第四章 王国軍、西へ
王国軍が来る前に、噂が来た。
東の宿場が兵に占拠された。
鉱山へ向かう荷車が徴発された。
王都の商会が、戦後の採掘権を売り始めた。
そして三日目、東の地平線が土煙で消え見えなくなった。
シルヴァリアの城壁から見れば、それは砂嵐に似ていた。
違うのは、土煙の中に無数の旗があることだった。
王国正規軍。
貴族私兵。
商会傭兵。
異端審問局。
王都は、神の裁きという顔をした盗賊団を寄越した。
砦都の守備兵は五百余り。
敵はその何十倍もいた。
オーウェル辺境伯は城壁上で望遠鏡を下ろした。
「随分と大げさな盗賊だな」
◇◇◇
白旗を掲げた騎兵が一人、城門前へ進み出た。
読み上げられた最後通牒は長かった。
アポロとシルクの身柄を引き渡すこと。
エステルを王都へ返還すること。
異端に加担した者を処罰すること。
鉱山を王家の管摂理下へ置くこと。
オーウェルが辺境伯位を返上すること。
従えば、住民の生命と財産は保障される。
オーウェルは城壁の上でその書状を側近から受け取った。
丁寧に二つへ裂いた。
さらに二つへ裂いた。
紙片を風へ放る。
「返答だ」
城壁の下の使者に直答する。
「閣下、これは王命です!」
城壁を見上げた使者が叫ぶ。
「王命を名乗る盗人へ、渡す鉱山はないっ。」
「街が焼け、領民が失われますぞ。」
「ならば、貴様らが焼き殺したと記録するのだな。記録できるものならな。」
使者は馬を返した。
傍で、アポロがそのやり取りを聞いていた。
「格好つけやがって・・」
「聞こえているぞ、アポロ」
「なら話が早い。俺たちを出せ。目的は三人だ」
シルクが鼻を鳴らした。
「アタシたちがいなくても、あいつらは鉱山を取りにいくさ、賭けてもいい。」
城壁の向こう側に対峙している貴族たちは街ではなく鉱山を望遠鏡で見ているのが、先ほどからこちらの城壁からも確認できていた。
エステルが静かに言った。
「私たちは大義名分です。目的ではありません」
オーウェルはアポロの肩を叩いた。
「街を守るのは領主の仕事だ。貴様は自分の女たちと喧嘩でもしていろ」
「誰が俺の女だ」
シルクとエステルが同時に怖い視線でアポロを見る。
「……今のは閣下に言った。その凄まじい殺気を放つのを止めろ。」
「気のせいだろ。」
「私も関知していません。」
「お前らホントに怖え関係だな。」
オーウェル辺境伯はそれ以上何も言えなかった。
警戒鐘が鳴った。
敵陣から最初の砲弾が放たれ、城壁手前へ落ちた。
砂と石が高く噴き上がる。
辺境伯の側近たちの笑いはそこで消えた。
戦争が始まった。




