75. 会議は踊る、されど進まず
午後7時
陸と一緒に夕飯をとり終えた美月はリビングのテーブルの前に座り、自宅から持ってきた自身のノートパソコンを開いて作業をしている。キッチンでは陸がエプロンを着けて、食器を洗っていた。
「……また、ずい分と多く作ったな」
鍋に残ったカレーを見て、陸が苦笑いを浮かべる。
「ゴミ箱、レトルト食品の容器ばっかじゃないか。ちゃんと栄養摂れてるか? 冷蔵庫に入れといて、明日も食べろよ」
「……気遣ってくれてどうも」
美月のノートパソコンの画面には、ダークウェブのネギバナ掲示板が映し出されている。
2X26/02/10 18:56 ペケゾー
こんばんは
ちょっと早いけど、ペケゾー来ました
お、カケル来たな。ほぼ5分前に来るとか、ヒッキーのくせに真面目な奴だな。
美月は上機嫌に返事を返す。
2X26/02/10 18:57 ■酒井カレン
ようこそ闇の世界へ、魔法使い君
夕飯はもう食べたか?
みんなが集まるまで、待っててくれ
2X26/02/10 19:01 ■red tree
こんばんは
君が噂のペケゾー君か
よろしく、red treeです
2X26/02/10 19:01 ペケゾー
今、部屋で夕飯食べてる カレーライス
>>
red treeさん、こんばんは
よろしくお願いします
2X26/02/10 19:02 ■酒井カレン
うちも今晩カレーだよw
red treeも来たし、あとはコジロウか
あいつ、いつも時間通りに来ないな
2X26/02/10 19:09 ■コジロウ
コジロウ参上!
みんな早えなあ
おっと、ペケゾー君いるじゃん!
ヒキ板最強のハッカー!
……全員揃ったか
美月が作業をしているテーブルに、コーヒーが置かれる。
「お、ありがと」
コーヒーを淹れてくれた陸に礼を言う美月。
洗い物を終えた陸はエプロンを脱ぎ、自分と美月のコーヒーを持ってリビングにやってきた。
「……一ノ谷を追い詰める相談か?」
陸は美月の隣に座ると、美月の顔と並ぶように顔を寄せてノートパソコンの画面をのぞき込む。美男美女の顔がディスプレイの前に並ぶ。
「そうだ……。
魔法使いも味方になった。必ず、追い詰める!」
「……魔法使い?」
不思議そうな顔をしてる陸をよそに、美月はBlack Maskの会議を始めようとするが……。
[ペケゾーちゃん! あんたヒッキーって聞いたけど、ほんと!?
つうか、ヒキ歴何年?]
お喋りを始めたのは、一番最後にきたコジロウだった。
[恥ずかしながらヒッキーです
去年の5月くらいからなんで、もうすぐ1年ですかね]
[なんだよ~~1年もいってねえ雑魚かよww
おれは中二の夏あたりから学校行ってねえから、もうちょいで3年かな]
[さ、3年も!? 凄い! 先輩って呼んでいいですか?]
[うむ、呼んでいいぞ!
ペケゾーちゃん、君はなかなか礼儀正しい! 気に入ったぞ!]
[ありがとうございます、先輩!]
……なんなんだよ、この会話は。
呆れる美月をよそに、ニートと引きこもりの会話は続く……。
「ペケゾーちゃんは、ほんとに外、出れねえの?
コンビニとかファミレスも行けないの?]
[夜ならなんとか出れるんすけど、コンビニとか人がいるところは無理です!
先輩は行けるんですか?]
[もちのロンよ!
こないだは、一人カラオケ行って来たぜ!]
「ひ、一人カラオケ!?
す、凄いです!! 先輩!!]
[ん? ひょっとしてペケゾー君は、一人カラオケ童貞かね?]
[は、恥ずかしながら……一人カラオケ童貞です]
「…………おい、ガキども」
ひきつった顔でパソコンの画面を見つめる美月……。その隣に座っている陸は、美月と画面の向こうに居る" ガキども "を見守るように微笑み、湯気の立つコーヒーを飲む。
[でよ、アニソン熱唱したあとは、あれよ……声出して腹減るからな
どこ行ったか、わかるかな? ペケゾー君]
[ま、まさか……! や、やきにく?]
[クックック! ご名答!
一人焼肉よ! タン塩、カルビ、ホルモン……ごちそうさまでした!]
[凄い!!
おれも、いつか先輩みたいに一人カラオケとか、してみたいです!]
[ん~? 外に出りゃいいだろ
人の目なんぞ気にすんな 他人は見ただけでお前を殺す能力なんて持ち合わせちゃいねえ
他人の視線なんぞ、なんのダメージも与えない、ただの視線だ]
[そ、そうですけどお~]
[おい、お前ら! 下らない話は、よそでやれ!!]
美月がたまらず、ツッコミを入れる。
■red treeこと、赤木大輔は、黙ったままだ。
[フヒヒ! さ~せんww]
[す、すいませんでした。美月さん!]
[本名を言うな! だいたいカケル、お前コスプレイヤーの彼女いるだろ
彼女とカラオケでも行って来いよ]
[つか、こっちも本名言っちまったじゃないか! ペケゾーな、すまんカケル]
[どっちも本名バレしてんだから、いいんじゃんかよお~~w
っていうかよ、おいペケゾー! お前、彼女いるってどういうことだよ!]
[い、いや、昨日できたばっかりで……]
[てめえ! 先輩のおれより先に初体験済ませやがったら、ただじゃおかねえぞ、コラ!!]
[初体験とか、やめて下さい1 恥ずかしい!]
[だから!! イカ臭い話は、よそでやれ!!!]
[美月ちゃんの初体験っていつ? やっぱ高校の時?]
[死 ね ! !]
「ははは……」
アパートの一室で、部屋の主である陸が、苦笑いを浮かべる。しかし隣に座る美月は、ご立腹だ……。そして、そんな美月の心情などお構いなしに、ニートとヒッキーがくっちゃべる。
[イカ臭いっていやあさあ~
イカってよ、なんかチンコの形してない?]
[ああ、そうっすねえ~先輩。
先っぽの三角形って、亀頭みたいっすよねえ~~w]
[だろお~~?w
でよお、その下にあるイカの手だか足だかって、チン毛みたいじゃんww]
[ギャハハww そうかもwww]
…………ブチッ!
[よそでやれって、言ってんだろうが、オスガキども!!!]
ディスプレイに唾が飛ぶかって勢いで、美月が怒鳴りながら書き込む。
[さ~~せんw]
[すいません、■酒井カレンさん]
[……ったく、もう! こいつらときたら……!!]
美月は般若の表情で画面を睨みつける……。
隣に座ってる陸は、まあ、しょうがないよね……という表情で、年下のリスナーの書き込みを眺めていた。
実際のところ……しょうもない書き込みだった。




