↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/17

第二章 今朝のコーヒーは苦いな・・

 その日の『モフモフ亭』の朝は、重苦しい沈黙と共に始まった。

 再会の喜びは、昨夜、すべてを知ってしまった衝撃によって冷や水を浴びせられ、エステルは一晩中、宿屋のベッドで眠れぬ夜を過ごしたようだった。彼女の目の下には薄っすらと隈ができている。

「・・・・・・おはようございます」

「ああ。コーヒーでいいか?」

 開店前の店内で、アポロは努めて平静を装い、湯気の立つマグカップを差し出した。エステルはそれを受け取るが、口をつけようとはしない。その碧眼は、アポロの胸元、厚手のシャツで隠されたその場所を、じっと見つめていた。

「アポロさん。昨夜の話の続きですが」

「エステル。俺たちはこれから仕入れと、ギルドへの顔出しがある。話なら夜に・・・・・・」

「逃げないでください!」

 エステルがカップをテーブルに叩きつけるように置く。黒い液体がわずかに跳ねた。普段の彼女なら絶対にしない粗雑な振る舞いに、厨房で皿を拭いていたシルクが手を止める。

「聖女様ご乱心だねぇ。でも、アポロ。アタシも同意見だ。いつまでも隠し通せるもんじゃない」

「シルク、お前まで」

「だって、あんたの顔色が死人みたいなんだよ。鏡見てみな」

 シルクの指摘通り、アポロの顔からは血の気が失せ、生気まで抜け落ちたように青白かった。

『運命への抗い』を常時発動し続ける負荷は、アポロの想像を超えていた。睡眠を取っても魂の疲弊は回復せず、まるで底の抜けた桶に水を注ぎ続けているような倦怠感が常に彼を蝕(むしば)み始めていた。

「今朝のコーヒーは苦いな・・」

 会話はそこで途切れた。

 それぞれの言葉を、それぞれが飲み込んだまま、朝が過ぎていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。