断章Ⅲ 街を切り売る者たち
王都の大円形議事堂には、シルヴァリアの地図が広げられていた。
その街は今も人々が眠り、パンを焼き、子供が走っていた。
にもかかわらず、既に地図の上ではパイを切り分けるかの如く切り分けられていた。
東鉱区には侯爵家の紋章。
西鉱区には王家直轄を示す金の駒。
交易路には司法府。
城壁の再建予定地には三つの商会が札を置き、焼けるはずの下町には新しい区画線が引かれている。
「異端者を排除した後、治安維持を名目にミスリル鉱山を接収する」
「オーウェル辺境伯には統治能力の欠如を認めさせればよい」
「抵抗した場合は?」
「反逆で処刑すればよい。後継者は王都で用意する」
葡萄酒がまた注がれた。
まだ一滴の血も流れていないうちから、復興工事の利益が計算された。
多量に注がれる葡萄酒はこれから流される血の量を想起させた。
長卓の端には、王国首席判事、国王直属王宮筆頭顧問、王宮法務総監、異端審問局最高監察官、ならびに西部方面全権使――ルクシオール・セヴェリウス・カシウス卿が座っていた。
彼の前にいる貴族たちはカシウス卿が特別に選別したものたちであった。
欲に従う者は、予測しやくコントロールが容易であった。
「討伐の名目は十分か」
王族の代摂理人が訊いた。
イグナティウス審問官が胸を張る。
「異端者は神の法を破り、次期大聖女を惑わせ、教会の兵へ武器を向けました。シルヴァリアの住民もこれに応援し加担しています」
「つまり、街ごと反逆したと」
「まったくもってその通りです」
ルクシオールは地図へ目を落とした。
ミスリル。魔晶石。交易税。
彼にとっては、興味のない数字の羅列だった。
「常駐の軍を出せ」
カシウス卿の一言に円形議事堂が静まる。
「王国軍、各家の私兵、契約商会の傭兵、異端審問局を動員しろ。西部鎮撫の名において、街を完全に包囲する」
「三名の身柄は?」
「アポロ、シルク、エステルは生きたまま私の前へ連れて来い」
「他の者は?」
「法に従わない者へ、法が配慮する必要があるかね」
その言葉を許可と受け取り、貴族たちは笑った。
地図の上で、まだ人々が眠り、パンを焼き、子供が走っている街が、静かにそして密かに売られていった。
――もうすぐだ・・ルシア、ヴェスペラ




