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今やらねば、今かねえ!

俺――イヴァンは、必死に剣を持ち上げながらアクセルと向き合っていた。

(どうする、どうすればいい……くそ、逃げるか? いや、無理だ。俺より足が速い。すぐに捕まる。考えろ、考えろ、俺!)

手がまた震え始める。……いや、待て。怖がったところで、余計に事態が悪化するだけだ。下手すりゃ本当に、悲惨な死に方をすることになる。

そう考えている間に、アクセルが尊大な口調で言った。

「先手はやるよ。まあ、明日の誕生日プレゼントだと思っとけ」

そう言って剣を持つ手を軽く上げると、こちらを見て小馬鹿にしたように笑い始めた。

アクセルが笑っている間、イヴァンは必死に剣を持ち上げようとするが、幼い体には重すぎて上がらない。当然だ、まだ六歳、剣なんて一度も握ったことがないのだから。

イヴァンは牢の中をぐるりと見回した。

(考えろ、考えろ、考えろ……)

視線の先に、隅に積まれた古い木箱が見えた。

(あれだ!)

イヴァンは重い木剣を握りしめる。

(よし、今しかない……いち、に――!)

イヴァンはその場でくるりと素早く回転し始めた。木剣を握ったまま、五回転、三回転――そのままアクセルに向かって剣を投げつけた!

アクセルは軽々と剣を弾き返し、呆れた顔で言った。

「おいおい、なんだそれ。新手の戦法か何かか? ま、それも一つの手だ――」

言い終わる前に、イヴァンは既に木箱の方へと全力で駆け出していた。

「おい待て、卑怯者! 逃げてないで男らしく向き合え!」

アクセルは叫びながら後を追いかけ始めた。

イヴァンは走りながら言い返す。

「これのどこが対等な条件だよ! お前は訓練された剣士で、体だってこっちより大きいだろ、この馬鹿!」

アクセルはさらに速度を上げて追いかけながら怒鳴った。

「誰がお前に馬鹿だなんて言われなきゃいけないんだよ、口の減らないガキが! 俺はな、お前を家族が頼れる立派な男にしてやろうとしてるんだ!」

「立派な男って何だよそれ! 俺を殺すことが、お前が強くなるチャンスだとでも思ってるのか!? どういう理屈だよ、それ!」

アクセルはイヴァンの腕を掴み、こちらへ振り向かせた。

「待て、殺すってどういう意味だ? お前、頭に何か飲んだのか、この馬鹿!」

イヴァンは逃げようともがいた。

「離せよ、くそっ!」

そして叫び始めた。

「ベティー! ベティー、助けて!」

その声を聞き、アクセルは慌てて手でイヴァンの口を塞いだ。

「黙れ! ベティが来たら俺の尻が蹴っ飛ばされるだろうが! もっと最悪なのは、父上にチクられることだ!」

アクセルがそう言っている間、イヴァンは自由な方の手で、上に積まれた大きな木箱に繋がった一本の紐を掴んだ。

アクセルはイヴァンの手、そしてその上を見た。

「ま、まさかイヴァン、待て、やめろ! それをやったら二人とも死ぬぞ、死ぬんだぞ、この馬鹿!」

アクセルは紐をイヴァンの手から引き離そうとしたが、間に合わなかった。

イヴァンは声を張り上げた。

「お、俺を殺したいなら、道連れにしてやる! お前の方が強くても、俺の方が頭は良いんだからな、この傲慢野郎!」

そう言って紐を引いた。

木箱が次々と二人の上に崩れ落ちてくる。アクセルはイヴァンを抱きしめるようにして叫んだ。

「うわあああ、死ぬ、俺たち死ぬ! お前のせいで死ぬんだぞ、このクソガキ!」

だが箱が二人の上に落ちる寸前、二人はほぼ同時に目を閉じた。

何かがぶつかる音がした。三十秒ほど経って、アクセルとイヴァンはそれぞれ恐る恐る目を開けた。二人同時に呟いた。

「……死んだ?」

だが、二人はまだ同じ場所にいた。同じ、この臭くて薄気味悪い牢の中に。ただ、木箱は少し離れた場所に転がっていた。

二人は顔を見合わせ、それから上を見上げた――そこにいたのは、ベティとルディだった。

イヴァンは恐怖のあまり抱きついていたアクセルを慌てて突き放し、叫んだ。

「ベ、ベティィィィ! どこにいたんだよ! こいつのせいであやうく死ぬところだったんだぞ!」

アクセルも立ち上がり、興奮気味に言い返す。

「おいおい、嘘をつくな! 俺は何もしてないぞ!」

「嘘つきはお前だろ! 本物の剣持って俺の前に立ったくせに!」

「どの剣だよ、チョークまみれの頭してる奴が」

「ベティ、信じてくれ、あっちを見て! さっきまでそこに剣が――」

イヴァンがそちらを指差した瞬間、絶句した。剣が、そこにない。

ベティはドレスの裾を離し、剣があったはずの場所へ近づいた。

「な、なんでだよ……ここに、確かにあったんだ! アクセル、誓って言うが――」

「はぁ? どの剣だよ? 俺がお前を殺そうとしたっていう、その謎の剣のことか?」

アクセルはイヴァンに詰め寄り、シャツの襟を掴んで、おかしいくらいに揺さぶりながら言った。

「嘘つくのはやめろ、このクソガキ。俺を陥れようとしてるのか? 俺が持ってきたのは、模擬戦用の木剣二本だけだぞ」

二人が言い争っている間に、ルディが一歩、また一歩と近づいてきて、そのまま走り出した。二人を一度に抱き寄せ、泣きながら言った。

「アクセル、イヴィ、お前たち二人とも失いかけたんだぞ……ごめんな、もっと早く気づいて強く止めてやれてたら、こんなことにはならなかった……本当にごめん、許してくれ」

アクセルは戸惑いながら言った。

「お、おい、ルディ兄さん、どうしたんだよ。離れろ、服が濡れるだろ」

だがルディも頭を下げ、続けた。

「俺も謝る。イヴィとの決闘の件、ちょっとやりすぎた」

イヴァンも小さく答えた。

「お、俺の方こそ、ごめんなさい、兄上」

その時、ベティがルディの襟を掴んで後ろに引き寄せた。恐ろしいほど鋭い目つきで、アクセルとイヴァンを睨みつけながら、鋭い声で言った。

「アクセル様、イヴァン様。お二人はどうやってこの部屋のことをお知りになったのですか? 使用人の頭ですら、この場所は知らないはずですが」

あまりの恐怖に、イヴァンとアクセルは互いに抱き合った。

アクセルが答える。

「ま、待ってくれベティ、落ち着いてくれ。た、たまたま見つけただけなんだ。前にイヴァンが本ばっかり読んでるのが気になって、様子を見に書斎に行ったとき……通りかかった拍子に、剣の鞘がボタンに当たって、扉が開いたんだ。本当だ、信じてくれ!」

ベティはそのままイヴァンの方を見た。

(……体が勝手に動いて、額の青い紋様がどうこうって説明したところで、こんな話、誰が信じるんだよ)

イヴァンはそう心の中でつぶやきながら、天使のような澄んだ声を作って答えた。

「ベティ。ルディ兄上が俺を部屋に置いて出て行ったあと、アクセル兄上が部屋に押し入ってきて、決闘しないと殴るぞって脅してきたんだ。それで、俺は仕方なく後をついていったんだよ」

アクセルは信じられないという顔でイヴァンを見た。

「はあああああ?! この裏切り者!」

そして指を突きつけて叫んだ。

「ベティ、こいつの言うことを信じるな! 嘘つきだ!」

イヴァンは手で口元を隠しながら、こっそり笑いを噛み殺した。

「お前たち二人とも」

ベティが最大限の声で言い放った。

「話は、旦那様がお戻りになってからにしましょう」

その言葉に、アクセルとイヴァンの表情が一変した。二人は同時に、実に滑稽な勢いでその場に膝をついた。

「ベティ様、どうか許してください!」

同時に叫ぶ二人。

「それだけは……それだけは勘弁してくれ! 父上に知られたら、俺たち殺されるぞ!」

「立ちなさい。何をしようと、結果は変わりませんよ」

「ええええ……」

そこへルディが割って入る。ベティに向かって頭を下げながら言った。

「ベティさん、お願いです、父上にはこのことは黙っていてください。子供同士のいざこざだったんです。誰も怪我をしませんでしたし……このことは忘れて、罰は代わりにベティさんが決めてくれても構いません」

ベティは、頭を下げるルディと、まだ跪いているアクセルとイヴァンを見比べ、ため息をついた。

「……分かりました、坊っちゃん」

アクセルとイヴァンは同時に顔を上げ、にっこりと笑った。

だが、次の瞬間、ベティは二人を見据えて言った。

「では、あなたたち二人は――お城中の浴室の掃除ですね」

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