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67. 一ノ谷の一族

「おいおい、どうしたペケゾーさんよお~。

 ヒキ板の魔法使いは、正義の魔法使いか?」


「なんだっていいだろ。

 ただ……英磨の行動が許せないだけだ!」


「そうか……しかし、これだけは言っておくぞ。

 一ノ谷英磨の祖父は元法務次官で、父親は行方不明中とはいえ、在在センの管理局長だ。

 わかるか? わたしら戦う相手、一ノ谷家は日本国政府の一端を担ってきた一族……お前が今までレスバしてきた奴らとは格が違うぞ。それでも……四人目の仲間になる覚悟はあるか?」


「ああ、一緒にやる!」


「フッ……! 頼もしいな。カケルって、ほんとに引きこもりか?

 ああ、そういえば彼女いるんだっけ? なるほど……恋は人を強くさせるようだな」


「そ、そんなんじゃ……」

 実際は、そうであった。もえの存在はカケルの中で、日増しに……いや、時間ごとに大きくなっていた。



「あいつも……強くなってくれるといいんだが……」


「え……? 

 誰、あいつって……」


「……なんでもない。

 それより、二つの条件はクリアしたんだ。英磨の現住所を教えてくれよ」


「……わかってる」



 夜の蛍池公園……時刻はもう10時なろうとしていた。

 ベンチに座るカケルの前には、カマリ・橋本が立っている。そのカマリは言った。



 " 他人の個人情報を他人に教えることは、プライバシー侵害として損害賠償を請求される恐れがあるぞ "


 日本政府の一端を担ってきた一ノ谷家から訴えられたら、どうなってしまうのか……。

 ただではすまないだろう…………しかし!



「一ノ谷英麿は今、帝国大学の一年生だ。住所は東京都二鷲市古川1丁目……」


 カケルは在在センから取得した英磨の情報を美月へと伝えて行く。カマリはエイト06のスマホを耳に当てながら、カケルの前に立っている。



 カケルは、今現在わかっている英磨の情報全てを美月に伝えた。スマホから美月の礼を言う声が聞こえる。


「ありがとう、さすがはヒキ板の魔法使いさんだな。お前と接触して正解だったよ」


「……ネット上で初めて会った時は、■酒井カレンってコテだったな。カレンを名乗ってたのは、英磨を捜す為だったのか?」


「そうだ……。英磨の目に止まって、奴が少しでも反応してくれたら……と思ってたが特になにもなかったな。

 名前をカタカナにしたのは、あれだ……最初お前をおびき出す為に荒らし行為をしたからなあ……酒井可憐という本名だと、可憐本人に悪い気がしたんだ」


「そう……」優しい人なんだな……。



「で……どうする気なんだ?

 住所もわかって、英磨のところに直接乗り込む気か?」


「それはこれから仲間と一緒に考える。

 カケルも来いよ、みんなにヒキ板の魔法使いを紹介したいからな」


「来いよって……おれ引きこもりだから、昼間外に出るのはやだぞ……」


「いや、来いってのは、ネットの掲示板だよ。ネギバナっていう、ダークウェブにある掲示板だ。なんせ、一ノ谷家に喧嘩ふっかけるわけだからな……匿名性の高い掲示板で話すに越したことはない」


 そう言って美月はカケルのゼータに、マルバナのURLを送る。しかしそのURLの末尾は、comやjpではなく、「onion」だった。


「……玉ねぎ?」


「ん? ひょっとしてペケゾー君は、ダークウェブ童貞か?」


「……うるせえなあ、ダークウェブ童貞だよ」


「そうか……まあ、初体験してみろよ。そんな難しいもんじゃないから。じゃあな、ネギバナで待ってる」


 美月がそう言い終わると、通話は切れた。



「ちっ……! なんだよ、もう。

 協力してやるってんだから、ダークウェブの行き方くらい教えろよ……ったく!」


 ブツブツと文句を垂れるカケルにカマリ・橋本が声をかける。



「カケル君……日本の第48代内閣総理大臣は、誰か知っているかな?」


「え、えええ……!?」48代って……そもそも、今は何代だっけ?


「戦後の混乱期……48代から51代までの総理を務めたのは、吉岡毅ヨシオカツヨシ

 一ノ谷英麿の母方の高祖父だ」


 内閣総理大臣……マジか。


「若気の至りとはいえ、えらい奴に喧嘩を仕掛けてしまったようだな……。一ノ谷家……埼玉県は若緑市だけの権力者ではないぞ。今でも現職の総理大臣にため口を言える、数少ない一族だ」


「…………たしかに凄い一族なのかもしれませんけど……

 神となった、yaoyorozよりは……マシな相手ですよね?」



「ふふ……!」

 カマリ・橋本の口角が不自然なほどに上がり、不敵な笑みを作る。


「たしかにな……その通り! ははは。

 神を相手にするよりは、マシな相手だ……。

 ふははは! カケル君、君は本当にいいよ!」


 カマリ・橋本は嬉しそうに、ベンチに座っているカケルの前を芝居がかったように歩き出す……! カケルのほうに指をさし、その指を何度も振りながら話を続ける。



「君は頭がいい……! こちらの意図をすぐ察っしてくれる。

 一ノ谷家とのレスバが、どうなるかは知らないが……そのあとは、是非とも我々と共に戦ってほしい!」


「…………我々とは、いったい」

 戦うって、なんだよ……!


「ふむ……興味があるかね? まあ、当然だな……ハハハ!

 説明をしたいところだが、しばし待ってくれ。わたしの声を盗んだ泥棒さんと話をしたいんでな」


 そう言うとカマリは、自身が持つエイト06に話しかける。


「レオ、大林美月の携帯に繋いでくれ。

 おっと……名義は酒井可憐かな」



 カマリのエイト06から少年の声が聞こえる……透き通るような、綺麗な声だ。


『了解です、マスター。酒井可憐名義のスマホに繋げます』



 レオ……。ベルのようなAIが、他にもいるのか。

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