五人の決意
「宇宙から来たって、君は宇宙人なのか?」
こうきの問いに、少女は真剣な表情で答えた。
「君たちからみたらそうなるのかな」
「宇宙人が何しにきたんだ?」
「宇宙人じゃなくて私はサクラ。宇宙の王の娘よ」
「宇宙の王……?」
ひろきが目を丸くする。サクラはうなずいた。
「お父さんは、宇宙の王だったの。でも、寿命で亡くなったわ」
その言葉に、四人は黙って耳を傾けた。
「お父さんが亡くなったことで、次の王を決めるレースが始まるの。願い星と呼ばれる巨大な鉱石が砕けて、たくさんの星の雫石になった。その石を集めるのが、レースの目的よ」
「集めて、どうするんだ?」
みずきが尋ねる。
「星の雫石を集めて、王の居城がある星へ最初にたどり着いた者が、次の王になるの」
「へえ! 宇宙の王か! すげえな!」
ひろきが目を輝かせた。だが、サクラの表情は晴れなかった。
「レースでは、星の雫石を奪ったり、相手をだましたり、敵を倒したりすることも認められているわ。簡単な旅じゃないの」
サクラは四人の顔を順番に見た。
「相手がどんな力を持っているのかも分からない。危険な目に遭うことだってあるわ」
「なるほどな……」
こうきは手の中の星の雫石を見つめた。
盗みも、裏切りも、戦いもあるレース。世界一の怪盗を目指すこうきにとって、聞くだけで心が躍る話だった。
「俺、参加したい」
「こうき!?」
ゆきが驚いて声を上げる。
「だって面白そうじゃん。宇宙中に星の雫石があるんだろ? それを集めるなんて、怪盗の腕の見せどころじゃないか!」
「そんな理由で決めていいの!? 危険な旅になるって、今聞いたばかりでしょ!」
「分かってるって。でも、行きたいんだよ」
こうきは手の中の石を握り直した。
世界一の怪盗になる。その夢に近づけるかもしれない。何より、まだ見たことのない宇宙が、こうきの好奇心を刺激していた。
「俺も行く!」
ひろきが勢いよく手を上げた。
「宇宙なんて行ったことないし、どんなところなのか見てみたい!」
「俺は強い相手と戦いたい」
みずきも静かに言った。
サクラは目を見開いた。
「本当に……参加するつもりなの?」
「もちろん!」
ひろきは迷いなく答えた。
ゆきは、そんな三人を見回した。
「まったく……。三人とも、危険だって分かってるの?」
「分かってるよ」
こうきは、いつもの調子で笑った。
「でも、行くって決めたんだ」
ゆきはすぐには答えなかった。
宇宙で何が待ち受けているのかは分からない。今までのように、四人で気軽に遊びに行くのとはわけが違う。
それでも、三人が行くと言うのなら、自分だけ地球に残るわけにはいかなかった。
「……私も行くわ」
「ゆき!」
「三人だけじゃ、何をしでかすか分からないもの」
ゆきは呆れたようにため息をついた。
「危なくなったら、私が止めるから」
「ゆき、それどういう意味だよ!」
「そのままの意味よ」
こうきが口を尖らせ、ひろきが笑う。みずきも小さく息を吐いた。
いつもの四人のやり取りに、サクラの表情も少し和らいだ。
「みんな、本当にありがとう」
サクラは四人に向かって、深く頭を下げた。
「危険なレースなのに、一緒に来てくれるなんて……」
「まだ何も始まってないだろ?」
こうきは照れ隠しのように笑った。
「それに、俺たちが行きたいから行くんだ。気にするなよ」
「そうそう! 宇宙に行けるなんて楽しみだしな!」
ひろきも笑顔で続けた。
サクラは顔を上げ、四人を見つめた。
「うん。みんな一緒に行こう」
こうして五人は、宇宙の王位継承レースに参加することを決めた。
◇
しかし、宇宙へ向かう方法も、宇宙船もない。ひとまず五人は、翌日また集まって準備を考えることにした。
そして翌日。
五人が学校裏の山に集まっていると、一人の男が姿を現した。
黒い服をまとった、大柄な男だった。
「お前たちが星の雫石を持っている連中か」
男の視線が、こうきの手元へ向けられる。
「その石を渡せ」
「いきなり何だよ、おっさん」
こうきが答えると、男は一歩踏み出した。それだけで、周囲の空気が変わった。
ひろきの顔から笑みが消える。みずきも男を見据え、自然と身構えた。
サクラが小声で告げる。
「気をつけて。こいつ、強い……!」
「へえ。そんなに強そうに見えるか?」
その時、男が一瞬で距離を詰めてきた。
「なっ――!」
男の拳が、ひろきの腹にめり込む。
「ぐはっ!」
ひろきの体が吹き飛び、背後の木に激突した。
「ひろき!」
ゆきが叫ぶ。
「次はお前たちだ」
男は拳を構えたまま、淡々と言った。
「ゼウスも知らないような連中が、レースに参加するつもりか?」
「ゼウス……?」
こうきが聞き返す。
「誰もが生まれながらに持っている力だ。心の強さと意志によって、その力は大きくなる」
男の体から、ただならぬ気配が立ち上る。
「力の使い方も知らないお前たちに、星の雫石を持つ資格はない」
「そんなの、やってみなきゃ分からないだろ!」
こうきが飛び出す。しかし、男は軽々と攻撃をかわした。
「遅い」
男の拳が、こうきへ迫る。
「こうき!」
ゆきの目の前で、こうきに向かって拳が振り下ろされる。
避けて。
そう思ったときには、こうきのすぐ目の前まで拳が迫っていた。このままでは、こうきがやられてしまう。
嫌だ。
こうきが傷つくところなんて、見たくない。
助けなきゃ――!
「こうき、危ない!」
ゆきは、とっさに手を伸ばした。
何かを考える余裕などなかった。ただ、こうきを守りたい。その一心だった。
その瞬間、ゆきの周囲の空気が急激に冷え込んだ。伸ばした手の先で、空気中の水分が凍りついていく。
バキバキバキッ!
こうきと男の間に、巨大な氷の盾が出現した。
ゴォンッ!
振り下ろされた拳が盾にぶつかり、鈍い音が山に響き渡る。
こうきは、目の前に現れた氷の盾を見つめた。
「な、何だ……?」
男もわずかに目を細める。
サクラは驚いた表情で氷の盾を見つめていた。
「空気中の水分を一瞬で凍らせたの……? これが、ゆきのゼウス……?」
ゆき自身も、何が起きたのか分かっていなかった。
ただ、こうきが無事なのを見て、ほっとしたのも束の間――。
「……あれ?」
急に体から力が抜けた。足に力が入らない。
ゆきの視界が揺れ、膝が崩れ落ちる。
「ゆき!」
こうきが駆け寄り、倒れかけた彼女を抱き止めた。
ゆきは何も答えない。意識を失っていた。
「くそっ……!」
こうきは、ゆきを抱きかかえたまま男を睨みつけた。
サクラは男の前へ出た。
「あなたの力、奪わせてもらうわ!」
サクラの周囲から羽根が舞い、男へと向かっていく。羽根が触れるたび、男の力が少しずつ奪われていった。
「ちっ……小細工を!」
男がサクラへ向かおうとする。
「させるか!」
ひろきが木から身を起こし、再び男へ飛びかかった。みずきも横から蹴りを放つ。
こうきはゆきを安全な場所へ寝かせると、二人に続いた。
三人とサクラが力を合わせ、男へ攻撃を仕掛ける。しかし、男はなおも圧倒的な力を見せつけた。
「これで終わりだ」
男の体から、先ほどとは比べものにならない力が膨れ上がる。
次の瞬間――。
「そこまでにしておけ」
静かな声が響いた。
男が顔を上げる。
近くの木の枝に、白い髭をたくわえた老人が立っていた。
「……お前か」
男は老人を睨むと、舌打ちした。
「今日は見逃してやる」
そう言い残し、男はその場を去っていった。
五人は、突然現れた老人を見つめる。
「あなたは……?」
サクラが尋ねると、老人は穏やかに笑った。
「ただの旅人じゃよ」
それだけ告げると、老人の姿もまた、いつの間にか消えていた。
◇
「う……ん……」
しばらくして、ゆきが目を覚ました。
「ゆき! 大丈夫か!?」
こうきが顔を覗き込む。
「私……どうなったの?」
「ゆきが氷の盾を出して、俺を助けてくれたんだ」
こうきは、ゆきの顔を見つめた。
「ありがとな。今度は俺が守ってやる」
ゆきは一瞬目を丸くしたあと、すぐに顔をしかめた。
「何言ってるのよ。私が強くなって、こうきを守ってあげるわよ」
「ははっ、どっちが守るんだよ!」
ひろきが笑い、サクラも二人を見て微笑んだ。
みずきは、去っていった男の方向へ視線を向けていた。
先ほどの戦いで、自分たちの力不足は嫌というほど思い知らされたのだった。




