62. 美しきハッカー美月
「幻影って……どういう意味だよ!」
「そのままの意味だ……最初からLichなんてハッカーはいなかった」
「……お前が、リッチを演じてたってことか?」
「まあ……そういうことになるな」
嘘だ!!
カマリさんは、美月も赤木大輔も黒スマホ……エイト06を配布した相手ではない、と言ってたぞ!
魔法のスマホの所有者でないなら、なんで黒々ますく掲示板から、Lichの……大林美月の情報を得られなかった!?
カケルより少し離れた位置にいるカマリ・橋本は、スマホ……エイト06をしばし操作したのち、誰かとの通話に入る。
「美月……詳しいことは言えないが、黒々ますく掲示板からはLichの情報を取得できなかった」
「ああ、エイト06か。凄いな……国家レベルの情報端末を持っていたわけだ」
……全部盗聴してたわけか。
「だったら教えろ! 全部聞いて知ってるんだろ!?
魔法の情報端末エイト06で、エイト06の情報は取得できない。だけどお前は、それを持っていないはずだ……!
じゃあなんで……Lichの、お前の情報をますく掲示板から取得できなかった!?」
「……黒々ますく掲示板の管理人は…………わたしだ」
「なっ!?」
「Lichの書き込みは……わたしがソースコードに直接書いた。その時は、お前が使う魔法の正体がわからなかったから、データベースのほうにも、偽のIPアドレスを書き込んでたがな。
さすがにIPアドレスは知ってるだろう? インターネットをする際に割り当てられる識別番号」
………………そういうことか……!
そりゃ、ベルが在在センから情報を持ってこれるわけがない。
誰かの書き込みではない……美月が言った通り、まさに幻影だ……。
カケルは自身のスマホを耳に当てたまま、夜の公園に呆然と立ち尽くしていた……。美月が話を続ける。
「あの時……Lichが、お前の個人情報を書き込んでいる……と教えたら、お前は管理人相手に削除依頼を書いたな」
…………夜の闇に風が吹き、カケルの長く伸びた髪の毛を揺らす。カケルの脳裏に考えたくない一つの結論が浮かぶ……!
「あああああああああ!!
お前……おれのIPアドレスを抜いたな!?」
「正解!
アクセス元の隠蔽ができるプロキシサーバーを介すわけでもなければ、通信内容がすべて暗号化されるVPN回線でもない……。
" 裸 "の状態でアクセスしてくれたから助かったよ」
くっそ……! クソクソクソ!! ちくしょうが!!
Lichが……美月が、ますく掲示板におれの個人情報を書き込んだのは、おれに削除依頼を出させる為か……!
「あ、IPアドレスがわかったって、ネットの中継基地がわかるだけだ……! おれの住所まではわからないはずだぞ!?
な、なんで……なんでおれの家がわかって、赤いスマホを届けられたんだよ!」
21時を回った夜の公園……カマリ・橋本はカケルを注意深く見ながらも、相変わらずスマホを耳に当て、誰かと通話しているようだ……?
その視線の先にいる少年カケルは、不安と焦りからか……同じくスマホを耳に当てながら、落ち着かずにベンチ周辺をウロウロ歩き回っている。落ち着かないカケルとは対照的に、電話の向こうの美月が淡々と話す……。
「……IPアドレスで、お前が神奈川県は蒼町に住んでいるまではわかった。
蒼町の住民名簿は、ダークウェブにいるブラマスのメンバーを頼れば、簡単に手に入る……有料ではあったがな」
「………………」
「神奈川県蒼町で神楽坂カケルという名前は、全部で三人……。
その三人の家に中古のスマホを配った。赤、青、緑…………魔法使いのカケル君の家に配られたのは……赤いスマホだったわけだ」
…………カケルは思い出す……リッチのスマホを手にし、美月に助言を求めて電話した時の会話……。
" 「ふう~~ん、赤いスマホねえ……」
「色なんてどうでもいいだろ。それより、これ……どうしたらいい?
デザリングしたほうがいいのか……それとも無視しちゃっても大丈夫だろうか」 "
あ…………あああああああ!!
「そ、それで特定したのか!!?」
「その通り……! お前が神奈川住みで助かったよ。
沖縄住みだったら、真冬に沖縄旅行するところだった」
ふざけんな……!
ふざけんなよ、ちくしょう!!」
「……あとは説明しなくてもいいな。
デザリングさせてネットに繋いだのち、盗聴させてもらった。
教えとくと、カレンダーが偽装された遠隔操作アプリだ。そいつで、同じく偽装された電卓アプリを起動した。電卓アプリが盗聴アプリってのは、ご存じなんだろう」
「……赤木」
「ん?」
「赤木大輔ってのは……!?
Lichからの指示は、稲田大学のパソコンから送られてきた。そのパソコンは、赤木大輔の学籍番号で使用されていた!」
「ふうぅ~~~ん……抜け目ないなあ~。
わたしと仲良くお喋りしてるふりして、裏でしっかり調べてたのか。ちょっとショックだなあ~」
なにがショックだ!!
仲良しのふりして、裏でおれを騙す気満々だったのは、お前だろ!!
「大輔は、わたしの仲間だ……。
お前に正体を知られたくなかったので、奴の学籍番号を使わせてもらった」
「そっちこそ、まったく抜け目ないじゃないか……! ちくしょうが!」
「まあ、そう怒るな……こっちも悪いと思っているから、こうして全部話してるんだ。目的を達成したら、お前とは二度と関わらない」
「……なんだよ、目的って!」
「…………一ノ谷英磨の現住所」
「お前……この間は、一ノ谷雅彦の居場所を聞いてなかったか?」
「ブラマスのメンバーが一ノ谷発言の当事者、一ノ谷雅彦を捜していたからな……。一ノ谷雅彦の居場所がわかれば、その息子である英磨の現在地もわかるだろうと思い、最初はブラマスの仲間達と一ノ谷雅彦を捜していた」
「……お前が知りたいのは一ノ谷発言の一ノ谷正彦ではなく、その子供……一ノ谷英麿か?」
「…………そうだ」
「なんでだ……なんで、一ノ谷英磨の情報が欲しい?
お前……一ノ谷英麿と同じ、若緑高校出身だよな? お前だけじゃない……赤木大輔も、自殺した酒井可憐も若緑高校だ」
「………………」電話の向こうの美月は、沈黙をしている。
「……なにがあった!? 2023年12月……若緑高校で、なにがあったんだ!」
しばらくの沈黙のあと……電話口の美月が口を開いた。
「…………レイプ」
「………………」
「酒井可憐は……複数の男にレイプされ、自殺した」




