新たな戦い方
ノクティアの町外れ。
こうきたちが連れていかれたあとも、サクラとゆきは二人で盗賊の足跡を追っていた。
土の上には、いくつもの靴跡が残っている。
「まだ続いてるね」
ゆきが足元を見ながら歩く。
「うん。こっちで間違いないと思う」
サクラも周囲を警戒しながら頷いた。
しばらく進むと、町外れに一軒の古びた建物が見えてきた。
「……あそこかな?」
ゆきが立ち止まる。
建物の周囲には人の姿がない。
それでも、入口付近には複数の足跡が残っていた。
「入ってみよう」
「うん」
二人は建物へ近づいた。
扉は少しだけ開いている。
中へ入ると、床の奥に地下へ続く階段があった。
「地下?」
二人は顔を見合わせる。
「行こう」
サクラが先に階段を下りた。
「ちょっと待ってよ」
ゆきも後を追う。
階段を下りるにつれて、人の声が聞こえてきた。
「……誰かいる」
「うん」
二人は足音を抑えながら進んだ。
階段を下りきった先には――
「……すごい」
ゆきが目を丸くした。
そこには、巨大な地下街が広がっていた。
通路の両側には店が並び、様々な種族の人々が行き交っている。
武器を扱う店。
宇宙船の部品を並べた店。
食料を売る店。
見たこともない機械を扱う店まである。
「地下にこんな街があるの?」
「この星では普通だよ」
サクラが答える。
「地上だけじゃなく、地下にも街が広がっているから」
「そうなんだ……」
ゆきは感心しながらも、すぐに周囲へ目を戻した。
「足跡は?」
「こっち」
サクラが指差す。
二人は人混みの中へ入っていった。
足跡は地下街の奥へ続いている。
店が少なくなるにつれて、人通りも減っていく。
やがて、倉庫のような建物が並ぶ場所へ出た。
「ここまで来ると、静かだね」
「うん」
サクラが足を止める。
目の前の建物。
入口には、町で盗まれたものと同じような荷物が積まれていた。
「……ここだね」
二人は物陰から中を覗く。
中には数人の男たちがいた。
「今回の仕事、かなり儲かったな」
「これだけあれば、しばらく遊んで暮らせるぜ」
「それにしても――」
一人の男が笑う。
「さっき地上で見かけた二人、珍しい種族だったな」
「だよな。この星じゃ、あんな種族は滅多に見ない」
ゆきとサクラが顔を見合わせる。
「……私たちのこと?」
ゆきが小声で尋ねる。
「たぶん」
サクラも小さく答えた。
「捕まえたら、かなりの値段になるんじゃないか?」
「売るってこと?」
「そういうことだ」
男たちが笑う。
「まあ、子供だけどな」
「もっと大人の女性なら、もっと――」
「……」
ゆきの眉がピクッと動いた。
サクラが横を見る。
「ゆき?」
「……子供で悪かったわね」
「え?」
ゆきが一歩前へ出る。
「こんな話、聞いてられない!」
「ゆき、待って!」
サクラが止めるより早く、ゆきが手を前へ出した。
ヒュンッ!
氷の塊が飛ぶ。
バキンッ!
「ぐあっ!」
よそ見をしていた男の顔へ、氷が直撃した。
「何だ!?」
「誰だ!」
男たちが一斉に振り返る。
ゆきとサクラの姿を見つけた。
「あいつらだ!」
「捕まえろ!」
二人はすぐに走り出した。
「待て!」
「逃がすな!」
盗賊たちが後ろから追ってくる。
二人は地下街の通路を駆け抜けた。
角を曲がる。
その先にも盗賊がいる。
「前にもいる!」
「戻ろう!」
二人が引き返す。
右へ、左へと逃げる。
それでも盗賊たちは追ってくる。
「もう、どこへ逃げてもいるじゃん!」
ゆきが息を切らす。
「数が多いね!」
サクラも後ろを確認する。
その瞬間――
ヒュッ!
何かが飛んできた。
「ゆき!」
サクラが叫ぶ。
だが、避けきれない。
ポンッ。
黒い玉が、ゆきの背中へ当たった。
「……何これ?」
次の瞬間、玉が弾けた。
パァンッ!
黒い液体が服へ飛び散る。
「きゃっ!」
二人は思わず顔を背けた。
それでも足は止めない。
少し走ったところで、ゆきが鼻を押さえた。
「……くさっ!」
「何これ……!」
サクラも顔をしかめる。
「臭い玉だと思う」
背後から盗賊たちの笑い声が聞こえた。
「それで逃げても無駄だ!」
「臭いが残る!」
「どこへ逃げても追えるぞ!」
サクラが服についた液体を見る。
「追跡用なんだ……」
「こんな臭いをつけて……」
ゆきの目に涙が浮かぶ。
怒りで身体が震えた。
「絶対に許さない!」
サクラも盗賊たちを見る。
「だったら、ここで止めよう」
「うん!」
二人は足を止めた。
盗賊たちが追いついてくる。
「逃げるのをやめたぞ!」
「囲め!」
男たちが二人を取り囲んだ。
ゆきが両手を前へ出す。
「今度は、こっちから!」
冷気が一気に広がった。
地面が白く染まり、盗賊たちの足元を氷が覆っていく。
「うおっ!」
「足が!」
何人かの足が凍りついた。
しかし――
バキッ!
一人が足を振り下ろす。
薄い氷が砕けた。
続けて別の男も足を動かす。
バキンッ!
氷が割れる。
「……!」
ゆきが目を見開いた。
広い範囲へ力を広げた分、氷が薄い。
これでは止められない。
「だったら……」
ゆきの視線が盗賊の足へ向いた。
今度は狙う場所を絞る。
一人の足元だけへ心気を集中させ、空気中の水分をそこへ集めるように意識した。
「……そこ!」
パキンッ!
「なっ!?」
盗賊の足元が一瞬で凍りついた。
「動けねえ!」
男が必死に足を引く。
だが、今度の氷は簡単には割れない。
「できた……!」
ゆきの表情が明るくなる。
すぐ隣の男へ狙いを移す。
心気を一点へ集中させ、空気中の水分を固める。
パキンッ!
「うわっ!」
また一人の足が凍りついた。
「何だ、この氷!」
盗賊たちが慌て始める。
ゆきは息を整えながら、次の標的へ狙いを定めた。
まだ一度に何人も止められるわけではない。
それでも、狙った場所へ心気を集中させれば、相手の動きを止められる。
「これなら……!」
◇
サクラは盗賊たちの動きを見ていた。
背中の羽根を一枚飛ばす。
ヒュンッ!
狙った男の腕へ、正確に命中した。
「ぐっ!」
男が顔をしかめる。
しかし、そのまま動いている。
サクラは眉を寄せた。
もう一枚。
今度は肩へ当てる。
ヒュンッ!
「痛っ!」
男は腕を押さえたが、戦えなくなるほどではない。
「どうした!」
別の盗賊が笑う。
「その羽根、当たっても大したことないぞ!」
サクラは羽根を見つめた。
羽根が削れるのは、相手のゼウス。
目の前の盗賊たちはゼウスを使っていない。
「……そういうことか」
なら、別の攻撃が必要になる。
一人の盗賊がサクラへ突っ込んできた。
「捕まえたぞ!」
サクラは右手を前へ伸ばす。
心気が集まり、巨大な拳が形を作った。
「これなら!」
拳が男へ向かって飛ぶ。
だが――
「遅い!」
男が身体を横へずらした。
巨大な拳が男の横を通り過ぎる。
ドゴンッ!
拳が壁へ激突し、壁の一部が砕けた。
「そんな遅いパンチが当たるか!」
「……!」
サクラが悔しそうに拳を見る。
「キィ~……!」
羽根なら当てられる。
でも、羽根では相手のゼウスを削るだけ。
拳なら身体へ攻撃できる。
けれど、今度は速度が足りない。
サクラの視線が羽根へ戻った。
羽根は速い。
しかも、自分の意思で自由に操れる。
なら――
羽根を飛ばし、相手へ届く直前に形だけを変えればいい。
鋭い羽根ではなく、細い紐のように。
相手の身体へ巻きつく形へ。
「……これなら、捕まえられる」
サクラが羽根を一枚飛ばす。
ヒュンッ!
男が身体を傾ける。
羽根が横を通り過ぎる。
「外した!」
男が笑う。
だが、サクラは羽根を操った。
空中で向きを変え、もう一度男へ迫らせる。
「何だ!?」
男が慌てて避ける。
羽根は男の横をすり抜けた。
まだ、形を変えるタイミングが合わない。
「もう一度……!」
サクラは羽根を戻し、再び飛ばす。
今度は相手へ届く直前に形を変えようとする。
だが――
「くっ!」
間に合わない。
羽根が男の身体をかすめて通り過ぎる。
サクラは悔しそうに唇を噛んだ。
「難しい……」
それでも諦めない。
羽根の速さを活かすなら、あとは形を変えるタイミングだけだ。
そのためには、もっと心気を正確に操らなければならない。
サクラは盗賊たちを見た。
走り回り疲れている。
最初よりも動きが鈍くなっていた。
「……体力」
サクラが呟く。
ゼウスを使っていなくても、人は疲れる。
疲れれば動けなくなる。
でも――
「体力って……何なんだろう」
心気なら分かる。
自分の中にもある。
相手のゼウスなら、羽根で触れることで削れる。
けれど、体力は違う。
「何を削れば……疲れるの?」
サクラは盗賊たちを見つめた。
まだ答えは分からない。
それでも、もし体力そのものを削ることができれば――
ゼウスを持っている相手にも。
持っていない相手にも。
自分の力を届かせられるかもしれない。
「……見つけたい」
サクラは前を向いた。
◇
「サクラ!」
ゆきの声が響いた。
「こっち!」
ゆきが盗賊の足を凍らせる。
サクラもその隙に走った。
盗賊たちが追ってくる。
「まだ来る!」
「うん!」
二人は走りながら互いを見る。
ゆきは、広い範囲ではなく狙った場所へ心気を集中させることで、盗賊の動きを止められるようになった。
サクラは、羽根の速さと形をどう組み合わせればいいのかを考え続けている。
「もっと正確にする」
ゆきが前を向く。
「私も、もっと上手く操る」
サクラも頷いた。
遠くから盗賊たちの声が響く。
「いたぞ!」
「こっちだ!」
二人は走る。
それぞれの力に足りないものを考えながら、次の戦いへ向かっていった。




