22.初デートの不安
アーツは緊張していた。伯母様にいわれたとおりにきちんとした格好をして準備万端に整えて居間に座っていたが、迎えの時間が近づくにつれて、手が汗ばんでくる。
伯母様は、アーツの様子をみて、優しく声をかけてくれる。
「アーツ、嫌ならやめてもいいのよ?」
「ううん。全然嫌じゃないよ。でも、なんでだろう。すごく緊張する。デートしてみて、平凡すぎてつまらないって言われたら?何度かデートして、飽きたわ!って言われたら?……僕はどうしたらいいんだろう……。よく考えたら、一番避けるべき公爵家の人と一緒に出掛けようとするなんて……」
「アーツ!よくお聞きなさい」
滅多にない伯母様の強い口調に、丸まっていた背筋が伸びた。
「いいこと、アーツ。人の心は移ろいやすく、先のことなど誰にも分からないわ。それでも、大事なものを大切に扱う人は、プンダリスのように、人を切り捨てるような真似はしないものよ。トルティン団長は人や物を大切に扱わない人かしら?」
「……とっても、大切に扱うよ」
「いいことね。それじゃあ、問題は半分解決ね!あとは公爵家とのお付き合いのことね。あなたの同期はみんな普通のご家庭のご子息よね?」
「え?うん、そうだけど?」
「公爵家とは天と地の身分よね?」
「身分だけで言うとそうだね。でも、団長はそんなことは関係なくみんなに平等だし、訓練をさぼると怒るけど、頑張っていると褒めてくれる。公爵家の人だからって、悪い人じゃないよ!」
「そうね。じゃあ、アーツの悩みは全部解決ね。いい公爵家の人だったら、避けて生きていく必要はないのよ。あなたの心に残ったわだかまりは早々には消えないかもしれない。でも、だからって、全てを否定していてはダメ。私はそう思うわ」
強くて、温かくて、ちょっと能天気で、アーツを励ますための全てが詰まった言葉だと思った。
母様より、よほど母親らしい伯母様だ。
母様に全く不満はない。生家の伯爵家の領地で生き生きと放牧場の采配をしていると聞くと、よかったねと思うけれど、こういった時に助けになってくれるのはいつも伯母様だと、純粋にそう思うアーツだった。本当に感謝しかない。
「伯母様ありがとう。大好き!僕は素敵な家族を持っているね!それだけでも僕の価値は、すごい!」
「まあ、嬉しい評価ね。素敵な家族を持っていることが価値なら、私の価値も最上級ね!」
ふたりで、ふふふ、と笑った。
「おや、楽しそうだね。デート攻略の相談かい?」伯父様が入ってくる。
「そんなところよ。アーツとデートできるトルティン団長は幸せ者だわって話」
「それはそうだ。アーツは我が家の天使だからね。ピッピという小さな見張り役もいるし、安心なデートになりそうでよかった」
*****
そんな会話がされているころ、
ロスという、大きな見張り役は配置についていた。非番の部下を数人呼び出して手伝わせる念のいれようだった。
「副団長、実際の所、キスはストップをかけますか?それとも見守りますか?」
「キス……。僕らのかわいこちゃんと不愛想なヴァルのキス……。見たいような見たくないような……。いや、ここは見守ろう。というか、絶対にそこまで進展しないから、無駄な心配だ!」
「副団長、連れ込み宿に入りそうになったらさすがにとめますか?」
「お前たちと一緒にするな。あのヴァルだぞ、そんな場所、存在も知らないさ」
「副団長」
「何だ!」
「出てきます。静かにしてください」
*****
王太后は期待していた報告が聞けるのか?やや不安な偵察部隊である。




