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願い星ー宇宙を駆ける王位継承レース  作者: ネコ雲


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16/25

届かない攻撃

願い星


 翌朝。


 グリーンガルドの森に朝日が差し込み始めた頃、ヴァレリアは五人の姿を眺めていた。


「……そういえば」


 紅茶を口へ運びながら、昨日の修行を思い返す。


 朝から夕方まで、五人はそれぞれのゼウスを使い続けていた。


 こうきはネックレスを何度も変形させ、ゆきは氷を作り続け、みずきは竹刀へ心気を纏わせ、ひろきは身体能力を高めながら動き続けていた。


 サクラも、心気を外へ放出して何度も拳を作っていた。


 普通なら、とっくに心気が尽きている。


 それでも五人は、夕方まで修行を続けた。


 最後には疲れ果てていたが、倒れた原因は心気の枯渇だけではない。長時間の運動による身体そのものの疲労が大きかった。


「……やはりな」


 ヴァレリアが小さく呟く。


 五人の心気総量は、思っていた以上に多い。


 まだ力の使い方を理解していないため、ゼウスそのものの威力は低い。


 だが――


 総量だけを見れば、すでに一つ星に届く可能性がある。


「この歳で、この量か……」


 ヴァレリアは五人を見る。


 しかし、すぐに表情を戻した。


「だが、こいつらには言わない方がいいな」


 もし今、自分たちが一つ星級の心気を持っていると知れば――


 調子に乗る。


 強者を前にしても、自分なら戦えると思ってしまうかもしれない。


 それが命取りになる。


「力があることと、強いことは別だからな」


 ヴァレリアは静かに紅茶を口へ運んだ。


 そして、もう一つ気になることがある。


 昨日、大量に心気を使った五人の身体から感じる力が、昨日より明らかに増えている。


 心気を使った翌日。


 その総量の増加率が高い。


「やっぱり、あいつらの――」


 そこまで呟いて、ヴァレリアは口を閉じた。


「……今はまだいいか」


 やがて五人が起き上がる。


「おはよう、ヴァレリア姉さん」


 こうきが声をかける。


「ああ。起きたか」


「今日は何するの?」


 ゆきが尋ねる。


 ヴァレリアは五人を見回した。


「今日は――グランガルと再戦する」


「グランガル!?」


 ひろきの顔が一気に明るくなる。


「今度こそ勝つぞ!」


「私も」


 ゆきが拳を握る。


 みずきも竹刀を手に取った。


「昨日より、使い方は分かってきた」


「俺のゼウスも、もっと強くなってるはずだ」


 こうきがネックレスへ触れる。


 サクラも頷いた。


「私も、昨日より上手く動かせると思う」


 五人の目に闘志が宿る。


 ヴァレリアはそんな五人を見て、口元を僅かに上げた。


「なら、死ぬ気で戦ってこい」


「おう!」


 五人が声を揃える。


 ヴァレリアはその背中を見送りながら、心の中で付け加えた。


 ――死ぬ気で、だ。


 死ぬほど無茶をしろという意味ではない。


 生き残るために、全力で戦え。


 それが今日の修行だった。


     ◇


 森の奥へ進むにつれて、足元が大きく揺れ始めた。


 ズン……。


 ズン……。


「近い」


 こうきが星の雫石を見る。


 淡い光が、森のさらに奥を指している。


 そして――


 ズンッ!!


 巨大な足音とともに、木々が大きく揺れた。


「いた!」


 ひろきが叫ぶ。


 木々の向こうから、巨大な獣が姿を現した。


 グランガル。


 四本の脚だけで、五人の身長を遥かに超える巨体。


 頭には二本の巨大な角が伸び、全身を岩石のように硬い甲殻が覆っている。


 以前戦ったときと同じ姿。


 だが、今日は五人の方が違う。


「グランガル!」


 こうきが拳を握る。


 グランガルも五人に気づいた。


「グオオオ……」


 低い唸り声が森を震わせる。


 ヴァレリアが腕を組んだ。


「私なら秒殺だが――」


 五人を見る。


「お前たちなら苦戦するだろうな」


「……」


「死ぬ気で戦うんだな」


 こうきが笑う。


「望むところだ!」


 五人が一斉に駆け出した。


     ◇


「まずは俺!」


 こうきが右手へ心気を集める。


 ネックレスへ力を送り込むと、首元の装飾が淡い光に包まれた。


 形が変わる。


 細長く伸びた光が、一振りの剣へ姿を変えた。


「これなら!」


 こうきは地面を蹴った。


 グランガルの前脚へ向かって一直線に突っ込む。


「はあっ!」


 剣を振り下ろす。


 ガキィンッ!!


「……!」


 硬い衝撃が腕へ返ってきた。


 剣は甲殻に弾かれ、刃は傷一つ残せない。


「くっ……!」


 こうきが後ろへ跳ぶ。


「まだだ!」


 今度は横からみずきが踏み込んだ。


「俺に任せろ!」


 竹刀へ心気を纏わせる。


 踏み込みと同時に、鋭い一撃を叩き込んだ。


 ガンッ!!


 またしても弾かれる。


「硬すぎる……!」


 みずきが竹刀を握り直す。


「なら、もっと集中させる!」


 低く構え、再び踏み込む。


 今度は横薙ぎ。


 ガキンッ!


 それでも甲殻には傷一つつかない。


 グランガルが面倒そうに頭を振った。


「グオッ!」


 巨大な前脚が振り払われる。


「危ない!」


 みずきが横へ跳ぶ。


 直後、地面が大きくえぐれた。


「……この程度じゃ届かないか」


 みずきが歯を食いしばる。


「だったら俺だ!」


 ひろきが走り出す。


 全身へ心気を巡らせ、足へ力を集める。


 ドンッ!


 地面を蹴った瞬間、身体が一気に加速した。


「おおおおっ!」


 腰。


 背中。


 肩。


 腕。


 全身で生み出した力を拳へ繋げる。


「くらえ!」


 ドゴォン!!


 拳がグランガルの胴体へ叩き込まれた。


 ――だが。


「……嘘だろ?」


 グランガルは微動だにしない。


 ひろきが拳を引く。


 甲殻には、傷一つない。


「俺、結構本気なんだけど……」


 グランガルが前脚を振る。


「うわっ!」


 ひろきは反射的に身体を捻った。


 巨大な爪が目の前を通り過ぎる。


 ズドン!!


 地面が陥没した。


「危ねぇ!」


 ひろきが冷や汗を流す。


 こうきが声を飛ばす。


「ひろき、無理に近づくな!」


「分かってる!」


 そう答えながらも、ひろきの目はまだ諦めていなかった。


「次はもっと強く殴る!」


     ◇


 ゆきも戦いへ加わった。


「私も!」


 両手を前へ伸ばす。


 心気が外へ流れ、周囲の空気が一気に冷えていく。


「氷!」


 目の前に大きな氷の塊が生まれた。


「いけっ!」


 氷がグランガルへ飛んでいく。


 ドンッ!


 直撃。


「やった!」


 ゆきが声を上げる。


 しかし――


 パラパラ……。


 砕けた氷が地面へ落ちる。


 グランガルは、何事もなかったかのように立っている。


「……」


 ゆきの顔から笑みが消えた。


「また……駄目なんだ」


 自分の手を見る。


「氷は作れる」


 もう一度、氷を作る。


「でも、攻撃になってない」


 氷を飛ばす。


 ドンッ!


 また砕ける。


「私……」


 ゆきの肩が落ちる。


「クーラーでしかない……」


「ゆき、そんなことないって」


 こうきが声をかける。


「慰めなくていいよ……」


 ゆきがしょんぼりする。


「余計に悲しくなるから……」


「……ごめん」


     ◇


「なら、私も!」


 サクラが前へ出る。


 身体の外へ心気を放出する。


 光が腕へ集まり――


 巨大な拳を形作った。


「今度は速く!」


 サクラが意識を集中する。


 拳がグランガルへ向かって飛んでいく。


 ドンッ!!


 命中。


「当たった!」


 サクラの目が輝く。


 しかし――


 グランガルは動かない。


「……」


 サクラの表情が変わる。


 右。


 左。


 正面。


 拳を次々と飛ばす。


 ドンッ!


 ドンッ!


 ドンッ!


 すべて命中する。


 それでも、グランガルは鬱陶しそうに身体を揺らすだけだった。


「どうして……」


 サクラが拳を見る。


「当たってるのに……」


 ヴァレリアは何も言わない。


 サクラは拳を動かしながら、自分のゼウスを考える。


 相手のゼウスを削る。


 それが、自分の力。


 けれど、グランガルにはゼウスによる防御すら感じない。


「……私のゼウスじゃ」


 サクラが拳を握る。


「こういう相手には、何もできない」


 悔しそうに唇を噛む。


 それでも、さらに拳を飛ばした。


 ドンッ!


 グランガルの身体へ当たる。


 しかし、ダメージはない。


「もっと速く……!」


 サクラが心気を込める。


 拳の速度が上がる。


 それでも、グランガルの甲殻を破るには足りない。


「まだ……!」


     ◇


 五人は攻撃を続けた。


 こうきが剣を振る。


 みずきが竹刀を叩き込む。


 ひろきが拳を打ち込む。


 ゆきが氷を飛ばす。


 サクラが拳を放つ。


 攻撃のたびに、心気が身体から流れていく。


 それでも――


 グランガルには、ほとんどダメージがない。


「くそっ!」


 こうきが剣を握り直す。


「まだいける!」


「俺も!」


 ひろきが再び突っ込む。


 グランガルが前脚を振り下ろした。


「うおっ!」


 ひろきが横へ転がってかわす。


 その隙に、みずきが踏み込んだ。


「今だ!」


 竹刀が甲殻へ叩き込まれる。


 ガキンッ!


 また弾かれた。


 直後、グランガルの尻尾が横薙ぎに振られる。


「来る!」


 サクラが叫ぶ。


 五人が一斉に飛び退く。


 ブォンッ!!


 巨大な尻尾が、目の前を通り過ぎる。


 五人は息を切らしながら、グランガルを見つめた。


 対してグランガルは――


 まるで蚊でも払うように、五人を追い払っているだけだった。


 ヴァレリアは少し離れた場所から、その様子を見ている。


 手を出さない。


 助けない。


 ただ、五人の戦いを見つめていた。


「まだだ」


 こうきが荒い息を整える。


「絶対に、何かある」


 みずきも竹刀を構える。


「このままじゃ終われない」


 ひろきが拳を握る。


「次はもっと強く殴る!」


 ゆきも氷を作る。


「私だって……何かできるはず」


 サクラは拳を見つめる。


「私も……」


 五人は再びグランガルへ向かって走り出した。


 攻撃は、まだ届かない。


 それでも――


 五人は諦めなかった。


 グランガルとの戦いは、まだ終わっていない。

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