幕間 私の心臓で。ずっと生きてね
その日の深夜、シルクは夢を見た。
一面の白い空間に、自分によく似た少女が立っていた。
双剣を持たず、武装もしていない、生前の妹―ティナだった。
・・・・・・ティナ
声に出したつもりだったが、音として発することができなかった。
ティナは振り返り、シルクを見た。怒っていなかった。責めてもいなかった。
ただ、ひどく透き通った笑顔を浮かべていた。
「お姉ちゃん」
その声を聞いた瞬間、シルクの胸がギリリと締め付けられる。
「ごめん、ティナ。アタシ……お前の身体を、勝手に」
必死に紡いだ謝罪に、ティナは首を横に振った。
「いいの。お姉ちゃんが生きてくれているなら」
ティナが手を伸ばし、シルクの頬に触れる。自分の顔、自分の手。
なのに、夢の中の妹の指先はひどく冷たかった。
「私の手で、私の足で、私の心臓で。ずっと、ずっと生きてね」
それは許しではなく――呪言だった。
優しすぎる妹の言葉が、アポロの命を削って生き長らえているという“おぞましい”現実を、より鮮明にシルクの心に刻み込む。
「待て、ティナ! アタシは!」
「泣かないで。私の代わりに、笑って」
ティナの姿が、白い光に溶けていく。
目が覚めた時、シルクは自分が泣いていることに気づいた。
ティナの頬を伝う涙を拭うその手は、ひどく温かかった。
その生々しい血の通った温もりが、今のシルクには罪深く感じた。
――アタシは、なんて欲深く、醜いんだ。
妹の身体を奪い、想い人の命を喰らって、それでもなお「生きたい」と願ってしまっている自分がいる。
シルクは暗闇の中、自分のティナの細い腕を、強く抱きしめて震えることしかできなかった。血が滲むほど。
◇◇◇
同じ頃。
壁の向こうから流れ込んでくる悲しみが、自分の胸を締めつける。
今すぐ抱きしめに行きたかった。だが、身体は動かない。
そして何より――この苦しみを彼女に背負わせたのは、自分だった。
アポロは胸の青い薔薇へ手を当てた。
――恨んでいい。
それでも。
この繋がりだけは、切らない。
隻眼に狂気にも似た暗い情念を宿し、アポロは壁の向こうの愛しい人へ向けて、言葉を紡いだ。




