表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/95

92. あの日の指切りを忘れない

 美月の脳裏に、あの日の出来事が思い浮かぶ。

 可憐が飛び降りた日……酒井可憐は白い帽子に白いコートという出で立ちで、雪が降り始める中、美月を訪ねて来た。



「わたし、機種変更するからさ……これ、ツッキーにあげるよ」



 そう言われ、可憐より渡されたスマホ……。

 スマホを渡しながら、可憐は言った。


「ツッキーは、わたしの一番の友達!」



 突然渡されたスマホに戸惑う美月だったが、言葉を返す。


「うん、もちろん! わたし達は、ずっと友達だ!」


 雪が降り始めた若緑市の住宅街で、まだ高校生だった二人は互いの友情を確かめ合う……。



「…………じゃあ、指切りしよう」


 可憐の言葉に高校生の美月は、照れながらも可憐の可愛らしい小指に自身の指を絡ませた……。


 なんで可憐はスマホを渡したんだろう……

 なんで指切りなんて、子供じみた真似をしてきたんだろう…………。

 美月は不思議に思いながらも、可憐に言われるままにスマホを譲り受け、雪が降る中、指切りをした……。




 ………………可憐のスマホに残っていた、動画ファイルを再生した時、美月はその全ての意味を理解した。スマホを見つめる美月の目から、大粒の涙が溢れ出す……。


「可憐……闘ってたんだ…………頑張ってたんだ……。

 恐かったろうに……逃げたかったろうに…………だけど、頑張ってた。

 頑張れなかったのは…………わたし……。

 恐かった、お前の……あなたのスマホの中を見るのが…………。

 生きていた時のあなたを見たら、あなたとの思い出に押し潰されると思ったから。

 臆病だった…………なにもしなかった……! あなたは、あなたは必死で頑張っていたのに…………!

 わたしは……気づかなかった! 


 違う!!!


 気づこうとしなかった! 見て見ぬふりをしていた……!!

 ごめん、可憐…………こめんなさい……。

 ずっと……ずっと待たせちゃったね…………でも、もう大丈夫!

 逃げない!! もう逃げないから!!!」



 とめどなく溢れる涙を拭うことなく、美月は可憐のスマホにかかっているハート型のリングストラップに自身の小指を通す……。


 あの日、可憐と交わした指切り。


 リングストラップに指を絡ませ、あの時と同じように指切りをする。



 酒井可憐は、もうこの世にいない…………しかし……!

 ハートのリングに指を絡ませた時、美月には感じとれた。雪の日に自ら命を絶った友達、酒井可憐の存在を……。

 その可憐が残したスマホのリングストラップ……そのハートの向こうに美月は、あの時と同じ可憐の指を感じた。

 美月は泣きながらあの時と同じ約束を交わす…………!




「わたしと可憐は……ずっと友達だ!!」






「美月さん、美月さん!」


 スマホからカケルの声。


「あ、ああ……ぐす……聞いてるよ、カケル」


「英磨陣営、話切り上げる気だぞ! 急がないと居なくなっちゃう!」


「なんだと……?」



 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉一ノ谷英磨

 反論がないということは、こちらの言い分をわかってくれたということでしょうか?

 このスレッドの削除を早急にお願いします



 【埼玉県若緑市 一ノ谷邸】

 和室にて弁護士の東と祖父の二人と共に、ノートパソコンの画面を見る一ノ谷英磨は、安堵の表情を浮かべていた。

 昼間、タンクが撮った動画を美月から見せられた時は生きた心地がしなかった……刑務所に入れられ、囚人服を着せられた自分を想像するまでになった。

 人生の終わりを感じたが、それを救ったのは元法務次官の祖父、一ノ谷十三だった。


「ジイジ、ありがとう! いやあ、一時はどうなることかと思ったよ!」


「かわいい孫のためだ!

 しかし、まったく……最近の女は駄目だな。ちょいと" アレ "をしただけでコロコロ死んだり、喚いたり……軟弱になったもんだよ」

「ああ、東君もよくやってくれた!

 なにか困ったことがあったら、いつでもわしに言いたまえ」


 老獪ロウカイ……ずる賢く、抜け目のない顔をした老人一ノ谷十三は、緊張したオモムキで隣に座る弁護士の男にねぎらいの言葉をかける。


「ありがとうございます」


 30代後半……若いながらも幾多の法廷センジョウで戦ってきた男、東義典は不要な言葉は一切言わずに一言だけ礼をのべた。



「……ん?」


 一仕事終えたと思った東だが、掲示板の更新に目が止まる……。



 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉大林美月

 反論はある!

 おい、英磨! この動画を見ろ!

 いや聞け!!

 これでもお前は、可憐をレイプしていないと言うのか!?



 美月の書き込みには、動画ファイルのURL。


 …………最後の悪あがきだろう。



 東はそう思い、リンクをクリックする。


「東さん、どうした?」

 もう、問題ないだろう……と立ち上がり、和室から出ようとした英磨が声をかける。


「いえ、連中が新たなファイルを送ってきたのですが……」



「やめて、英磨君! わたし、こんなの望んでない…………!」



 パソコンから可憐の声が叫び声が流れる!


「え!? な……なんだ、おい!」

 慌てる英磨……しかし、そんな英磨などよそに、音声が流れていく……!



「うるさいなあ……! オレ達恋人だろ? だったら、セックスぐらいいじゃん!」


「やだ……やだよ! 止めて…………こんなの……レイプだよ!

 わたし……英磨君のこと、訴えるから!」



「……まずい!

 はっきりレイプと言っている……! 訴えるともまで……」


 東が冷や汗を流しながら呟く……。


 あ…………ああああああ、なんだこれ……!


 英麿は昼間同様に、再びパニックに陥る。



 待て……待て待て待て!!

 この可憐のセリフ……たしかに、あの時聞いたが……タンクが撮った動画には、なかったぞ!

 そうだよ……タンクの奴が言ってた!




「レイプって単語、まじいじゃん! だからよ、この場面はカットしといたんだ」


「そうだな、気が利くじゃん! さすがはタンクだ♪」



 …………タンクの動画ファイルには無いはずだ!

 じゃあ……奴ら、どこから…………!!



「どうなってる……!

 東君、なんとかするんだ! ここからが、君の腕の見せ所だぞ!」


 老将軍、一ノ谷十三が若き弁護士に声をかける。言葉だけ見れば当たり障りのない言葉だが、その表情は……失敗は絶対に許さない! という、絶対君主の顔であった。



「英磨さん、このやり取りに心当たりは!?

 本物であるかどうか、教えてください」


「…………本物だ。

 どうやって入手したかは、知らないが……!」



 英麿の脳裏に、" あの時 "の光景、可憐の叫び声が響き渡る……!


 やめろ……



 やめろ、やめろ、やめろおおおおおおおお!!


 " その声 "を再生するな!!!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ