26.収束
アーツは、第一騎士団の結界班とともに、プンダリス公爵邸の外にいた。
第三騎士団の中で結界をはって籠っていろと言われたが、ヴァルを説得することに成功したのだ。
「僕、役に立ちたいんです。どんなことでもしますから!いつもは前線のそばに避難所を作っているんです。ここでだけ守られたって仕方ないでしょう?」
「いや、しかし、魔物の研究がどのようなものか分かっていない。凶暴性が増していたり、アーツにだけ執着するように調教されている可能性だってある。危険すぎる。許可できない」
「だったら、せめて、結界班のお手伝いをさせてください。公爵邸を包囲する結界の外なら構わないでしょう?お願いします。僕、自分の関係している事件なのに、ひとり蚊帳の外は嫌です!お願いします」
熱弁をふるうそばから涙があふれてきて、格好がつかなかった。
「あ、……」素早く涙をぬぐう。
ヴァルは、それを見て、一瞬とても困った顔をした。これがトルティン団長ではなく、ヴァルの本来の表情なのだろうと思われた。
「仕方ないな、第一の結界班から決して離れるな」
泣き落としみたいになっちゃった!
アーツはそう思ったが、許可がもらえたので、お礼をいって笑顔で駆け出した。
*****
役に立ちたいと涙するかわいい恋人を、だれが邪険にできるだろうか。
ヴァルはなまじ才能のある恋人の後ろ姿を見送りながら、
「魔法なんて使えなかったら閉じ込めておけたのに」とつぶやいた。
「おいおい、なに物騒なことつぶやいてるの?怖いよ」
ロスが続き部屋の副団長室から入ってきた。
アーツ親衛隊なんてものを勝手に作ったことを叱って、解散させなければいけない。アーツを陰ながら見つめるのは自分だけで沢山だからだ。
だが、公爵邸を見張っていたこと自体は褒めざるをえない。
王太后であるおばあ様も、こいつではなく私に一番に教えてくださるべきだった。
ひと睨みするも、ひょうひょうとしたものだ。
「顔も怖い。アーツが泣いちゃうわけだ」
「アーツは私の顔が怖くて泣いた訳ではない!そもそも、どこで見ていた?」
「え~。内緒」
「そこの壁を徹底的に調査しよう」
そんな話をしていると、急使がやってくる。
「大変です!プンダリス公爵邸の離れの地下から叫び声がしているそうです。屋敷から人が逃げてきています。出て来た人間は捕縛ですか?保護ですか?」
「いったん捕縛だ。公爵も捕縛でいい。使用人と同じ檻に入れておけ!」
やりたい放題の公爵に後ろから足を引っ張られるのはごめんだ。
ヴァルは魔法剣を帯刀して駆け出した。
*****
地下の現場は凄惨だった。
魔物が人を襲い、その後は共食いを始めたようだ。
最後に残った一頭をしとめるだけでよかったので、第三騎士団的には戦闘としては容易だったが……。
恐ろしい残骸が散乱している様子は、見られたものではない。
セドリック王子も現場に駆けつけてきた。
「あ~。これは、酷い事になったね。でも、普通に暮らしていた者が犠牲になるよりは良かったと言わざるをえないな」
「アーツをこんな状況にしようとしてた輩に同情はないが、公爵に逆らえなかっただけなら、多少の憐れみは感じる」
「そうだねぇ。どんな悪人がいたかを遺族も知らずに済ませるのはよくないねぇ」
「どういう意味だ?」
それからセドリックが行ったのは、徹底的な聞き取り調査だった。下働きから納入業者まで含めて行われ、どこまで、誰が、この件に主体的に関与していたかが調べ上げられた。
この動きで、公爵領の人々は、領主がなにかとんでもないことをしでかしたと認識し、王都の人にも、大貴族の不祥事があったのだろうと察せられた。
そして、その後に事実が知らされる。
立て看板には次のようにあった。
『公爵の王族に対する逆恨みとその娘の八つ当たりの為に、王都に50匹の魔物が放たれる計画があった。それに関与した、もしくは関与させられた使用人は魔法使い、魔法騎士を含め35名。全員、魔物の反撃にて死亡。亡骸は引き取りを申し出た家族のもとに返される。』
これを見て、その規模と凶悪さに王都民は驚いた。家族も知らせに驚いたが、凄惨な亡骸を見た後には、それは怒りに変わった。
*****
アーツは、目立たないようにピッピを斜め掛けのカバンに入れて王都の広場が見える場所に立っていた。
広場には檻が設置されている。それを見て、ため息をついた。
人々は、今となっては、『元公爵、元公爵令嬢』となった者に、罵詈雑言をあびせ、遺族は石を投げている。
「こんな終わり方しか、無かったのかな」
ヴァルはそっとアーツの手をとり、優しく語り掛けた。
「出来うる限り迅速に動いた結果だったと思う。これ以上は何もできない。セドリックもああすることで、多少のガス抜きをすませてから、労働所送りにすると言っていた」
「そうですか、それならまだ良かったんですか?ね?」
「そうだ。私ははっきり言って、アーツが傷つかないならどうでもいい。貴族の逆恨みや足の引っ張り合いなど、吐いて捨てる程あるからな」
檻のほうを見つめて、あきらめたような口調で言うヴァル。
アーツは、少し考えて言った。
「セドリック王子とヴァルが女嫌いになったことと関係ありますか?あ、いや、聞き出そうとかじゃないんですけど、すごく悲しそうに見えたので。大きな傷になっていることってそういう方面かなって。ごめんなさい。嫌なことですよね」
「いいんだ。だが、楽しい思い出でないことは確かだ」
「ヴァル……、悩みがある時は一緒に悩みましょう。僕は、ヴァルが『よくがんばった』って言葉をかけてくれるだけで元気が出ます。ヴァルにも元気がでる何かを言ってあげたいです」
ギュっと抱きしめられた。
アーツは、そのことに大きな安堵を感じた。それをお返ししようと、ぎゅっと抱きしめ返した。
「ヒュー!お熱いねぇ!」と通りから、からかう声がかけられた。
真っ赤になったアーツの肩を抱いて、ヴァルは速足でその場を離れてくれた。




