。


「強い相手には、すぐ消されるんだ」


 セリアが距離を取る。


「でも、一瞬あればいい」


 男が再び踏み込んだ。


 その前へ、サクラの羽根が飛び込む。


「こっち!」


 羽根が男の腕へ迫る。


 男が避ける。


 だが、その動きによって足元が空いた。


「そこ!」


 ゆきが狙いを定める。


 パキンッ!


 男の片足が凍りついた。


「うわっ!」


 身体が傾く。


 そこへセリアが踏み込む。


「お座り」


 男の身体が、その場へ腰を落とした。


 セリアは少し嬉しそうに笑う。


「今度はちゃんと座った」


「そこ喜ぶんだ……」


 ゆきが苦笑する。


 サクラも思わず笑った。


 だが――


 男はすぐに立ち上がろうとした。


「まだ動ける!」


 セリアが驚く。


 言霊の効果が切れた。


 男が腕を振る。


 サクラの羽根が割って入り、その拳の軌道を逸らした。


「今!」


 ゆきがもう一度狙う。


 今度は足だけではない。


 男が踏み込もうとする場所へ、狙いを定める。


 パキンッ!


 床の一部が凍りついた。


「くっ!」


 足が滑る。


 男の身体が崩れた。


 セリアがその隙を逃さない。


「止まれ」


 今度は短く、鋭く。


 男の動きが一瞬止まる。


 サクラの羽根が背後へ回り、逃げ道を塞ぐ。


 ゆきが氷を足元へ重ねる。


 男は完全に動きを封じられた。


「よし!」


 ゆきが拳を握る。


 セリアが二人を見る。


「上手いね」


「隙を作ってくれたおかげです」


 サクラが笑う。


「私一人だと、長くは止めておけないからね」


 セリアは肩をすくめる。


「だから、二人が合わせてくれると助かるよ」


 ゆきも頷いた。


「分かった」


     ◇


 少し離れた場所では、大柄な男と少年が残った盗賊たちを相手にしていた。


「こっちは俺たちがやる」


 大柄な男が前へ出る。


「逃がすなよ、ノア」


「分かってる」


 少年――ノアが頷いた。


 大柄な男――ガルドが腕を構える。


 盗賊が殴りかかってきた。


 ガルドは腕で受け止め、そのまま相手を押し返す。


「はあっ!」


 ドンッ!


 拳が腹へ入り、盗賊が後方へ吹き飛んだ。


「ガルド、やりすぎないでよ」


 セリアが声をかける。


「分かってる」


 ガルドが答えた。


「お前は人の心配より、自分の命令を心配しろ」


「何で?」


 セリアが首を傾げる。


 ノアが苦笑する。


「相変わらずだな」


「そう?」


 セリアは不思議そうな顔をした。


 その間にも、最後の盗賊が逃げようとした。


「待って!」


 ゆきが追おうとする。


 だが、サクラが腕を掴んだ。


「待って」


「え?」


「この先に何があるか分からないよ」


 サクラが逃げていく盗賊を見る。


「追うより、ここで止めた方がいい」


「……うん」


 ゆきが足を止める。


 盗賊はそのまま地下街の奥へ逃げていった。


 セリアが二人のところへ戻ってくる。


「二人とも、大丈夫?」


「はい」


 サクラが頷く。


「ゆきも?」


「うん」


 ゆきは頷いた。


 そして――


「……でも」


 ゆきが自分の服を見る。


「やっぱり臭い」


 サクラも自分の服へ視線を落とした。


「消臭玉があればいいのに」


「消臭玉?」


 セリアが首を傾げた。


「……あ」


 何かを思い出したように、セリアが荷物を探る。


「そういえば、持ってた」


 取り出したのは、小さな丸い玉だった。


「これ」


 サクラが受け取る。


「消臭玉……」


「使ってみて」


 二人が消臭玉を使う。


 すると――


「……あ」


 ゆきが自分の服の匂いを確かめる。


「臭くない」


「本当?」


 サクラも確認する。


「うん。もう大丈夫」


「よかった……」


 ゆきがほっと息を吐く。


「ありがとうございます」


 サクラが頭を下げる。


「どういたしまして」


 セリアは嬉しそうに笑った。


「持っててよかった」


「助かったよ」


 ゆきも笑う。


 セリアは満足そうに頷いた。


 その横で、ガルドとノアが顔を見合わせた。


「……そこなんだよな」


「何が?」


 セリアが首を傾げる。


「いや、何でもない」


 二人が同時に答えた。


 セリアは不思議そうな顔をした。


 ゆきとサクラは顔を見合わせる。


「……この人、天然なんだね」


「うん」


 二人は小さく笑った。

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