25.アーツ親衛隊
どのような魔物研究がなされたかは知らないが、魔物が放たれてしまえば、アーツひとりだけが襲われるということは考えにくく、下手をすれば王都のかなり広範囲に被害が出るだろうと予想された。王都の全騎士団員に招集がかけられることになりそうだ。
魔法剣士の少なさから、すべての警戒行動の班分けは、魔法剣士1人につき剣士が5人の6人一班にすることが決定される。
そして、標的とされるアーツ本人の警備の話をしていると、緊急連絡の知らせを受けて少しの間席を外していたロス副団長が帰って来た。
「ああ!大丈夫!アーツには『アーツ親衛隊』がすでに結成されているからね!」
「アーツ親衛隊?」「親衛隊だと?」
アーツとヴァルの声が重なった。
「そうだよ。僕さぁ、お茶会の時に王太后様から、リリ嬢が変な噂を流しているから気を付けてあげてって頼まれてたんだよねぇ。それで作ってみた。親衛隊!」
満面の笑みで、胸をはっているロス副団長は生き生きしていた。
「隊員募集したら第三も第二も、騎士団丸ごと入ってきたよ。ビックリだね。第一は結界班全員と、剣士は半分って感じかな。王族の警護班は忠誠の騎士だから、表立っては入りづらいよねぇ。あ、でも、フリント団長は親衛隊の副隊長だよ」
「……。お前はいったい何をやっているんだ?」
「もっと尊敬してよ。僕が隊長だよ。騎士団ほぼまるごと僕の部下ってこと!」
「そもそもアーツの親衛隊なら、アーツが絶対的なトップなのでは?」
セドリック王子も突っ込んだ。
「う~ん。そう言われるとそうかな?でも似たようなもんだよ」
「6人班で班分けが決定しているから、親衛隊は解散だな」
「まあまあ、そう言わないで、もう実績上げたかもしれないよ」
ニヤリとほほ笑んだロス副団長は少年のようだった。
この人が35歳なんて……。最初に聞いた時の衝撃はすごかった。
見た目も言動も20歳そこそこの天才魔法剣士は、いつだってアーツを驚かせる。
今回も、ビックリ箱の副団長は告げた。
「今さっき席を外したでしょう?報告が来たんだ。親衛隊の初手柄だね。プンダリス家を見張っていたら、離れの地下の食糧庫にどんどん人が入っていってるってさ。勝手に王都で地下を拡張したら違反だったよね?ムラノ団長?」
「そうだな」
「じゃ、逮捕しちゃえるかなぁ」
テーブルに広げた敷地の見取り図を指して、説明を始めるロス副団長。
「ここが食糧庫。申請されているのはこの区画。そんな場所に、30人以上入って行って、出て行った人間はいない」
「明らかに拡張しているか」
「だけど、『それだけ』だともいえる。公爵邸に、それだけが理由で踏み込めるか?」
セドリック王子は慎重に発言した。
「普段なら様子見かもしれないけど、魔物をひきいれている疑惑のある公爵家の地下だよ。僕はとっかかりとして、利用していいと思うなぁ」
「そうですね。王子、魔物の襲撃を受けて対処するより元を絶つ方を優先するべきかと」
アーツは初めて魔物と対峙したときの恐怖を思い出しながら、街の人にそんな思いをさせてはいけないと、心を強くした。
ただ、一つだけ疑問があったので投げかけた。
「魔物って、すごく凶暴ですよね。理性を無くして凶暴化した元動物だと習ったし、僕自身第三騎士団勤務になって、そうだと実感します。なぜ、プンダリスの人はそんな凶悪な生き物を、公爵邸に運んでも安全だと自信があるんでしょうか?」
「そうですね。恐らく魔法使いが強力な眠りの魔法を発動しつづけているか、強力な睡眠薬を開発したかですかね。領地の魔法剣士を大量に動員したというのは、万一の制御不能の状態になったときに公爵を守る為でしょうか」
フリント団長の言葉に、ムラノ団長も続けた。
「それとも王都の警護を手伝って恩を売る気かもしれねえぞ。自作自演というやつだな」
「それなら、地下に抑え込めている間に、査察と言う名目で突入しましょう」
セドリック王子の一言で動きだす。
「結界班に公爵邸の敷地を極秘で囲ませて、被害は公爵邸だけになるようにしましょうかね」
フリント団長はきっぱり言った。
裏を返せば、公爵邸はどうなってもいいってことだ。
アーツは、公爵の絶対的な命令で、悪事に加担せざるをえなかった人がいるなら、穏便に済んで欲しいと願った。
それに、10年前に一年だけだが世話になった領地の使用人や剣士が、王都公爵邸に来ているかもしれない。
班長クラスの団員も大勢招集されて、慌ただしくなっていく。
アーツの仕事は、自身に結界を張って、大人しくすることだけだった。




