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66. 仲間は四人!!

 2026年2月9日現在 

【東京】 稲田大学女学生マンション。


 大林美月の部屋で赤木大輔は、テーブルの上に置かれたノートパソコンを操作している。左手には醜い火傷の痕が残っていたが、指先は器用に動いていた。


 湯気の立ったコーヒーカップが、ノートパソコンの前に置かれる。


「ありがとう。録音データは全てオンラインストレージに上げたほか、外付けSSDにも記録した」


 大輔はコーヒーを淹れてくれた、目の前の美月に礼を言う。

 カケルと通話中の美月は、スマホとは逆の手に持った自身のコーヒーカップをテーブルに置いて、大輔の隣に腰掛ける。


「英磨の情報が欲しいんだ……今現在、どこに居て何をしているか」



 スマホからはカケルの声。


「おれの住所を割り出せたハッカーなんだから、英磨の現在地なんておれに頼らなくてもわかるんじゃないか?」


「英磨は可憐の葬式が終わって、しばらく経ったのち、引っ越している」



【神奈川】


「引っ越し!?」


 カケルは、いつだか見た一ノ谷英磨の情報をもう一度見てみる。


 ………………あ、ほんとだ……。

 この間は現住所ばかり見ていたから気づかなかったけど、2X24年2月10日、千葉県の市川市に引っ越してる……。


「これって、周りの風当たりが強くなったからか?」


「ああ……みんな、口には出さなかったが、英磨を見る目は明らかに軽蔑の眼差しだった。その視線に耐えられなくなったんだろ……かっこつけていきがってる奴だが、本当は気が弱い。

 2月の連休明けに学校に行くと、あいつはもう居なかった…………。かつての友達に聞いてみてもわからず、完全に雲隠れ……こっちもいろいろ調べてみたが、どうにも見つけられない。思った以上に、一ノ谷一家の" 魔力 "が強い」


「ま、魔力……?」


「若緑市ってのはな……昔っから一ノ谷家の力が強かったんだよ。明治、大正……そんな時代からだ。

 選挙やるにしても、公共事業に入札するにしても、一ノ谷家にお伺いを立てないとなぜか上手くいかない……そういう町なんだよ、若緑市ってのは。

 だから…………地元の人間に一ノ谷英磨の行方を聞いても、拒絶さ……。取り合ってくれない」


「だから、おれに近づいたのか……在在センにアクセスできるおれに」


「そうだ。

 わかるんだろう、一ノ谷英麿の居場所……。教えてくれよ」


「…………断ったら?」


「……人気コスプレイヤー翡翠もえのスキャンダル記事がネットに流れることになる。

 もえと付き合ってる誰かさんは……熱烈なファンにでも、刺されるんじゃないかな」



 夜の蛍池公園……。カケルはスマホを耳に当てながら、佇んでいる。少し離れた場所では、カマリ・橋本が変わらずスマホを耳に当て、誰かと通話をしているようだが、その口はずっと開かず、閉じたままだ……。


「……仮に英磨の場所を教えたとして、そのあとお前が、もえさんの盗聴テープをネットに流さない保証はないだろ」


「信用ないなあ」


「当たり前だろ! 相談にのるフリして盗聴してたのは、どこのどいつだ!」


「まあ、それも一理ある」


 ……一理どころか、それが全てだろ。



「…………今からそちらに動画ファイルを送るから、それを見てくれないか?」


 ど、動画……? なんの話だ?



 カケルのゼータのアカウント宛てに、美月から動画ファイルが送られてきた。


「……届いた。見てみるから、ちょっと通話を離れるぞ」


 ここまできて、ウイルスはないだろう……と思いながら、カケルはファイルをタップする。その動画に映ってるのは…………。




 脱衣所の鏡の前で全裸になって、スマホで自身の裸体を撮る大林美月だった。



「え……!?」

 思わず声を出すカケル。


 一糸まとわぬ姿……とは、動画の中の大林美月を言うのだろう。白く陶磁器のような肌に形の良い乳房……下半身も隠すものは何一つない。アンダーヘアは下着からはみ出さない形状で剃られ、性器も見えていた。

 卑猥……というよりも、美しいという言葉が似合う美月の裸体。しかしそれをスマホで撮る美月の表情は…………まるで戦場に赴く騎士のような、覚悟を決めた顔だった。


「お、おい……美月、さん。

 送る動画、間違えてないか? あんたの……裸の動画が送られてきたぞ!」


 思春期真っ盛りのカケルが、頬を赤く染めながら言う。



「……それで合ってるよ」


「え……? それってつまり………どういうこと?」


「その動画が保証だ……。英麿の情報を教えてもらったあとに、わたしが翡翠もえの盗聴テープをネットに流したら、その動画を好きなだけネットに上げればいい。動画には、わたしの名前も載ってるだろ」


 たしかに動画の右隅には、" 大林美月 19歳 稲田大学一年生 "の文字があった。



 …………そこまでの覚悟か。



「どうだ、カケル……一ノ谷英磨の情報、教えてくれないか?」


 ……カケルは考え込みながら、ベンチに座る。そのベンチにはまだ一口も飲んでいない、カフェラテの紙コップがあった。2月の寒さで、すっかりと冷たくなったカフェラテを口に運ぶカケルに、カマリ・橋本がスマホを耳に当てながら近づて来る。



「カケル君……他人の個人情報を他人に教えることは、プライバシー侵害として損害賠償を請求される恐れがあるぞ」


「カマリさん……やっぱりそのエイト06で、おれと美月の通話を盗聴してたんですね」


「フフ……」

 カマリ・橋本の口角が上がり、わざとらしいほどの笑顔を作る。



「カケル……? 返事はどうだ?」

 スマホから美月が問いかける。


 カケルはもう一度、美月の動画を観る……。いやらしい思いからではない。大林美月の決意を確認したかった。


 決して目を逸らすことなく、鏡の中の自分を見つめる美月……。

 裸の美月を見ながら、カケルは複数の男達から裸にされた酒井可憐のことを思い浮かべる……男達の腕力によって、屈辱を経験させられた彼女……その姿はカケルの恋する大事な人……翡翠もえと重なる。

 もえが、このような酷い仕打ちを受けたなら……そう考えた時、一度も会ったことのない酒井可憐の受けた屈辱は、とても他人事とは思えなかった……。



「美月さん……一ノ谷英磨の情報を教えるにあたって、二つ条件がある」


「……なんだ? 言ってみろ」


「一つ……どれだけ恨みがあろうとも、殺人はしない」


「そこまではしない。……殴るぐらいは、するかもしれんがな」


「……まあ、それぐらいはいいさ。

 それじゃ二つ目。一ノ谷に復讐するなら……仲間は何人だ?」


「……わたしも含めて、仲間は三人。

 若緑高校のクラスメイト赤木大輔と、もう一人はBlackブラック Maskマスクのメンバーで、一ノ谷雅彦の行方を追っているハッカー、コジロウだ」



「……そうか。それじゃあ、仲間は四人だ」

 カケルは誰にアピールするわけでもなく、スマホを持っていない左手の指を四本、目の前に力強く立てる。



「……どういう意味だ?」


「おれもやる……! それが二つ目の条件だ!」

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