第五章 荒野の果てから響く銃声
夜明けと同時に、王国軍の総攻撃が始まった。
攻城砲が城壁を叩き、魔術兵が火球を放ち、商会傭兵が鉱山側の裏門へ殺到した。
シルヴァリアの大通りは、真昼の決闘とは違う音に満たされた。
賭け声ではない。
悲鳴と怒号と銃声だった。
アポロは給水塔の上から指揮官を狙い、シルクは崩れた城壁を駆け、エステルは治療所と前線を行き来し文字通り奮戦した。
白銀の薔薇は便利ではなかった。
アポロの肩を弾丸が掠めれば、シルクとエステルの肩も焼けた。
シルクの脚が切れれば、アポロの照準も揺れた。
エステルが治癒術を酷使して膝をつけば、同じ疲労が二人の身体にのしかかった。
それでも三人は離れず崩れなかった。
昼前。
王国軍が据えた三門の攻城砲が火を噴いた。
轟音とともに三発の砲弾が相次いで北側城壁へ直撃し、石と土煙を巻き上げる。
複数の砲火をあびせ掛けられた城壁の一角が堪えきれず崩れた。
「破ったぞ!」
砲兵隊の若者たちから歓声があがる。
「さらにもう一撃加えよ。大穴を開けたら、歩兵の奴らを突っ込ませるよう本陣に具申!次弾装填用意!!」
――くっくっ、たっぷり味わってくれよ。
王国軍の砲兵隊長セルジオが追加で命令を下す。
「いかん。力で押されたか。破られる!次が来るぞっっ」
「ありゃ、勝手口開けられちゃったかぁ」
オーウェル辺境伯の副官シモーネが叫んだと同時にアポロも反応した。
「一号砲、装填完了!」
「二号、三号砲も急げ!」
部下の報告に砲兵隊副隊長ゾンターの檄が飛び、黒光りしている敵の攻城砲が次の狙いを定め始める。
その時。
乾いた銃声が、遥か荒野の果てから届いた。
砲兵隊長セルジオの胸元が弾け、その丸々と肥えた巨躯が崩れ落ちる。
「セルジオ隊長!!」
砲兵たちが動揺し視線が一斉にそちらへ向きすべての動作が逡巡した。
――そこへ、
装填中だった二号砲の炸薬へ、遥か彼方から飛来した弾丸がまたもや突き刺さった。
ドゴォォンッ!!
中央の攻城砲が爆炎に包まれる。
誘爆した弾薬と破片が周囲へ飛び散り、大きな被害が出た。
その様子を見た給水塔のアポロが隻眼を細めた。
「ジョーか。」
遠い岩山の上に、長銃を構えた男がいた。
旧傭兵の古参、ジョー。
「ボロボロじゃないかアポロ!今日の脚本はオレが書き換えるぜ!」
「遅刻だ。開演時間はとっくに過ぎてる・・」
アポロの口元がわずかに上がり、薬室に大きな魔力を叩き込んだ。
「だが、――ど派手な登場は嫌いじゃない」
言い終わると同時に引き金を引き、愛銃サンダーボルトから放たれた魔弾が、給水塔から一直線に迸った。
狙ったのは兵士ではない。
砲兵隊の後方に多量に積み上げられた予備弾薬だった。
次の瞬間。
予備弾薬が次々と誘爆し、砲兵陣地が爆炎と閃光に呑み込まれた。三門の攻城砲も、砲兵たちも、完全に戦闘能力を失った。
「おいおい。王国軍が可哀そうに思えてきたな・・」
ジョーの音声に憐憫の色が加わった。
さらに別の方角から角笛が鳴った。
青い旗を掲げた騎馬隊が、王国軍後方の補給隊へ横殴りに突っ込み、弾薬などの補給物資の破壊と食料・水などへの略奪を行った集団が気勢を上げていた。
先頭にいるのは、旧クリムゾン・ファングの副官ブルーだった。
「女王様! 店を始めたなら、開店祝いくらい届けるぜ!」
「たく呼んでないよ!お前らがきたらメチャクチャになるだろ」
シルクが怒鳴る。
「知ってる! だから勝手に来た!だがアンタにだけは言われたくないな!!」
「きゃはは」
仲間たちが笑い出した。
シルクは苦笑するしかなかった。
西の森からは、王国軍の斥候10名を縛り上げたハイエルフたちが現れた。
フィンが弓を下ろし、エステルを見た。
「聖女さま、今度は逃げるための道じゃない。帰るための道を作りに来ましたよ。」
エステルは、亡き父オリオンが導いてくれたのではないかと暖かい気持ちになった。
ただ、感謝を伝えるため深くお辞儀した。
昔の仲間たちは、いろんな理屈をつけてアポロたちを救いに来ていた。
旧傭兵団の攻撃で王国軍のメイン火力や補給線が多大に乱れさせ、王国軍五千名ほどを死者の列に加え、シルヴァリアの者たちは崩れた城壁を押し返した。
だが、援軍が来たから楽に勝てたわけではない。
ジョーは肩を撃たれ、ブルーの騎獣は傷を負い、フィンの矢筒は半分を切った。
それでも誰も退かなかった。
日が傾く頃、王国軍の第一陣はようやく後退した。
大通りに、短い静寂が戻った。




