19.恥ずかしい!
「溺愛。溺愛?溺愛!……できあい。デキアイ!?」
アーツは部屋でひとり、何度も繰り返していた。
本当だろうか?
疑心暗鬼のアーツだが、思い当たることがないでもない。
アーツは、第二騎士団にムラノ団長を訪ねることにした。ディックの情報が正確なのか、確かめたい。
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「あ~。耳に入っちまったか~。すまねえなぁ。だが、なんでも賭けちまうやつらだからよぉ。気にしないで普通にしてりゃ~いいからな」
ストレートに、ヴァルが自分に告白する時期を賭けているって本当か?と問いただした答えがこれだった。
本当だった。
「それは、あの、トルティン団長が、僕の事を好きって前提があって?そんなことに?あ……、ムラノ団長に聞くのはお門違いでしょうか……」
「ガハハハ!かまやしねえ!ぶっちゃけて言うとだな、どこの騎士団の誰に聞いたって、『そうだ!』って答えるからな!ガハハハ、ハアハアァ。あ~笑い過ぎて腹いてえ」
「誰に聞いても……」
「そうだぞ。それくらいお前はあのむっつりスケベ男に過保護に守られてるんだ。もしお前が嫌がっていたらよぉ、俺もフリント団長も体張ってでも止めるけどよぉ。お前、面食いだから、ヴァルが好きだろう?」
「面食い!!!!?僕がですか?」
「そうだ!お前がだ!しょっちゅうヴァルを見ては、崇める言葉を連呼してるぞ。『なんて美しい髪だろうサラサラって音がしそうですね』とか、『藍色の瞳ってなんであんなに神秘的なんでしょう』とか、『人って綺麗すぎると人間に見えませんね』とか、あとは、」
「もういいです!ありがとうございました!」
アーツは逃げた。顔は真っ赤か、真っ青か、いずれにしても普通ではない心拍数の心臓を抱えて、人気のない場所を目指した。
王都を見下ろせる小高い丘に、ゴロンと仰向けに寝転がった。
ハアハアと息を切らして慌ただしいアーツとは対照的に、空は高く、雲は優雅にたなびいている。
久しぶりに、空を見上げた。
子ども時代、現実逃避するように見上げた空を思い出す。
騎士団に入って、毎日が必死で、ピッピがやってきて、さらに慌ただしくなって、気づくと空を見上げている時間も無くなった。
だが、あの頃と同じ。空を見上げても何も変わらない。現実が良くなるわけではない。そして、今回も、恥ずかしい無意識の言動を、人に忘れてもらう事はできないのだ。
「う~、やだ~、もう合わせる顔がない~!」
地面をゴロゴロ右や左に転がっているアーツをみて、ピッピも真似するようにコロコロと横に転がった。
「ぴっぴ~~~!」
楽しかったようだ。
ピッピを抱き上げて、目線の高さまで持ち上げる。
「ねえ、ピッピ、僕ってトルティン団長が好きなのかなぁ?」
「びっび!」
体全部を揺らして、違う!気のせいだ!と言っているようなしぐさに笑う。
「そうだね。今の僕の一番はピッピだよね。可愛いもんね」
「ぴっぴ!!」
二人で、会話?のようなものを楽しんだ。
なんだかスッキリして帰宅したアーツだが、自分の恥ずかしい言動についての対処法は何一つ浮かんでいなかったことに気付いた。
「トルティン団長がいらっしゃっている!?」
「そうよ!草まみれのお洋服をすぐに脱いで、着替えをして、居間に急いでいらっしゃい」
伯母様はアーツにそういうと、すぐに自分もお化粧を直さなくちゃと慌ただしく出て行った。
「あれだけの美男子の前にでるには、完全武装しないとねぇ」
そう言った後、アーツは、自分の手で自分の口を押さえた。
これだ!本当に、恥ずかしいセリフを言っている!
どうしよう。今まで本人の前でも言っていたんだろうか?
厄介な口を縫い付けてやりたくなりながらも、居間に急いだ。
上官であるだけでなく、公爵令息のヴァルを待たせてはいけないのだ。




