2.学校と第三騎士団
王宮にもほど近い、王都の一等地にある貴族学校は敷地の半分は第三騎士団の施設と接している。
王都第三騎士団は魔物討伐をおこなうスペシャリスト。魔法剣士という魔法を剣に乗せて放てる特殊技能の持ち主が集められる最強集団だ。
世界が魔物に蹂躙されないために必要な人材とあって、高給取りだ。
アーツは、魔法剣士たちを一目でも見たいと、隣の敷地を見つめている女の子を見ては、昔、騎士様ごっこをさせられていたことを思い出すのだった。
日々真摯に任務に向き合っている騎士たちが、リリの毒牙にかからないことをアーツは祈っていた。
そんなある日、いつにない大勢の人々が第三騎士団の敷地に押しかけていた。
情報通の侯爵令嬢が、窓の外へ視線を向けたまま、
「今日はヴァル様の団長就任式だったのよ!きっと騎士団の正装のまま王城からお帰りになるはずよ。あぁ!見物人が多すぎて、ここからじゃお姿が見えないかもしれないわ!」
「廊下の窓のほうが良く見えるかもしれないわ!」
「まあ!急いで参りましょう!!」
男子生徒はそんな様子を遠巻きに眺めながら、
「お前の好きな子も夢中だな。いいのか?」
「ヴァル・トルティン公爵令息と張り合うなんて馬鹿のすることだよ。それにあちらは観賞用なんだとさ。極度の女嫌いらしいしな」
「若干20歳で超一流の魔法剣士様で、家柄は公爵家、親友はいとこの第一王子様、顔面偏差値も雲の上レベル。なんつー嫌味な存在だ!」
男だけになると大抵は女の子の話になる。それだけ学校生活での出会いは大事なものだからだ。
アーツは、自分には縁のない話だと聞き流していた。
プンダリス公爵家が捨てた婿を拾う物好きはいない。それはアーツ自身が一番よく知っていた。
「アーツは将来なんになるとか決めてるか?」
隣の席の子爵家次男ディックが珍しく話しかけてきた。
「僕は魔法の訓練をしているから、それが生かせるといいなって思っている」
「へえ、案外ちゃんと考えてるんだ」
「そりゃあね」
「バツイチってしんどい?」
「……、どうだろ?あんまりにも子どもだったから……」
「そうだよなぁ。俺の家でも断れなかっただろうなぁ」
下位貴族の次男同士、静かに語り合う。しばらくして、ディックがふと思い出したように言った。
「学校で会ってもリリ様はなんも言ってこないの?」
「なんにも。目もあわないよ」
「下級貴族なんていないも同じって態度だもんなぁ。でもよかったかも。被害者が増えなくて。高位貴族なら、むちゃな縁談に従わなくてもいいもんなぁ」
「あ、ごめん。無神経だった」
自分で言っておいて、自分で謝ったディックは良い人のようだ。
今までアーツは揶揄われることを避ける為に、人とかかわることを避けすぎていたのかもしれない。もう少し、心を開けば友人と呼べる人ができるかもしれない。
そんなちょっとの期待が、ふわふわの茶色い髪を撫でて行く風を優しく感じさせてくれる。
廊下から、「キャー」よりも「ギャー」に近い叫び声が聞こえてくる。
ちょうど騎乗した新団長がにぎにぎしく第三騎士団の門をくぐるところだった。
なるほど。見たこともない男前だ。
あまりにもハイレベルだと同じ人類に思えないものなのか。
馬上で集まった人々に手をふる新団長。アイスブルーのサラサラな髪がキラキラ光って、アーツには別世界の人に見えた。でもなぜか、目が離せなかった。




