4.第二騎士団
アーツはめちゃくちゃ褒められていた。元第一騎士団の魔法使い先生こと、ルーカスにだ。
「よくやったのぅ。ワシの可愛い教え子はようやってくれた!方々で大絶賛じゃ。魔法の練習に、第一騎士団が、専用の訓練施設を使ってもよいと言って来ておるぞ。どうする?」
あの魔物事件はアーツの人生を大きく変えることになったようだ。
ただ心の準備の出来ていないアーツは、
「いえ、いつも通りでいいです。王宮内にある第一騎士団の訓練施設なんて、足が重いです。近所にある第二騎士団の施設を使わせてもらっているだけで十分有難いです!」
身の程をわきまえていますアピールをすると、先生は少し残念そうにして、
「そうかのぉ」と引いてくれた。
学生の身で、初めての魔物との遭遇。友人を護るために、とっさの簡易魔法行使。その後安全を確保しながら結界の構築。
なまなかなことではない素晴らしい偉業なのだが、アーツ本人だけが、そうは思っていないようだ。
ルーカスはアーツをスカウトしてきて欲しいと、後輩である、現第一騎士団団長にお願いされているのだが。繊細な生徒に無理強いは逆効果だろうと自分の手元で保留にしているのだった。
*****
第二騎士団の訓練所は、城の北門の側にある。伯父の家からも近くて通いやすい場所だ。
もう3年以上週に二度通っているので、団員はみな知った顔だ。
練習が終わって、先生と別れたあと、アーツは団員に囲まれた。
「おう!アーツ!聞いたぞ。お前大活躍だったっていうじゃないか!」
わしゃわしゃと頭を撫でられる。ふわふわのくせっ毛は触り心地がいいと、なにかというとわしゃわしゃされるのだ。
「俺も聞いた!魔物をちぎっては投げ、ちぎっては投げの大立ち回りだろ!?」
なんか、違う。
アーツは必死で結界を張っただけだと訂正した。もみくちゃにされながらだけれど。
第二騎士団は王都警備が仕事で、身分を問わない剣士の集まりだ。
「魔法剣が使えりゃ、花形モテモテの第三に行けるのによぉ」というのが合言葉の集団だとも言える。
それほど魔物というのは規格外の強さで、普通の剣で傷を負わせても回復してくる特性を持っている。
魔法剣でなくても、魔法でも倒せるが、長い呪文が必要な為、計画的な討伐以外では使いづらい。
それをアーツは数日前痛いほど感じた。
なんにせよ、ここ第二騎士団で、居心地よく訓練させてもらっているのに、王宮の第一騎士団訓練所を使わせてくれるというのは、アーツにとっては、はっきり言って有難迷惑だった。
「飯だぞ~!アーツまだいたのか、一緒に食ってけ!」
居心地最高!
平民ばかりの第二騎士団だが、アーツは一応貴族令息。身分差があるはずだが、男爵家の次男坊なんざ、ほぼ平民だと笑い飛ばされて終了だった。
そんなところもこの居心地のよさに起因している。
むさ苦しい剣士に混ざって、野外の大テーブルに小柄なアーツがちょこんと座り、小さな口で一生懸命肉をほおばる姿は、小動物を思わせる愛らしさだった。
自分がマスコット的立ち位置にいるとは、アーツには思いもよらないことだった。
しかし、それを氷を思わせる目つきで眺めている者がいた。
合同訓練の打ち合わせに寄ったヴァル・トルティンだった。
*****
「少し、いいか」
ヴァルはお茶を出しに来た第二騎士団の団員に声をかけた。
無双の、公爵家の、王子様の親友の、美貌の、など、枕詞に事欠かない第三騎士団団長様に声をかけられた団員は直立不動になりながらも愛想よく応じた。
「あいつは、いつもああなのか」
視線で示した先は、アーツが団員たちにわしゃわしゃやられながら食事をしている風景だった。
重大な案件ではないと悟った団員は、少し姿勢を楽にして、
「ああ、アーツですか。練習の終わりにたまに飯をくっていくんですよ。可愛い奴でしょう。うちのマスコットみたいなもんです」と答えた。
マスコット。
団員は悪気など欠片もなく、にかっと笑っている。ヴァルは「そうか」とだけ答えた。
ヴァルはお茶をすすりながら、合同訓練の書類に視線を戻した。
戻したのだが、文字が頭に入ってこなかった。
『うちのマスコット』
なぜだが、このワードに猛烈に抗議したかった。
健気にみんなを守り切って力を使い果たした少年。ヴァルの腕のなかで、安心しきって意識を失った少年は、なぜか自分の保護下にあるような気がしたのだ。
*****
「ごちそうさまでした!」
アーツは元気よく立ち上がった。
その瞬間、部屋の中にいる人物と目が合った。
トルティン団長だ!
アーツは、先日、自分を保健室まで運んでくれた団長にお礼を言わなければと駆け出した。




