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願い星ー宇宙を駆ける王位継承レース  作者: ネコ雲


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15/25

ゼウスを使いこなせ


 朝の森に、乾いた音が響いていた。


 ドンッ!


 巨大な木の幹が揺れる。


「……よし!」


 こうきが拳を握る。


 目の前に浮かんでいるのは、自分の星の雫石がついたネックレスだった。


 右手へ心気を集め、それをネックレスへ送り込む。


 淡い光がネックレスを包み込んだ。


 カチッ。


 金属が組み変わるような音を立て、ネックレスの形が変化する。


「もう少し……こうだ」


 こうきは頭の中で形を思い描く。


 ネックレスの一部が伸びる。


 しかし、途中で形が崩れてしまった。


「……まだ駄目か」


 こうきは悔しそうに息を吐く。


「形を変えるだけならできる。でも、自分が思った通りに動かすには、もっとイメージが必要だな」


 少し離れた場所では――


 パキンッ。


 氷の音が響いていた。


「……できた」


 ゆきの前に、小さな氷の塊が浮かんでいる。


 昨日よりも形が安定していた。


 ゆきが手を動かすと、氷もそれに合わせて動く。


「もう少し大きく……」


 氷がゆっくり膨らんでいく。


 だが、その瞬間――


 パキッ。


「……あ」


 氷に亀裂が走った。


「まだ大きさを変えると不安定になるんだ」


 ゆきは氷を見つめ、もう一度心気を集める。


「じゃあ、もう一回」


 失敗しても、諦める様子はない。


 さらに奥では――


 ザンッ!


 巨大な木の幹へ、竹刀が叩き込まれていた。


「……硬いな」


 みずきが竹刀を握り直す。


 竹刀には薄い光がまとわりついていた。


 心気だ。


 グランガルとの戦いで使ったものと同じ力。


 ただ、今はあのときよりも安定している。


「もう少し刃の形を意識して……」


 みずきが竹刀を振り抜く。


 ザンッ!


 木の表面が大きく削れた。


「少し切れ味が上がった」


 竹刀を見つめながら、みずきは小さく頷く。


「もっと鋭くできるはずだ」


 再び構えを取り、木へ向き直った。


 一方――


「おおおおっ!」


 ドゴンッ!


 巨大な木の幹が大きく揺れる。


 ひろきが拳を引いた。


「どうだ!」


 身体へ巡らせた心気によって、筋肉が普段より強く働いている。


 さらに踏み込む。


 ドンッ!


 拳が木へ叩き込まれた。


「まだまだ!」


 もう一度。


 さらにもう一度。


 ひろきは何度も木へ拳を打ち込んでいく。


「拳だけじゃない」


 ヴァレリアに言われた言葉を思い出す。


「脚も、腰も、背中も……全部繋げる」


 足へ流した心気を腰へ。


 腰から背中へ。


 背中から肩へ。


 そして拳へ。


「おおおっ!」


 ドゴォンッ!


 木の幹が大きく揺れた。


「今のはいい」


 後ろからヴァレリアの声が飛んできた。


「力が拳だけに集まっていなかった」


「本当か!?」


 ひろきが振り返る。


「少しはな」


「よっしゃ!」


 ひろきが拳を握る。


 その様子を見ながら、ヴァレリアは満足そうに頷いた。


 四人は、それぞれのゼウスを少しずつ自分のものにし始めている。


 だが――


「……」


 一人だけ、動いていない者がいた。


 サクラだ。


 サクラは自分の手を見つめていた。


「どうした?」


 こうきが声をかける。


「少し考えていたの」


 サクラは背中へ意識を向ける。


 光の羽根が現れた。


 羽根の一枚が、ふわりと浮かび上がる。


「私のゼウスは、心気を外へ放出して形を作るもの」


「うん」


「羽根を飛ばせば、相手のゼウスを削ることができる」


 サクラが羽根を飛ばす。


 ヒュンッ!


 羽根が木の幹へ突き刺さり、光が木を削るように消えていった。


「でも……」


 サクラは羽根を見つめる。


「これだけじゃ、力不足だと思うの」


 こうきたちがサクラを見る。


「どうして?」


 ゆきが尋ねる。


「遠距離から削るだけなら、相手に近づかれたときに困るんだよね」


 サクラは拳を握った。


「それに、強い相手ほどゼウスの量も多い。羽根を飛ばして削るだけでは、倒すまでに時間がかかってしまう」


「なるほど」


 みずきが頷く。


 サクラはしばらく考えた。


 そして――


「あ」


 顔を上げる。


「だったら……」


 背中の羽根を見る。


「遠距離が羽根なら、近距離は別の形にすればいいんじゃない?」


「別の形?」


 こうきが尋ねる。


「うん」


 サクラが右手を前へ伸ばす。


 心気を外へ放出する。


 光が手の先から腕へ、そして肩へ集まっていく。


 やがて――


 巨大な拳が形を作った。


「……おお」


 ひろきが目を丸くする。


 サクラの身体よりも大きな光の拳。


 拳を握ると、ギュッと光が収束した。


「できた」


 サクラが驚いたように呟く。


 心気を外へ出し、形を作る。


 それ自体は、基礎訓練によって心気の操作が上達していたサクラにとって難しくなかった。


 問題は――


「動かせる?」


 ゆきが尋ねる。


「やってみる」


 サクラが拳を動かそうとする。


 ゆっくり。


 さらにゆっくり。


 巨大な拳が動いた。


「……遅い」


 サクラが眉を寄せる。


 拳を前へ突き出す。


 だが、その動きは遅く、誰でも簡単に避けられるほどだった。


「これじゃ……」


 サクラが悔しそうに拳を見る。


「実戦では当たらないよ」


「そうだな」


 ヴァレリアが答える。


 だが、その声に否定するような響きはない。


 むしろ、口元には楽しそうな笑みが浮かんでいた。


「良い発想だ」


「本当ですか?」


「心気で作ったものなら、形を変えられる」


 ヴァレリアはサクラの拳を見る。


「なら、遠距離攻撃だけにこだわる必要もない」


「……!」


 サクラの目が輝く。


「じゃあ、もっと速く動かせれば……」


「そうだ」


 ヴァレリアが頷く。


「その拳は武器になる」


「分かりました」


 サクラは拳を見つめた。


「もっと練習します」


「そうしろ」


 サクラは再び拳を動かし始める。


 ゆっくり。


 少しずつ。


 まだまだ遅い。


 それでも――


 新しい可能性は、確かに生まれていた。


     ◇


 そして――


 太陽が傾き始めた頃。


「……もう無理」


 ひろきが地面へ倒れ込んだ。


「疲れた……」


 その隣では、みずきが竹刀を杖代わりにして立っている。


「今日は……かなり使ったな」


 ゆきも木の根元へ座り込む。


「身体が重い……」


 こうきもその場へ腰を下ろした。


「心気をずっと使ってると、こんなに疲れるんだな」


 サクラも息を整えながら頷く。


「私も……疲れた」


 五人とも、限界に近かった。


 そのとき――


 森の奥から、何かを引きずるような音が聞こえてきた。


 ズル……ズル……。


「……何?」


 ゆきが顔を上げる。


 木々の向こうから、巨大な獣が姿を現した。


 巨大な猪に似た獣だった。


 牙はこうきの腕ほどもあり、身体は五人が並んでも届かないほど大きい。


「でかっ!」


 ひろきが目を見開く。


 その獣を――


 ヴァレリアが片手で引きずっていた。


「ただいま」


「……」


「……」


「……」


 五人が固まる。


「何してるの?」


 ゆきが尋ねる。


「夕食を捕まえてきた」


 ヴァレリアは何でもないことのように答えた。


「今日は私が夜ご飯を作ってやる」


「え?」


 ヴァレリアは獣を地面へ置く。


 そして、手をかざした。


「まずは解体だな」


 ヴァレリアの手からゼウスが溢れ出す。


 光が一瞬で刃の形へ変わった。


 スパッ!


 巨大な獣の身体が、あっという間に解体されていく。


「……すごい」


 こうきが目を丸くする。


「ゼウスって、あんな使い方もできるんだ」


「当然だ」


 ヴァレリアは何でもない顔で答える。


 今度は地面へ手を向けた。


 炎が生まれる。


 ゴォッ!


 炎が勢いよく燃え上がった。


 さらにヴァレリアはゼウスで細長い棒を作り出す。


 その棒へ肉を刺す。


 ジュウウウ……。


 炎の上で肉が焼け始めた。


「すごい……」


 ゆきが感心する。


「ゼウスだけで料理までできるんだ」


「便利だな」


 みずきも頷く。


 ひろきは焼かれている肉を眺めた。


「でも――」


 こうきが先に口を開いた。


「料理はヴァレリア姉さんらしく、大雑把だな」


「……」


 ヴァレリアの手が止まった。


「ほう」


 ひろきも余計な一言を言ってしまう。


「まあ、だから独身なんだな」


 ゴンッ!


「痛ぇ!」


 こうきの頭へ拳骨。


 続けて――


 ゴンッ!


「痛ぇぇ!」


 ひろきにも拳骨が落ちた。


「何で俺まで!?」


「余計な一言を言ったからだ」


「こうきも言ったじゃん!」


「お前が便乗したからだ」


「理不尽!」


 ヴァレリアは腕を組み、少しだけ頬を膨らませる。


「大雑把で悪かったな」


「いや、そこは謝ってないって」


 ひろきが頭を押さえながら呟く。


「それに、私がいつ独身だと言った?」


 ヴァレリアがひろきを睨む。


「え?」


 ひろきが固まる。


「結婚してたの?」


「していない」


「じゃあ独身じゃん」


「まあ、そうだが」


 ヴァレリアが少しだけ視線を逸らす。


「それは私が恋愛に興味がなかっただけで――」


 そこで言葉が止まった。


 五人がヴァレリアを見る。


 耳が少し赤くなっている。


「……」


「……」


「……」


 五人は同じことを思った。


 ――ちゃんと中身は女性なんだ。


 だが、誰も口には出さなかった。


 また拳骨を落とされたくない。


「何だ、その顔は」


「何でもないです」


 サクラが即答する。


「そうか」


 ヴァレリアは少し怪しむように五人を見る。


 そして、誤魔化すように焼けた肉を皿へ乗せた。


「ほら」


「……」


「私を馬鹿にした二人は――」


 ヴァレリアがこうきとひろきを指差す。


「晩飯抜きだ」


「えー!?」


「そんなぁ!」


 五人から笑いが起こる。


 みずきも笑いを堪えきれず、口元を緩めた。


 ゆきは肩を震わせている。


 サクラも楽しそうに笑った。


 こうきとひろきだけが、絶望した顔で焼き上がった肉を見つめる。


「ヴァレリア姉さん、一本だけでも……」


「駄目だ」


「半分!」


「駄目だ」


「一口!」


「駄目だ」


「厳しすぎる!」


 ヴァレリアはそんな二人を見て、満足そうに笑った。


 森の中に、五人の笑い声が響く。


 今日もまた、ゼウスを使うための修行が終わった。


 こうきはネックレスを。


 ゆきは氷を。


 みずきは刀を。


 ひろきは身体そのものを。


 そしてサクラは、自分の心気から新しい可能性を生み出した。


 まだ、誰一人として完成には程遠い。


 それでも――


 五人は少しずつ、自分自身のゼウスを形にし始めていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

ブクマと評価していただけると嬉しいです。

他にも何作品か投稿しています。皆様が一作品でも面白いと思って頂ける作品があれば幸いです。

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