21.感謝×3
ヴァルは、ロス副団長に頭を下げていた。
「へぇ~。自分だけかわいこちゃんとデートがしたいから、今日の王太后様のご機嫌伺いに代わりに行けって?」
「う……まあ、平たく言うとそうだ」
「平たく言っても、盛り土して言っても同じだし!」
「僕は心配だな~。悪い女にいれあげて、身代潰した若旦那みたいなことし始めるヴァルが~、とって~も、心配。先約があったなら守ろうよ~。デートは代わりに僕が行ってあげるから!」
「断る!」
「こっちが断る!」
「……いや待て。アーツがデートをしたことがないというから、つい、それなら明日行こうと言ってしまったんだ。その後、おばあ様とのお茶会を思い出したんだ。だから頼む。貴重な初デートで代打はまずい。わかるだろう?」
「え~、そもそもなんで、急にデートなんて話しになったのか、最初から教えてくれたら考えようかなあ~」
ヴァルはお見合いを知ったところから話し始めた。そうして、話し終わったあと、今一度頭を下げる。
「そういうことなら、仕方ないなぁ」
ぼやきながらも、王城に行く仕度をしてくれるロスに感謝した。
*****
ロスは、第三騎士団の団長時代から妙に気があった年配のご婦人、王太后様と話をするのは一向に苦ではない。とても楽しい人なのだ。
よって、自分のこれからの行動は許されるだろうと、推測している。
お茶の約束の時間より早く、いや、出来る限り早く、王太后様と会えるように計らってもらう。
「それで?孫はお茶会に代打を送ったと知らせてくるし、代打は、すぐにも会いたいと言ってくるし、慌ただしい事ね。説明なさって」
「不躾なことで失礼いたしました。ですが、時間がございません。私が、代打を打診されたのは、ついさっきです。理由は、目をつけていた可愛い子を、ようやくデートに誘ったからだそうです。こんな面白いことは共有せねばと思いまして、これからお許しをいただいて、偵察に行きたいのです。ですので、」
「偵察から帰ってくるまでお茶会は待っていてくれってことね!」
「流石!お察しくださると思っていました」
「一つだけ確認させて。お相手はアーツであっていて?」
「そうです」
「すぐに行って!まかれないように注意するのよ!」
「はい!」
こんなノリで面白い事につき合ってくれる王太后様に感謝した。
*****
王太后は、いつものお茶会が、とてつもなくワクワクするものに変わったことを歓迎していた。
女嫌いに成長した孫のひとりが、少年に執着してこっそり追いかけ回していると報告が来たときは頭を抱えたものだけど、相手が想いに答えてくれたのなら喜ばしい限りだった。
それにしても、何かとよく名前をきく少年だった。なにかしら自分と縁があるのかもしれない。そう思う王太后だった。
手元の資料をめくる。
最初にアーツの名前を目にしたのは11年前、『7歳の男爵令息、公爵令嬢と結婚』というものだった。
国内貴族の動向を探るうえでも結婚は重要なものだ。
7歳同士の結婚を、幼馴染のおままごとのような結婚だろうと、生暖かくみていれば、翌年、『8歳の男爵令息、公爵令嬢と離婚、男爵家は管理職を解かれ放逐』だという。きな臭いというより、公爵家の横暴がひどかった。
王族会議で、プンダリス公爵家へ、王城への10年間の出入り禁止と、リリ嬢の再婚申請の10年間の停止を申し渡したのがついこの間のことのようだ。
王に向かって、異議を唱えた公爵に、
「身分の下のものをどう扱ってもいいと、お前が前例を示しただろう。私も、身分が下のお前を国外に放逐したい気分だよ。そちらの処分に切り替えようか?」と言い放った王は、我が息子ながらあっぱれだった。
17歳、貴族学校の魔物襲撃事件で名前を目にしたときは、嬉しかった。
ああ、あの子は逞しく王都で生きていたんだな、と。
そこから先の書類には、我が孫息子が、いかに『俺のかわいこちゃんに手を出すな』と周りを威嚇したかが報告されていて、目が滑る。
そんな書類をめくりながら、孫息子の幸せなデートの偵察の報告をウキウキしながら待っている。
王太后は、そんな時間をくれたアーツに感謝していた。




