14.名付け
王城内の第一騎士団訓練所。
その一角に強固な結界が用意された。中に入っているのはアーツと手乗りドラゴンだ。
国の建国時に魔物を焼き払ってくれた聖獣として、ドラゴンは国の紋章にもなっている。
そんなドラゴンだが、魔物を焼き払える力があるという点でみれば、結界に閉じ込めるという判断も致し方なかった。
「アーツだけが一緒に閉じ込められるとはどういうことだ!」
結界の外で激高しているのはヴァルだった。
ヴァルのいとこのセドリック王子が、なだめている。
愛弟子の一大事と、ルーカス先生も駆けつけてくれているのが目に入る。
500年ぶりに人の前に姿を現したドラゴンは、なぜかアーツから引き離そうとすると暴れて手が付けられないのだ。引き離すものを威嚇しようと、小さな口を開く姿に、アーツは既に庇護欲を刺激されまくっていた。
なので、周りの心配をよそに、快く一緒に結界に閉じこもっているのだ。
「でも、君、なんで僕から離れないんだろうね?」
アーツは、そう問いかけたが、不思議そうな顔をして、
「ぴっぴ!」と返事が返って来ただけだった。
第一騎士団のトップ魔法使いたちが細心の注意を払って構築した、好意的なものしか通れない結界(最上級バージョン)を通れたことで、アーツはやっと外に出ることができた。
解放された瞬間にアーツはヴァルに抱きしめられた。
心配かけちゃったな~、とのんきに考えながらされるがままになっていると、ドラゴンが、ものすごい勢いでヴァルの顔面に突進して「ぴっぴー!ぴっぴー!」と威嚇を始めた。
ここまでくれば、お察しだ。
どうやら、このドラゴンはアーツが気に入って、『独り占め』をする気なのだと。
セドリック王子は腹を抱えて笑い出した。
その場にいた、全ての人間が、ヴァルの厄介なライバル(恋敵)登場に、王子と共に笑い転げたい気持ちだった。
「こりゃあ、賭けの行方が楽しみだな」
「ライバルに焦って早まりますかねぇ」
ムラノ団長とロス副団長の声は、失礼なドラゴンをなだめるのに一生懸命なアーツの耳には届かなかった。
「もう!ピッピ!だめだよ。トルティン団長は、僕の大切な人なんだからね!」
「大切な人……」
「あ、そう言う意味じゃなくて……。大切な上官って意味で、深い意味では……」
そんな会話を始める二人に割って入ったのは、セドリック王子だった。
「お前らバカップルか!そんでもって、偉大なドラゴンに勝手にピッピとかふざけた名前つけるんじゃねぇ!」
第一王子に怒鳴られてしまったアーツは、表情を固まらせた。
一般庶民に限りなく近い男爵家の元次男坊は王族と言葉を交わすことなど想像もしていないのだ。しかも怒らせてしまった。
そんなアーツの前にスッと立って庇ってくれたのは、ヴァルだった。
「ピッピで決定だ」
「いや、ヴァル、それはだな、王や王妃も交えて吟味してからだな」
「お前が王と話しをつけろ。決定だ。そもそも、この状況でアーツ以外の者が名付けた名前をこのドラゴンが受け入れると思うか?」
「「「……」」」
誰もが黙った。確かに、と思ったからだ。だからこそ、アーツを説得して欲しいとも思った。
それに果敢に挑戦したのは第一王子だった。
「アーツ君、あのね」
優しい口調に切り替えて、話し出す。
「ピッピって、可愛い系の名前だよね。ハムスターとかに似合いそう。この子はドラゴンだよね。今は小さいけど、きっと将来は大きく成長するよ。国の紋章にもなっている誇り高き聖獣だし、もう少し威厳のある名前はどうかな?って思うんだけど」
「ドラドラとかですか?」
「んくぅっ!」後ろで誰かが笑いをこらえた。
そして、ドラゴンはイヤイヤ!と首を振っている。
「ピッピがいい?」
「ぴっぴ~!」
「本ドラゴンもピッピが良いって言ってますけど……」
正確には、良いと言ってはいないが、無駄な事はしない合理主義者と評判の第一王子はすんなり引いた。
「そうだね。ピッピでいいかな。王に報告しておくよ。ヴァルがピッピで良いって譲らなかったってね」
そう言って、軽快な足取りで去って行った。




