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願い星ー宇宙を駆ける王位継承レース  作者: ネコ雲


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2/25

五人の決意



「宇宙から来たって、君は宇宙人なのか?」


 こうきの問いに、少女は真剣な表情で答えた。


 「君たちからみたらそうなるのかな」


 「宇宙人が何しにきたんだ?」


「宇宙人じゃなくて私はサクラ。宇宙の王の娘よ」


「宇宙の王……?」


 ひろきが目を丸くする。サクラはうなずいた。


「お父さんは、宇宙の王だったの。でも、寿命で亡くなったわ」


 その言葉に、四人は黙って耳を傾けた。


「お父さんが亡くなったことで、次の王を決めるレースが始まるの。願い星と呼ばれる巨大な鉱石が砕けて、たくさんの星の雫石になった。その石を集めるのが、レースの目的よ」


「集めて、どうするんだ?」


 みずきが尋ねる。


「星の雫石を集めて、王の居城がある星へ最初にたどり着いた者が、次の王になるの」


「へえ! 宇宙の王か! すげえな!」


 ひろきが目を輝かせた。だが、サクラの表情は晴れなかった。


「レースでは、星の雫石を奪ったり、相手をだましたり、敵を倒したりすることも認められているわ。簡単な旅じゃないの」


 サクラは四人の顔を順番に見た。


「相手がどんな力を持っているのかも分からない。危険な目に遭うことだってあるわ」


「なるほどな……」


 こうきは手の中の星の雫石を見つめた。


 盗みも、裏切りも、戦いもあるレース。世界一の怪盗を目指すこうきにとって、聞くだけで心が躍る話だった。


「俺、参加したい」


「こうき!?」


 ゆきが驚いて声を上げる。


「だって面白そうじゃん。宇宙中に星の雫石があるんだろ? それを集めるなんて、怪盗の腕の見せどころじゃないか!」


「そんな理由で決めていいの!? 危険な旅になるって、今聞いたばかりでしょ!」


「分かってるって。でも、行きたいんだよ」


 こうきは手の中の石を握り直した。


 世界一の怪盗になる。その夢に近づけるかもしれない。何より、まだ見たことのない宇宙が、こうきの好奇心を刺激していた。


「俺も行く!」


 ひろきが勢いよく手を上げた。


「宇宙なんて行ったことないし、どんなところなのか見てみたい!」


「俺は強い相手と戦いたい」


 みずきも静かに言った。


 サクラは目を見開いた。


「本当に……参加するつもりなの?」


「もちろん!」


 ひろきは迷いなく答えた。


 ゆきは、そんな三人を見回した。


「まったく……。三人とも、危険だって分かってるの?」


「分かってるよ」


 こうきは、いつもの調子で笑った。


「でも、行くって決めたんだ」


 ゆきはすぐには答えなかった。


 宇宙で何が待ち受けているのかは分からない。今までのように、四人で気軽に遊びに行くのとはわけが違う。


 それでも、三人が行くと言うのなら、自分だけ地球に残るわけにはいかなかった。


「……私も行くわ」


「ゆき!」


「三人だけじゃ、何をしでかすか分からないもの」


 ゆきは呆れたようにため息をついた。


「危なくなったら、私が止めるから」


「ゆき、それどういう意味だよ!」


「そのままの意味よ」


 こうきが口を尖らせ、ひろきが笑う。みずきも小さく息を吐いた。


 いつもの四人のやり取りに、サクラの表情も少し和らいだ。


「みんな、本当にありがとう」


 サクラは四人に向かって、深く頭を下げた。


「危険なレースなのに、一緒に来てくれるなんて……」


「まだ何も始まってないだろ?」


 こうきは照れ隠しのように笑った。


「それに、俺たちが行きたいから行くんだ。気にするなよ」


「そうそう! 宇宙に行けるなんて楽しみだしな!」


 ひろきも笑顔で続けた。


 サクラは顔を上げ、四人を見つめた。


「うん。みんな一緒に行こう」


 こうして五人は、宇宙の王位継承レースに参加することを決めた。


     ◇


 しかし、宇宙へ向かう方法も、宇宙船もない。ひとまず五人は、翌日また集まって準備を考えることにした。


 そして翌日。


 五人が学校裏の山に集まっていると、一人の男が姿を現した。


 黒い服をまとった、大柄な男だった。


「お前たちが星の雫石を持っている連中か」


 男の視線が、こうきの手元へ向けられる。


「その石を渡せ」


「いきなり何だよ、おっさん」


 こうきが答えると、男は一歩踏み出した。それだけで、周囲の空気が変わった。


 ひろきの顔から笑みが消える。みずきも男を見据え、自然と身構えた。


 サクラが小声で告げる。


「気をつけて。こいつ、強い……!」


「へえ。そんなに強そうに見えるか?」


 その時、男が一瞬で距離を詰めてきた。


「なっ――!」


 男の拳が、ひろきの腹にめり込む。


「ぐはっ!」


 ひろきの体が吹き飛び、背後の木に激突した。


「ひろき!」


 ゆきが叫ぶ。


「次はお前たちだ」


 男は拳を構えたまま、淡々と言った。


「ゼウスも知らないような連中が、レースに参加するつもりか?」


「ゼウス……?」


 こうきが聞き返す。


「誰もが生まれながらに持っている力だ。心の強さと意志によって、その力は大きくなる」


 男の体から、ただならぬ気配が立ち上る。


「力の使い方も知らないお前たちに、星の雫石を持つ資格はない」


「そんなの、やってみなきゃ分からないだろ!」


 こうきが飛び出す。しかし、男は軽々と攻撃をかわした。


「遅い」


 男の拳が、こうきへ迫る。


「こうき!」


 ゆきの目の前で、こうきに向かって拳が振り下ろされる。


 避けて。


 そう思ったときには、こうきのすぐ目の前まで拳が迫っていた。このままでは、こうきがやられてしまう。


 嫌だ。


 こうきが傷つくところなんて、見たくない。


 助けなきゃ――!


「こうき、危ない!」


 ゆきは、とっさに手を伸ばした。


 何かを考える余裕などなかった。ただ、こうきを守りたい。その一心だった。


 その瞬間、ゆきの周囲の空気が急激に冷え込んだ。伸ばした手の先で、空気中の水分が凍りついていく。


 バキバキバキッ!


 こうきと男の間に、巨大な氷の盾が出現した。


 ゴォンッ!


 振り下ろされた拳が盾にぶつかり、鈍い音が山に響き渡る。


 こうきは、目の前に現れた氷の盾を見つめた。


「な、何だ……?」


 男もわずかに目を細める。


 サクラは驚いた表情で氷の盾を見つめていた。


「空気中の水分を一瞬で凍らせたの……? これが、ゆきのゼウス……?」


 ゆき自身も、何が起きたのか分かっていなかった。


 ただ、こうきが無事なのを見て、ほっとしたのも束の間――。


「……あれ?」


 急に体から力が抜けた。足に力が入らない。


 ゆきの視界が揺れ、膝が崩れ落ちる。


「ゆき!」


 こうきが駆け寄り、倒れかけた彼女を抱き止めた。


 ゆきは何も答えない。意識を失っていた。


「くそっ……!」


 こうきは、ゆきを抱きかかえたまま男を睨みつけた。


 サクラは男の前へ出た。


「あなたの力、奪わせてもらうわ!」


 サクラの周囲から羽根が舞い、男へと向かっていく。羽根が触れるたび、男の力が少しずつ奪われていった。


「ちっ……小細工を!」


 男がサクラへ向かおうとする。


「させるか!」


 ひろきが木から身を起こし、再び男へ飛びかかった。みずきも横から蹴りを放つ。


 こうきはゆきを安全な場所へ寝かせると、二人に続いた。


 三人とサクラが力を合わせ、男へ攻撃を仕掛ける。しかし、男はなおも圧倒的な力を見せつけた。


「これで終わりだ」


 男の体から、先ほどとは比べものにならない力が膨れ上がる。


 次の瞬間――。


「そこまでにしておけ」


 静かな声が響いた。


 男が顔を上げる。


 近くの木の枝に、白い髭をたくわえた老人が立っていた。


「……お前か」


 男は老人を睨むと、舌打ちした。


「今日は見逃してやる」


 そう言い残し、男はその場を去っていった。


 五人は、突然現れた老人を見つめる。


「あなたは……?」


 サクラが尋ねると、老人は穏やかに笑った。


「ただの旅人じゃよ」


 それだけ告げると、老人の姿もまた、いつの間にか消えていた。


     ◇


「う……ん……」


 しばらくして、ゆきが目を覚ました。


「ゆき! 大丈夫か!?」


 こうきが顔を覗き込む。


「私……どうなったの?」


「ゆきが氷の盾を出して、俺を助けてくれたんだ」


 こうきは、ゆきの顔を見つめた。


「ありがとな。今度は俺が守ってやる」


 ゆきは一瞬目を丸くしたあと、すぐに顔をしかめた。


「何言ってるのよ。私が強くなって、こうきを守ってあげるわよ」


「ははっ、どっちが守るんだよ!」


 ひろきが笑い、サクラも二人を見て微笑んだ。


 みずきは、去っていった男の方向へ視線を向けていた。


 先ほどの戦いで、自分たちの力不足は嫌というほど思い知らされたのだった。

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