87. 銃士達よ、集え!
若緑高校ホームページにある生徒専用の掲示板。
学校から配布されたIDとパスワードを使って利用するため、誰がどんな書き込みをしたかは丸わかりになっている。
卒業をすると在校生用の板は利用できなくなるが、代わりに卒業生用の板が用意されており、主に同窓会の告知や内容について利用されている。
神奈川県蒼町 午後1時27分
カケルのゼータに、■酒井カレンこと大林美月からのPMが届く。
■酒井カレン@blackmask79 2月11日
今夜7時、若緑高校の掲示板に来てくれ ここで決着をつける!
ログイン制になってるから、お前用のログインIDを用意した
若緑高校HP ID:0987qw
pas: test34
と、ほぼ同時に美月からのコール。カケルは眠い目を擦りながら電話に出る。
「…………ふぁい、もしもしぇ?」
「…………カケル、お前ひょっとして……寝てたのか?」
「寝てた……」
「……今、昼の1時半だぞ」
「昨日寝たの、朝の8時……」
「それ、昨日じゃなくて今日だろ!」
「昨日、ゼータでコジロウ先輩にゲーム誘われて……Super War Field。オンラインで対戦したり、協力したりできるやつ」
「お前らなあ~~! 今日は平日で、お前の同級生は元気に学校行ってる時間だぞ!……っていうか、ご両親も働いてるんじゃないのか?」
「あいつ……父親は開業医やめて、今は単発バイト行ってるよ。金はあるみたいだし…………ふぁあ~~~あ」
「開業医ね……まったく、親ガチャ大成功のガキが!」
「なんだよお~~! こっちだっていろいろあるんだ。親ガチャ成功とか言うな!」
「ああ、そりゃ悪かったな……! とにかく今日の午後7時だ。
今回の事件とは関係のないお前が来なくても問題はないが、昨日あれだけ威勢よく啖呵切ったんだ。ちゃんと来いよな!」
「……いくよ。
っていうか、このIDって誰のだよ」
「転入生とかに割り当てられる、予備IDだよ。なんでそれをわたしが入手できてるかは聞くなよな」
「ふん……! ハッカー集団、Black Mask」
「基本、若緑高の掲示板で話を進めていくが、相手……英磨には内緒で連絡を取りたい時は、ゼータのアカウントを使え。
大輔の奴がお前のアカウントにフォロー申請を送ってるはずだから、あとで見とけ」
「わかった。
……っていうか、今確認した。昨日のブラマスメンバー全員とフォロワーになったかな」
「そうか……よかった。
………………あと、コジロウの奴と変なやり取りしてないだろうな!?」
「……変なやり取りって?」
「わたしの裸の動画だよ!!!」
「……………………変なやり取りなんて、してません」
「……今、間があったな!?」
「ございません!!」
「お前、毎日夜の0時過ぎになると、ハアハア言ってたな……。Lichの赤スマホをお前の家に送った時から、全部盗聴してるからな!
思春期の男子は大変だなあ~~~いろいろ、色々と」
「や、やめて!」
「翡翠もえに、送っちゃおうかなあ~~カケルがなんかしてる盗聴ファイル」
「ひ、人のプライバシー晒すとか、サイテーーーー!!」
「だったらお前も、わたしの動画を他人に渡すな!!」
「……コジロウパイセンから動画ファイルを要求されましたが、昨晩は断りました」
「昨晩は……ってなんだ! 永久に断れ!!」
「は、はい………………
……ふぁ~~あ」
「……ったく! 頼りにしてるんだからな、魔法使い。
頼むぜ……」
岐阜県 炎町
午後1時41分
トゥルルル……
「…………う~~ん」
トゥルルルルル……!
「うううう~~~ん……」
トゥルルルルル!!
「うるっせええええええ!!!」
暖房がよく効いた子供部屋で寝ていたコジロウは、羽毛布団を思いっきり跳ねのけ、デスクの上で" 騒音 "を巻き散らしている自身のゲーミングスマホの元へとにじり寄る。
「誰だよ!」
寝起きの赤い髪をかきながら、コジロウは答える。
「……美月だよ。いつまで寝てんだ、クソニート。
ペケゾーとのオンゲは楽しかったか?」
「フン……! ペケゾーちゃん、ヒッキーのくせして真面目だよねえ~。美月ちゃんの動画、くれねえんだよ」
「……手懐けたからな。
可愛い奴だよ、あいつは……。子供の時に飼ってた、柴犬の太郎に似てるな。なんでも素直に聞くし」
「おれも可愛くするから、美月ちゃんの裸動画くれよ。
わんわん!」
「……で、英麿と連絡がついた。今日の夜7時、若緑高校の掲示板に来いって言っておいた。そこで決着をつけるから、お前も来い。IDとパスは用意しとおいた」
「美月ちゃあ~~~ん! わん、わん!」
「お前、なに犬の真似してるんだ?」
「柴犬の太郎になるから、おれにも美月ちゃんの動画くれよお~!」
「……なんで犬の真似したら、お前に動画あげなきゃいけないんだよ。ゼータのほうにIDとパス、送っといたから、7時にちゃんと来いよ」
「ウウゥウ~~~!
飼い犬に優しくねえなあ、美月ちゃん」
「失礼なこと言うな。わたしは毎日散歩に行ってたし、お風呂で体も洗ってやってたぞ」
「おれも一緒にお風呂入りてえなあ~~!」
「お前に渡したID、若緑高の教師のIDだからな。この件が終わったら使うなよ?
それじゃ、7時にまた会おう」
美月は一方的に電話を切る。
通話が終わったスマホを見ながら、コジロウは苦言を漏らす。
「……ったくよう。
どうせ、彼氏とは一緒にお風呂入って、イチャコラしてんでしょ? まったくもう…………。
……ま、いいか」
美月が最後に連絡したのは、red treeこと赤木大輔だ。
美月は東京に帰っていたが、大輔はすれ違うように埼玉県若緑市に居た。酒井可憐の墓参りのためだ。
「…………長かったね。
正直……もう諦めようかと思ったこともあった」
可憐の墓の前で、太った男はそう告げた。
見た目は、ただのオタク……イケメンと呼ぶには程遠い男だが、酒井可憐の墓碑を見つめる男の表情は……主君の仇を討とうとする武士か、それとも……親分の墓の前で報復を誓う極道者の顔であった。
「ああ、わたしもだ……。所詮、一ノ谷家に逆らうなんて、無理なんだと思う時もあった…………しかし!
ペケゾーが仲間に加わったことで、状況は変わった!」
「可憐さんの無念を晴らそう!」
可憐の墓前に誓うように力強く答えた大輔だったが、美月の返答は遅れた。
「……それでいいのか、大輔。一ノ谷家は実質若緑市の支配者……。無念を晴らしたあとに、どう仕返しされるかわからんぞ……」
「……おれは失うものなんかないよ。彼女もいないしさ…………。集めたアニメグッズを燃やされたら、また買い直すよ」
「ハハハ、覚悟は決まってるか」
見た目だけなら太っちょの弱者男性、赤木大輔。だが……! その容貌とは裏腹に内に秘めたる闘志は、アニメの熱血キャラそのものであった。
その熱血キャラが、スマホに呟く……昨晩誓った、四銃士の誓い。
「一人は皆のため……」
美月が続く。
「皆は、一人のために!」
何人もの思いが交差する中、時間は流れ…………
時刻は午後7時となった。




