17.不和のタイミング
アーツは戦っていた。
仕切り直しの実戦訓練も終えて、一人前の騎士団員のひとりとして遠征中なのだ。
離れないピッピも勿論のこと肩に乗って同行している。
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予想より早く魔物に囲まれてしまった。狼型の魔物で、賢くすばしっこい。
結界は張ったものの小さい。もう少し大きいサイズにするためにも、魔物を周辺から追い払う必要がある。
アーツは自分の剣を構えて結界の外にでた。
魔法剣士ではないアーツの剣では魔物を殲滅させることはできない。だが、傷を負わせることはできる。
ちょっと時間が欲しいだけなんだ。この一頭を退けたら、大きな結界が張れる。
第二騎士団のみんなが休憩時間に教えてくれた、剣の構えを思い出す。
魔物に対峙したアーツを見て、仲間が目をむく。
「アーツ、何やってるんだ!結界に戻れ!」
「結界を張るのが僕の仕事だよ!そのためにやっているだけ!」
そう言って、威勢よく振り下ろした剣は見事に空振りだった。
それでもあきらめず、すかさず態勢を立て直す。
肩の上ではピッピが応援してくれていた。
「ぴっぴ~!」
「がんばるからね!」
そして、見事に撃退……できたかどうかは微妙なところだが、剣を闇雲に振り回す狂気の男アーツに、魔物がドン引きしたのかもしれない。
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結界を大きく張り直し、無事に全員が入れるサイズになった。
「あ~よかった。間に合った。怪我して帰ってきて、全員は入れませんなんてことになったら、僕はクビだからね」
一安心だと、満足して座り込んだ。
外では仲間が血みどろの戦いを繰り広げている。
「アーツ!結界から出たな。剣をふって戦っていた。なぜだ」
殺されそうな殺気を感じてアーツは飛び上がった。
「トルティン団長。結界の張り直しの為に、あの一頭がどうしても邪魔だったので、やむなく追い払おうと思いました」
「……。二度とするな、必ず、周りの者にやらせるように。魔法使いは戦闘要員ではない!」
そう言って、戦いに戻って行ったヴァル。その背中をみて、涙がこぼれた。
『戦闘要員ではない』
仲間ではないといわれたような、やるせなさが心を締め付ける。
「ピッピ、僕、怒らせちゃったね」
ピッピに話しかける声も力のない、頼りないものになった。
声を出したら、涙がとまらなくなった。必死で拭って、なんとか取り繕う。
団員たちは、結界に入って気詰まりな空気を感じ取っていた。
泣いたばっかりです、と書いてあるような目をしたアーツと、ピリピリした団長。
治癒魔法で癒されたら、いつもと違って、とっとと結界から逃げ出したくなる居心地の悪さだった。
その後も、雰囲気は悪いまま、王都に帰還した。
そして、落ち込みながら帰宅したアーツを待ち受けていたのは、見合いの山だった。
「え、僕がお見合い?」
伯父様とラルフが困ったような表情で説明してくれる。
「そうなんだ。それがね、どうやら、ドラゴンと縁をつないでおこうと考えた上級貴族が大勢いるようなんだ」
「王様に進言したようだよ。跡取り息子や娘と縁を持って、ドラゴンを連れて遠い領地に引っ込まれるくらいなら、王宮に出仕している宮廷貴族の誰かと、とっとと結婚させるべきだってね」
「王は、それを聞き入れたが、バツイチのお前を思って、決して今回は無理強いしてはならぬと、お達しがあったようだ。それで、見合いという訳だ」
そう言って伯父様は、お見合いの絵姿が描かれているであろう書類の山を指さした。
「お見合い……」
「だけど、見て見ろ、ほとんど男だ!」
怒ってくれるラルフだが、アーツはそれはそうだろうと、達観していた。
ドラゴンと縁を持ちたいのは上級貴族。
上級貴族のご令嬢はバツイチ物件には近寄らない。
ご令息は、次男三男となると、跡取り娘や跡取り息子の争奪戦は激しい。なので、アーツというドラゴン付きの物件は、優良枠が一つ増えたくらいの感覚しかなく、見合いにも気軽に応募してくるだろう。
心が弱っていて、何も考えたくなかったアーツは、
「何人か会ってみるよ」それだけ言って居間を出て行った。
残された二人は、驚いて、そして、お互いの悲痛な顔を見合わせていた。




