15.家族に紹介
家に帰ったアーツは、家族にピッピを紹介した。
「ピッピです。ドラゴンです。年齢は何歳だろう?分かんないけど、たぶん赤ちゃん。性別は……?」
そっとひっくり返して確認するも、生物に詳しくないアーツにはよくわからなかった。そもそも生物に詳しい者でも、ドラゴンの生態は知られていないようだ。
「よくわからないけど。とにかく、ピッピです。僕になついちゃって離れないから、連れて帰ったんだ。飼いたいんだけど、ペットはダメとかってあった?」
「「「………」」」
「あ、ダメだったら、どうしよう。騎士団宿舎で飼う?でも僕から離れないから、僕も宿舎生活になるなぁ」
「それはダメだ!」「ダメよ!」「無理!」
穏やかな人柄で知られる伯爵夫妻の伯父伯母に加え、のんびり気質の兄のラルフまでも、素早くダメ出しをしてきた。
アーツはしょんぼりと肩を落として、
「ペット、ダメだって……」と悲しむ。
「「「そっちじゃない!」」」盛大に突っ込まれた。
どうやら、宿舎住まいのほうがダメだったようだ。
「アーツ、まずは、だ。それはドラゴンで間違いないんだな?騎士団の皆さまはなんておっしゃっているんだ?」
「そうね。初めから話して頂戴」
という訳で、アーツは、最初から順を追って、実戦訓練のことや、ヴァルとのテントの会話まで、長い長い話をした。
途中、ヴァルと二人のテントになった話の時には、
「殺す……」というつぶやきが聞こえてきた気がしたが、たぶん空耳だろう。
「じゃあ、第一騎士団からも許可をもらって連れて帰ってきたんだね?」
「そうだよ。王城で預かりたかったみたいだけど、ピッピが嫌だって、僕から離れなくって。飼ってもいい?」
「勿論だよ。どちらかと言うと預からせていただいている状況のようだがね」
その後はみんなが次々と手を伸ばして、「抱っこをさせて!」「おいで!」とやってみたけど、ダメだった。
「いい事思いついた!」
そう言ってラルフは、アーツの部屋に駆け込んで、お気に入りのブランケットを持ってきた。
「アーツのにおいが好きなのかもしれないだろう?アーツのにおいの染みついたブランケットを持って、包み込むように抱っこしたら?できそうじゃない?」
「まあ!やってみましょう!」
アーツのブランケット越しの抱っこは見事成功した。
「僕のにおいって……。そんなにするの!?」
驚いたものの、楽しそうな家族を見て、アーツはほっこりした。
*****
その夜、
「ぎゃあああああああああ!」という絶叫と、【ドガガドガガドスン!】という音で、目が覚めた。
何事かと、部屋を飛び出す。
ラルフも出て来た。とりあえず階下におりてみようと、明かりを持ち出す。
「アーツ様!こちらへお願いできますか?ピッピ様が!」
「ピッピ!?」
メイド頭の案内で使用人エリアに入っていくと、裏階段(使用人用)の下に「びっび!びー!!」と威嚇しているピッピがいた。その側に、おそらくピッピに前髪を焦がされて、驚いて階段を転げ落ち、失神したと思われる女性が横たわっていた。
彼女の手にはアーツのブランケットが握られていた。
「あ~。これは、我が家に泥棒メイドがいたってことかな」
ラルフは、口調はいつもどおりだが、恐ろしく冷たい表情でそう言った。
アーツは、ピッピを優しく手に乗せて撫でてやった。
「怖かったね。びっくりしたね」
「ぴっぴ~」怖かった!と訴えるように、アーツのパジャマに潜りこんでこようとするピッピ。ピッピの好きなようにさせながらアーツは状況を観察して考えていた。
家にも結界が必要なのか。
それとも、火を噴く生物だと周知するべきか。そうすれば、不用意に手を出す人がいなくなるかも。
*****
翌日、伯父と兄と共に王城へ向かった。
どうやら伯父たちの認識では、『ドラゴンを国から預からせてもらっている』という認識らしく、そのドラゴンを誘拐の危険にさらしたとなれば、報告がいるという判断らしい。
その認識もあながち間違いではないのか、対応には第一騎士団ではなくセドリック王子が出て来た。
「その者は『貴重な生物でアーツのブランケットがあれば抱っこできる』という情報だけでよく未知の生物を誘拐しようとしたな。火を噴くという話をした時は、女は下がっていたから知らなかったと供述しているらしいぞ」
多忙の身だろうに、しっかり尋問もチェック済みのようだ。
「ブラニーネ伯爵、ドラゴンの件はドラゴン自身の選択によりアーツ・ウィリアムズに一任された。とはいえ、伯父として貴君の助力を頼むことも大きいだろう。今回初日早々このような事態になったが、対応に感謝する。今後は第一騎士団のフリント団長と連絡をとりながら家の警備体制を考えてくれ。補助金は出すので、そこは安心して欲しい」
何から何まで、考えてくれている王子にアーツは感動した。
第三騎士団に出勤すると、皆が昨晩の事件を聞いたようで、詳細を聞きたがった。
アーツは、今日もまた、長い説明を始めた。
セドリック王子を褒めたたえるセリフまで一気に話すと、「チッ」という舌打ちが聞こえてきた。
最後列からだった。ヴァルが、腕組みしたまま聞いていたようだ。




