6.団長会議
アーツは、魔法の先生であるルーカス・アーダに連れられて、緊張しながらも第一騎士団のある王城の門をくぐった。
第一騎士団は、
王城全体の警備をする警備班
王族の護衛を任務とする警護班
王城と王都全域をカバーする結界等の守護を構築する魔法班(通称結界班)
に分かれている。
現在の第一騎士団団長は、フリント団長だ。
アーツは以前魔物騒動があった時に見ている。50歳くらいの、大柄で、誠実そうな人だったはずだ。
「そんなに緊張せずともよいぞ。フリントはちょっとぶっきらぼうじゃが優しい男でのぉ。第二や第三と違って、現役で剣をふっとるような団長と違って、今じゃただの管理職じゃ。昔はそれなりに剣をふっとたがのぉ。毎日、部下の一癖ある班長どもを如何に効率よく働かせるかに頭を悩ましておるようで、ワシと一緒じゃと愚痴が止まらん男じゃ」
ルーカス先生は、思いっきり暴露しているが、それは、内緒にしておいてあげた方が良い情報だったのでは?
アーツは苦笑いして、聞かなかったことにした。
*****
第一騎士団での訓練に混ぜてもらって、一週間。
もう、心身の疲労が半端ない。
なぜか、腫物を触るような扱いをされるのだ。ただの男爵家の、研修生という扱いの、下っ端以下の、お邪魔虫のはずなのに。
先生に、それとなく理由を聞いたが、
「まあ、アーツが気にせずともよい話じゃて」と言われて、頭を撫でられた。
絶対に関係あるのに!いや、関係しかない!
家でお茶を飲んで寛いでいた伯父夫婦と兄のラルフに相談しがてら愚痴を聞いてもらう。三人とも、不思議な事もあるものだと驚きながら聞いてくれた。
「学校が魔物の襲撃された事件が、第一で大きな案件になっていて、アーツには丁寧に接するようにって通達があったとかかな?」
「そうよね。あれは、王から直接命を受けた方が結界班に査察に入ったとかって大騒動になったんでしたっけ?」
「ああ、そうだったよね。被害者のアーツを受け入れたことで和解のムードを作りたくて必死なのかもしれないね」
「そうだよねぇ。僕なんかが第一の研修生だなんて、変だと思ったんだよ。先生も言葉を濁すし……」
三人は顔を見合わせて、
「嫌なら第一に入らなくてもいいんだよ。この家だって細々した仕事はたくさんあるんだからね」
「そうよ!ラルフの秘書になって、ずっとここに居ればいいのよ」
「いいな。アーツがいれば心強いよ。父様だって一緒に働ければ嬉しいはずだよ」
優しい身内がいて、本当に幸せだ。ちょっと過保護だけど……。よし、もう少し、頑張ってみよう。
そう決意して、来週もまた第一に訓練に出かけるアーツだった。
そんな、アーツには全く考えが及ばないところで、騒動が起きていたのだ。
*****
事の発端は、第一騎士団のフリント団長が、ひとりの学生に王宮内にある訓練所を使わせたいと許可を願い出たことに始まった。
「だから!あの小さくて健気な少年は、卒業後は我ら第三騎士団が結界士としてもらい受けるつもりだ。なぜ第一が囲い込むような真似をする!」
「ブフゥっ」
笑いをこらえるのに必死なのは、騎士団の団長会議に議長として出席している、第一王子のセドリック・バンドラだ。
おいおい、しょっぱなから何かがダダ洩れだな。
女嫌いで、クールな最強魔法剣士というキャラクターが定着している、いとこのヴァルの無自覚すぎる発言に噴き出すのをこらえて、変な音をさせてしまっていた。
セドリック以外にも、第二騎士団のムラノ団長も肩を震わせている。
どうやら、彼もヴァルがストーカーじみた執着をアーツに向けているのに気付いているようだ。
それはそうか。ヴァル自らアーツの訓練日には、いそいそと第二騎士団に書類を持参するのだから。
男同士の恋愛は跡継ぎでなければ別段珍しくもないが、女嫌いを通り越して、人嫌いになりつつあったヴァルの恋愛となれば話は別だ。
興味津々で大注目しているセドリックだ。だが、本人は本当に無自覚のようだ。嘘みたいな話だ。面白すぎる。
フリント団長だけが、なにか得体のしれない生き物を見るような目でヴァルを見ていた。そして、至極まっとうな意見を述べた。
「囲い込むというか、彼は魔法使いの訓練をしていますから、第一騎士団の訓練所のほうが適していると思います。元団員のルーカスも太鼓判を押していますし、何が問題か、分かりかねます。彼はそもそも第二騎士団で訓練しているのでしょう?第二騎士団が勝手に引き抜くなというならともかく、なぜ第三が?」
まったくもって、その通り!
セドリックは助け舟を出すことなく見守った。
「彼は、私が保護した子だ。だから私が面倒をみる。手出し無用だ」
「「ぶぶぅ」」セドリックと、今度はムラノ団長も加わって、変な音をだした。
保護?いつそんな話になった?と思いながらも、セドリックは口を挟まなかった。
「まあ、いいじゃねぇか。あれ程、魔法剣があれば魔法はいらねぇって突っぱねてた第三が、魔法使いを採用しようっていうなら、それで。そんでもって、卒業までは、一流の魔法使いが揃っている第一の訓練所でしごいてくれるっていうなら、ヴァルはただ、感謝しとけばいいだろ」
「それなら、いいだろう。ただし、第一の団員に釘を刺しておいてもらおう。彼は子どもの頃から苦労してきている。絶対に傷つけるなと。なんなら話しかけるな、目も合わせるな」
「ヴァル。お前、いい加減にしろ。今は仕事中だって思い出せ」
流石にこれはないと、セドリックは口を挟んだ。いとこが犯罪者になりそうだ。怖い。これは良くない方向へ向かっているかもしれない。
しかし、フリント団長は、
「あ……。そういうことでしたか。先に言っておいてくださったらよかったのに。変な空気だと思いました」そういいながらうなずいた。
クセツヨの部下を日々転がすフリント団長は、その見た目、肩書に似合わず柔軟であった。
「分かりました。アーツ君には傷一つ負わさず、丁寧に接するようにと通達を出しましょう。ただ、訓練自体には口を挟まないでください」
「……。それならいい」
丸く、収まったのか……?セドリックは不安に思った。




