16.ワテリア侯爵家
王都の話題をかっさらってしまって、少々周囲がうるさいことになってしまったアーツだが、兄ラルフにとっては幸運だったようだ。
『神聖なドラゴンと一つ屋根の下で暮らす男』というのは肩書としては魅力的なようだ。
前々から好き合っている女性がいるとは言っていたが、貧乏伯爵の跡取りのラルフは門前払いだったらしい。なんと、式典を管理する儀礼省の大臣を務めるワテリア侯爵家のご令嬢だという。かなりの大貴族だ。
王室主催のガーデンパーティーで出会って、お互い一目ぼれしたらしい。
アーツの一つ年下なので、今、貴族学校の三年生。
卒業を前に、早めに婚約をしておきたいラルフは頑張ってアプローチしていたようだ。
というのも、令嬢は卒業後、相手がいなかったらほぼ問答無用で親の決めた政略結婚になるからだ。
頭を悩ませていた二人には、ピッピは天の助けだったようだ。侯爵家もこれなら首を縦に振るだろうと、ラルフは楽しそうにしている。
「僕もご令嬢に会ってみたいなぁ。伯父様たちは会っているんでしょう?」
「そうね、パーティーでご挨拶させていただいたわ」
「格が違うから、縁談はあきらめようと、ラルフを説得していたんだけどね。今回はピッピのおかげで上手くいくかもしれないね」
ピッピは、褒められたのが分かったのか、嬉しそうにラルフの頭の上をクルクル飛んでいる。
そう、ピッピの翼は飾りじゃなく、飛べるのだ!まったくもって、飛べそうにない小さな飾りのような翼だが。
2頭身のかわいいフォルムをフリフリさせながら飛ぶ姿はキュート以外のなにものでもない。
そんな話をして、暫く経った頃、ラルフが居間に飛び込んできて、
「正式に決まった!アーツとピッピのおかげだよ!」と嬉しい報告をしてくれた。
緊張の顔合わせ。
学校の一年後輩だから、知ってはいるが話したことはない。
だから、突然、ガシッと手を握られ、怒涛の勢いで話しかけられるとは思わなかった。
「アーツ先輩!間近で見てもお肌すべすべなんですね。なんて可愛い!あ、いや、すみません。あれ、あ、こんなこと言うつもりじゃなかったのに。あの、その節は、魔物から守っていただいてありがとうございました。先輩が必死に魔法を唱えている姿格好良かったです。キラキラってエフェクトがかかったみたいで、怖いのに、美しくって、目が離せませんでした!お礼をいわなきゃって思っていたのに、学校が第一騎士団の面子を守るためか、あまり口にしないようにって通達を出したでしょう?どうすればいいか分からなくって。そうしてたら、ラルフと出会ったんです。アーツ先輩の話で意気投合して。こんなに話が合う人となら結婚できるって思ったの。だから、すっごく嬉しいです!」
一家そろって呆然とした。さすが大貴族のご令嬢……自由だ。
アーツとしては、バツイチという十字架を背負わせたリリを思い出して、少々思う所はあるが、大貴族の令嬢が皆、あんなではないはずだと、なんとか笑顔で座っていた。
その後は、伯母様が上手く話を誘導してくれて、アーツは「兄を宜しくお願いします」と、なんとかそれだけは言えた。
あとは、兄の人を見る目を信じるしかないだろう。願わくば幸せな結婚を!
アーツは、自分に再婚話がくるとは思えないから、せめて兄の結婚は成功して欲しいと祈った。
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そんな、ラルフの結婚話と同時進行するように、実はアーツの結婚の話も持ち上がっていた。もちろん、アーツの知らないところで、しかも、聞きたくもないような言葉を飛び交わしながら。
「ワテリア侯爵家だけが、ドラゴンのピッピ様とご縁があるようではならぬ!」
「我らの一門からも誰かを嫁にやれ!」
「アーツというドラゴンに気に入られた男はバツイチだとか。プンダリス公爵家が捨てた男を、我が娘に拾えと!?」
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この失礼極まりない会話がヴァルの耳にはいるのは、まだ少し先のことだった。




