13.テントにて
朝、目が覚めるとアーツの目の前には端正に整ったヴァルの顔のドアップがあった。
『あ~、びっくりした!寝てても男前って男前なんだ!』
心の中でそんな感想を言いながら、アーツはしばらく観察する。
印象的な藍色の瞳は隠れている。サラサラのアイスブルーの髪は、触ってみたくなる。
無意識に、そ~っと、手を伸ばしていた。静まり返ったテントの中、アーツも自分の呼吸を止めていた。
「ぴーぴっぴ!」
驚きすぎて口から心臓が飛び出しそうだった。
「ダメだよね。勝手に人に触るなんて」
アーツは、声の主に言い訳をしようと、寝返りをうった。
なんだ?これ?
結界内に入ってこられているのだから、友好的なモノに違いはない。はずだ。
爬虫類?翼がある。
鳥類?牙がある。
哺乳類?鱗っぽいものがある。
「分かんないなぁ?でも、まさか?ちっちゃい手乗りドラゴンだったりして?」
アーツは、自分で言って、ないない、と否定した。
そして、恐る恐る抱っこしてみる。
「ぴ~ぴ~!」喜んでいる気がする。
小さい翼がピコピコ動いている。
「ぴ、けふぅ」喉がつまったような、咳払いをしたかと思うと、小さい小さい火がでて、アーツの前髪をふわりと揺らした。
「やっぱり、ドラゴンかも~~~~~~!!!!?」
アーツの叫び声に、ヴァルは跳ね起き、テントの外で見張っていた先輩たちは、雪崩のようにテントの中に押し寄せてきた。
この場を一言で言い表すと、『カオス』
誰もがみんな、それぞれに、どこを始めに突っ込めばいいのか、迷っていた。
*******
一番初めに声を出したのは、ヴァルだった。
「まずは、危害のなさそうな未知の生物の話をするべきか、それとも、他人のテントを覗き見する危険な部下を粛清するべきか、迷う所だな」
凍り付いたテント内。
訓練官の一人が、あきらめたように話し始める。
「団長が、アーツをお気に入りすぎてですね……。団員一同、アーツがそばに居れば団長はご機嫌だと気づいています。それでもですね、それをいいことに、一緒のテントを割り当てるのは、アーツの貞操の危機と言うか……。それを人身御供にしていては我らも夢見が悪いといいますか……。ロス副団長からも、しっかり見張っておくようにと言われていますし……」
「ほう」
怖い、世の中で一番怖い、ほう、だ!
アーツは、その声のトーンに震えた。
だが、全くもって紳士的なヴァルを、そのようなケダモノ扱いはよろしくないと、意を決して、声を上げた。
「僕、全然、危機とか無いです!なんなら、僕のほうが、団長のサラサラストレートを触りたくって、手を伸ばしたくらいで。変態なのは僕のほうです。この子が鳴いてくれなかったら、触っていたかもしれません。この子は止めてくれた恩人です。いや、恩ドラゴンです!」
アーツのカミングアウトに、顔を思い切り崩したのは、言うまでもなくヴァルだった。
「アーツなら、触っても構わない」
そんなことを言い出す、ヴァルを見て、団員たちは『この二人にはかかわってはいけなかった!!』と激しく後悔するのだった。
「ゴホン!」
咳払いして、ヴァルがアーツの腕の中に視線を戻す。
「その生き物はドラゴンだと?」
「多分そうだと思います。さっき咳き込んだ時に小さいですが、火を噴いたから」
「「火を!」」
火を噴くと聞いて、皆、一気に緊張した。
こうして、ヴァルとアーツのあれやこれやはうやむやになり、団員たちの見張りも無かったことになったのだった。
王都に緊急帰還の決定がくだされ、慌ててテントを撤収した。




