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61. リッチの正体!

 ヴウウゥーーーン。


「うわっ!」



 カケルのポケットから音が鳴る……! スマホの呼び出し音だ。


「ご、ごめん……ちょっと出る」



 カケルはここに来る前の美月との通話同様、自身のスマホと接続コードで繋がった、リッチの赤スマホを取り出す。ポケットから二台のスマホを取り出したカケルを、もえとカマリは不思議そうに見つめる……。


 カケルのスマホにかけてきたのは、母親だった。


「あ……もしもし、母さん?

 いや、散歩してるだけだから…………うん、すぐ帰るよ……じゃ。」



 夜中、外出した引きこもりの息子の身を案じた母親との会話を終わらせるカケル。すると……。


「カケル君……そのスマホ、なに?」


 もえが、当然の質問をする。カマリはカケルの前に立ち、とりあえずは様子を見る。


「え……? あ、ああ……これね。

 いや、数日前からLichリッチっていうハッカーに、からまれててね……」


 カケルは、リッチとの経緯を話す……。



「……情報が辿れない?

 そんなはずは、ないはずだ……」


 リッチとの経緯を聞いたカマリが言う。


「いや、実際、辿れなかったし…………

 カマリさん、黒スマホ……エイト06のデータは在在センには送られないとベルから聞きましたが、それは本当ですか?」


「……本当だ。エイト06の通信データは我々のもとに飛ばされ、在在センには記録されない。

 なるほど……リッチと名乗るハッカーは、エイト06を持っていると?」


「それしか考えられないです……。

 カマリさん、赤木大輔という大学生に心当たりはありませんか?」


「……スマホを配った者の情報は全て記憶しているが、知らないな」


「じゃあ、大林美月は?」


「知らない」


 …………二人とも" シロ "……か?

 それ以外の人間……誰だ!?


「カケル君、リッチから渡されたというスマホ……。

 見せてもらってもいいかな?」


「は、はい……どうぞ」

 カケルは自身のスマホとケーブルで繋がっている赤スマホをカマリに渡す。


 カマリは渡されたスマホの画面をスライドするなどして、調べ始める。

 もえは……相変わらず暇していた。


「おれもアプリとか調べたんです。

 でも、怪しいアプリとかはなかったですよ」


「…………カケル君。

 君はこのスマホで電卓を何百万回起動したんだね?」


「は、はい? 電卓……?

 そんなの使ってませんよ」


「通信量を見たまえ。電卓アプリが膨大な量のデータを通信している……。

 まいったね……わたしとしたことが…………ハッカーに後れをとった」


「……どういう意味です?」


「……このスマホは今、盗聴器になっている。

 この電卓アプリがそうだろう」


「え……だっておじさん、盗聴発見器を使ってたじゃん」


「もえ君は、発見器の仕組みを知ってるかな? あれは盗聴器が出す電波を見つけてるんだ。スマホの電波も見つけることはできるが……スマホの電波は、あくまでスマホの電波にすぎない。

 スキャンした時、スマホの電波も捉えたが……まさかそれが盗聴器の代わりになっているとは思わなかった。わたしのミスだ……」


「盗聴って、そんな……!

 そのスマホを調べてる時、タスク画面の切り替えを何回もしたけど、アプリはなにも起動していなかったです!」



「カモフラージュアプリ……」

 もえが、そっと呟く。


「もえさん……?」


「トンちゃんから聞かされたんだ……電卓とかカレンダーとか……アイコンは、ほんとに普通のアプリのアイコンで起動もできるの。電卓としても普通に使えるんだけど、パスワード……電卓の計算で、特定の計算式、26+12とか入れたら、盗聴器になったりカメラになったりするんだって」


「……そんなアプリがあるの!?

 ダークウェブとかで手に入れるのかな?」


「カケル君、スマホのアプリストアにアクセスし、カモフラージュアプリ、偽造アプリで検索してみるといい……いくらでも出てくる。今は素人がスマホ一つで、ハッカーを気取れる時代だ」



 ………………マジか。



「そのアプリはさ……タスク画面の切り替え時にも表示されないから見つけるのが難しいらしんだけど、盗聴とかしてたら画面にランプが点くから、それでわかるって言ってた」


「ふむ……君のマネージャーは優秀だね。危機管理を徹底している……しかし」


 カマリはリッチのスマホを見る。カケルも、もえが言うランプを見つけようとスマホを見るが……


「……ないぞ?」


「……スマホのメーカーが偽造アプリ対策に乗り出したのは、ここ最近だ。これは相当古いスマホだな……メーカーが対策する前の機器だろう。通信状態を調べるなどしないと、まず気づかない」


 カマリがスマホから、接続ケーブルを抜く。


「もえ君、デートは中止して優秀なマネージャーさんと帰宅したほうがいい。リッチというのが何者かは知らないが、人気コスプレイヤーの恋仲がばれている。これ以上この場所に留まっていることは、得策とは思えんな」


「う、うん……わかった。

 カケル君、なんか中途半端になっちゃったけど……ありがとう、楽しかった」


「うん……おれの方こそありがとう。また連絡する」


「うん!

 カマリさん、ホットココアごちそう様でした」


 カマリはニコリと笑いながら手を振る。

 もえはカケルとカマリに手をふりながら、富田林が待つ軽自動車へと足早に歩いて行く……。


「礼儀正しい子だ……。

 さて…………カケル君、ベルに頼んで、その赤いスマホが盗聴したデータをどこに送っているのか、調べさせてくれ。その送り先にいるのが、ハッカーLichリッチだろう」


「わかりました、ベル」


 カケルがベルに指示を出す。それとほぼ同時にカケル自身のスマホが鳴る。発信者は……大林美月。

 ベルへの支持を終えるとカケルは電話に出た。


「もしもし、美月さん!?

 大変なことがわかった! リッチから送られてきた赤スマホ、あれは盗聴……」


「カケル、一ノ谷英磨(ヒデマロ)の情報をくれないか?」

 カケルの話を遮り、美月が言う。


「え……!? なに言ってんだ、今それどころじゃ……」


 ほんの少し間が開いたかと思ったら、スマホから美月の声の代わりに、もえの声が聞こえてきた。



 [家を出て、お金を稼ぐために、援助交際をはじめたの……恐いとか、そういうのはなかったよ。もうどうだっていい、って思ってたから……]


 それは、ついさきほど聞いた、もえの家出話。現在のマネージャー富田林と出会い、ラブホテルへと向かった時のくだりだ。



 ……ろ、録音データ?

「お、おい……美月さん? それ……えっとお、なに?」


「……人気コスプレイヤーが援助交際か……。未遂に終わったようだが、はたしてファンはそれを信じるかな?」


「…………美月さん?」



 カマリが問いかける……。

「カケル君、その電話の相手は誰だ?」


 ほどなくして、エイト06……黒スマホ内のベルが盗聴データの行き先を告げる。


『マスター、盗聴データの行き先は東京都新宿区西稲田4丁目7-22……稲田大学の女子学生専用の学生マンションです!』


 ……稲田大学のマンション!?「部屋番号は!? いや、その部屋の住人は誰だ!」



 ブッ!

 カケルのスマホから流れていた、もえの会話が途絶え、代わりに美月が話しかけてくる。


「カケルって、ほんとに引きこもりなのか?

 コスプレイヤーの翡翠もえとお付き合いして、キスまで経験済みとはな……。

 魔法使いさんは在在センにアクセスできるだけでなく、惚れ薬の調合もできるのか?」



『部屋の住人は、大林美月です!』


 ベルの声を聞いたあと、カマリ・橋本は自身が持つエイト06を操作し始める……。



 ……なにがどうなってんだ!?


「美月……お前がLichリッチなのか?」


「カケル……この世にLichリッチという名のハッカーは存在しない」


「それって、どういう……」




Lichリッチは、わたしが創り出した幻影だ」

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