23.微笑ましいデート
馬車で迎えに来てくれたヴァルに連れられて向かったのは、植物園だった。
のんびり、散策して歩いている。
「なんでも、この奥にある温室の花は、数年に一度しか咲かない珍しいものらしい」
「そうなんですね!楽しみですね」
「独特な香りがするといっていた」
「香りですか。僕、バラの香りくらいしか知りませんよ」
「わたしも似たようなものだ」
「じゃあ、今日はいっぱい勉強して帰りましょう!」
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社会科見学かよ!と突っ込んでいたのは、偵察部隊のロス。
不審者と思われながらもなんとか、入園ゲートを突破して追いかけて来たのに、甲斐のない会話が続く。
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「うわぁ~!すごい匂いですね!」
「独特の香りとはこういうことか。すぐに離れよう」
強烈な腐臭だった。まだ、服に匂いが残っている気がして、パタパタとジャケットをはたくアーツを手伝って、ヴァルが背中をポンポンとたたく。
「あっ」たたく手が重なる。
そんなささやかな触れ合いも、照れくさくて、挙動不審になるふたり。
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「甘酸っぱいス。青春のかおりッス」
「ピッピがいなければだね。見て見ろ、ピッピがしっぽでヴァルの手を払いのけてる」
「不憫ッス。団長……」
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植物園からカフェに移動して、プリンアラモードを堪能していたアーツは、ピッピにサクランボをお裾分けした。
「ドラゴンは肉食だと思っていたが違うんだな」
「そうですね。ずっとお肉をあげてたんですけど、僕が食べるものも欲しがるんです。いろいろあげてみた結果、一番好きなのは果物みたいです。もちろんお肉も好きだけど。ね?ピッピ」
「ぴっぴ~!!」
「トルティン団長は、何がお好きですか?」
「トルティン団長と言われることは好きではない」
「……?」アーツは一瞬何を言われたか分からなかった。
「あ、呼び方ですか。職務中じゃないですもんね。トルティン公爵令息ってお呼びした方がいいですか?」
「ヴァルでいい」
「……。えっと、いきなりはハードルが高いです。よね?」
「それなら、わたしもウィリアム男爵令息と呼ぶことにする」
「それは、嫌ですね」
「わたしも、嫌だ」
「ヴァル」
「これでいいですか?ちゃんと呼びました」
ヴァルは、カパカパと口を数度動かして、閉じた。
お互いに真っ赤な顔で座っている。
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「副団長、プリンより甘々なもん見て、胃もたれしそうです」
「もう、見てられないッス。こっちが恥ずかしくって!」
「耐えろ。もう終わる。初デートはお茶の時間までで家に帰すのが鉄則だからな」
「お~~!貴族の謎ルールに感謝する日がくるとは!」
「馬鹿、お前静かにしろ!」
結構大騒ぎしている偵察部隊だが、ふたりの世界に没入している初々しいカップルには気づかれることはなかった。
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「まあまあ、そうなのね!ヴァルも普通の子だったのねぇ。微笑ましいったらないわ」
ロスの偵察報告を大喜びで聞いてくれた王太后様。
キスもハグもない報告で申し訳ないくらいだったが、『微笑ましい』という評価をいただけた。
実際、ロスにとってはこれ以上ないエンターテイメントだった。
明日から小出しにしてからかうことを思うと、晴れやかな笑顔があふれそうだ。
「ああ、それから、ロス副団長。ちょうどいい機会だからお話しておくわね」
そう言って始まったのは、10年の謹慎が解け、プンダリス公爵家が王城への出入りと、リリ嬢の再婚が可能となって動き出した話だった。
「普段なら、なんでもないことよ。上級貴族の失態はあまり公にはならないから、みなしれっとした顔で謹慎から戻ってきているわ。でもね、リリ嬢はね、今となっては『ドラゴンを従えた特別な青年』を捨てた令嬢となってしまった訳。当然、上級貴族は避けているわ」
「それは、そうなりますよね。それに、ヴァルのお気に入りだというのは有名でしょうし、第一第二の団長までアーツのファンだ。そんな今をときめくアーツの古傷の元凶ですからねぇ」
「令嬢本人がしおらしくなっているなら救われるんだけどね」
「良い方には成長していないと?」
「どうやらそうらしいの、自分が避けられているのはアーツの差し金だといいふらしているようよ。お節介かもしれないけど、大事な孫の大事な人だから、やっかいなことには巻き込まれて欲しくないわ」
いつもの朗らかなトーンを落として話す王太后様に、心から心配していることを感じてロスも真剣に聞いた。
そして、さらに低いトーンで、
「他にもちょっと気になることがあるから情報を探っている段階なの。とりあえずこのことは、フリントやムラノには話したし、ヴァルにも伝えるつもりよ。でもあなたにも気にしておいて欲しいの。お願いするわ」
「かしこまりました」
ロスは、楽しい気持ちが半減してしまったこのムカつきをプンダリス公爵家にぶつけると決めた。
アーツ親衛隊でも作って、プンダリス家を見張るとするかな。




