18.ディックの情報
騎士団の仕事が休みの日には、お見合いの予定が入るようになった。
「流石に王様が無理強いはダメだって釘を刺してくれているだけあって、強引な人はいないねぇ」
お断りの返事を書いても、クレームがこないので、伯父様は安堵していた。
断る理由は、いつもピッピが大騒ぎして、火を吐くしぐさで撃退するからだ。
聖なるドラゴンの拒絶にクレームを言うなんて、相手側は考えもしないだろう。
「いい子だね。僕にぴったりの人を探してくれるつもりかな?」
そう言いながらアーツはピッピを優しく撫でている。ピッピはしっぽを盛大に振って褒められたことを喜んでいるようだ。
アーツとしては、もはやここまで事が進んでしまったのなら、ピッピが気に入った人と結婚してもいいと、覚悟を決めていた。
上級貴族が苦手なのに、上級貴族ばかりから見合い相手が送り込まれてくる。
何の因果かと、ため息しか出ない毎日だった。
そんな時、アーツを訪ねてくれたのは、学生時代の友人、子爵家令息のディックだった。サザビー伯爵家に婿入りが決まっている、あのディックだ。
「おお、アーツ。大変な事になってるな。あ、これか!ドラゴンだ!ピッピ様、初めまして。俺はアーツの友人だから、撃退しないでね」
いつもの調子で入ってくるディックに心の底から安心した。
アーツという個人を見てくれる人もなく、ドラゴンの付属品のような扱いの見合いをし過ぎているのかもしれない。
机の上のふかふかな敷物に置かれたピッピをひとしきり観察して、顔を上げたディックは驚いた。アーツがハラハラと涙を流していたからだ。
「アーツ!お前……。見合いか?そんなに嫌なら言えばいいんだよ。無理強いは禁止されているって聞いてたけど、違うのか!?」
「ううん。大丈夫、でも、僕ってなんなんだろう。どうしていいか分かんなくなって。騎士団でも必要とされてなくて、お見合いもピッピのおまけ。もう、どこにも居場所がない気がして……」
言い始めたら止まらなくなって、不安を全部ディックにぶちまけた。
ディックも、伯爵家への婿入りで気苦労があるはずなのに、アーツの話をひたすら聞いてくれた。
「なるほど、お前の悩みは分かった。だが、騎士団のことは、お前の取り越し苦労だ。絶対に!俺が仕入れた情報によれば、トルティン団長は、お前を溺愛していて、入団前から、他の騎士団に、お前にはちょっかいを出すなと牽制をしていたらしい。そんでもって、特別枠で入団させたのは、お前を手元に置いておきたいからだとさ。今回の討伐で怒ったのは、お前が怪我をしないか心配でたまらなかったせいに違いない!」
「……。溺愛?どこ情報?聞いたことないよ」
「お前に面と向かって暴露するなんて俺くらいだから知らなかっただけじゃないか?」
「サザビー伯爵家の料理長の息子が第二騎士団に居るんだけどな、トルティン団長がお前にいつ告白するかで賭けが始まっているって言ってたぞ。ちなみに、第一騎士団もフリント団長が黙認しているからポツポツ参加者が増えてるって」
「フリント団長が……?」
「そう、知らぬはお前ばかりなり!だ。そんな話を聞いて、結婚報告を待っていた俺が、有象無象との見合い話を聞いて腰をぬかしたのを分かってくれよ」
「それは、ごめん??」
「そう、ごめんなさいして、トルティン団長にバレる前にお見合いは全部断るといいぜ!」
*****
こんな話をしているそばから、お見合いの話はバレてしまっていた。
「あ、ちょうどいいところに来た!訪ねようと思っていたんだ。……何?魔王ヴァル様モード?もしかして、お見合いバレた?」
のんきに、氷の表情のヴァルに対峙しているのは、セドリック王子だ。
「お前がけしかけたのか?」
地を這う一声だった。
「そんな訳ないじゃん!王の御前会議で大臣たちが勝手に決めて勝手に進めてたんだよ。知った時には驚いたけど、ピッピ様がお見合い相手を撃退してるって聞いたからそれならいいかと思って……」
「いい訳ないだろう!」
「でも、お前、恋人って訳じゃないだろう?なんの権利もないよ。しかも、遠征中に泣かして、それ以降ぎくしゃくしてるって聞いてるぞ」
「誰から聞いた?」
「もちろん、ロス副団長から」
「あいつ、余計な事ばかり」
「ま、そういうことだから、お見合いは若いもんに任せておけ」
「おけん!」
「だよね~。でも、今からアーツは俺のだ!って宣言して出張っていくの?ドラゴン争奪戦に公爵家が参戦してきたって思われるだけだよ」
「では、どうすればいい……」
いつになく途方に暮れた表情のいとこを見てニヤリと笑うセドリック王子だった。




