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58. 魔術師登場

 手を繋いだ二人はなにをするでもなく、夜の公園を歩いていた。


「寒いね」もえが言う


「うん、なんか暖かいものでも飲みたいね」カケルがうっかり口を滑らす。



「そだね……コンビニでなんか買おうよ」


「…………え!?」


 カケルは驚きの表情で、もえのほうに振り向く。


「こ……ココ、コンビニ?」


「うん、ここ来る時、見かけたよ。カケル君、行こ!」


 もえは握ったカケルの手を引っ張り、歩きだそうとするが…………。



「……………………」


 カケルは動かない。

 もえがカケルの手を引っ張るが、カケルは地蔵の如く動かない。

 犬の散歩中、リードを引っ張ってもテコでも動かない犬のように、カケルはその場に留まる。


「ちょ……カケル君ってば!

 もう……! カケル君は犬ですか? コンビニ行こ。お金ないなら、わたしが出すからさ!」


「い、いやだ……。

 コンビニには客という名のモンスターが、うようよいる……」


「いません!

 お客様は神様です!」


「レジには店員という名の魔王が鎮座している……」


「座ってません!

 日本のお店では、店員が椅子に座っているなど言語道断!」


「おれは引きこもりなんだ……!

 コンビニ行けたら、苦労しない!」


「カケル君、もえの為に脱ヒキして!」


「い、今は無理…………もうちょっと……」


 ぐずるカケルに、もえが魔法の呪文を言い放つ。



「べろちゅう」


「ぐっ……!!」


「ヒキ板のみんなに、バラしちゃおっかなあ~~

 カケル君がリア充なこと」


「り、リア充じゃないし!」


「えええええ~~! こ~~んな可愛いもえちゃんとお付き合いして、べろべろチュッチュッしたのに~~?」


 し、したんじゃなくて……されたんだ!


 カケルは、もえとお付き合いしたことをちょっと後悔した。



「彼女いない歴イコール年齢のヒッキー君達は、カケル君のこと、どう思うかなあ~~~」


「も、もえさん……! そうやって弱み握って男を脅すなんて、母親以下だと思うんですけど……!」


「う~~~ん……そうかな?」


 そうだよ!!


「アハハハ! ほら、わたしさ……援交とか、しだす女だしさ! まあ、いいじゃん」



 …………カケルは翡翠もえとお付き合いすることを、かな~~~~~~~~り後悔し始めた。


 誰だよ、こいつを抱きしめたい! とか思った奴は……!



「……人が恐いんだよ。

 みんなして、おれのこと見下してるみたいで……」



 がさっ……


 誰かが近くで落ち葉を踏んだ。人の気配を感じ、カケルが慌てて振り向く。そこに居たのは…………。



「でも君は、わたしを助けてくれたね?」


「あ……」



 二人より少し離れた場所に、背の高い老人が一人立っていた。

 黒い帽子に黒いコート……夜の闇に溶け込むような出で立ち。そしてその肌も黒かった。


「アフリカの人?」萌が言う。


「……前、話したでしょ? 魔法のスマホのこと。

 この人だよ……そのスマホをおれに渡した人…………。

 カマリ・橋本さん」


「ああ……魔術師さん」


 その魔術師カマリ・橋本が歩み寄って来る。左手には紙袋、右手はコートのポケットに手を入れている。


「デート中、お邪魔だったかな? いや、悪いのはわかっていたけども、偶然カケル君を見かけたものでね……」


「…………偶然じゃないですよね?

 あの黒スマホの位置情報が、おれの家から離れたから来たんですよね?」


 カマリの口角がゆっくりと上がり、不敵な笑みをつくる。


「さすがだね、カケル君。

 君は本当に頭がいい…………その通りだ。

 なんせ君ときたら、ずっと家の中だからね……それがようやく出てきてくれたんだから、嬉しくなって、つい声をかけたというわけさ」


「……なんの用です?」


 カケルは笑うわけでも怒るわけでもなく、淡々と受け答えする。


「……そこのベンチにでも座って、話そうじゃないか」


 カマリは少し先にあるベンチを顎で差しながら、紙袋からフタのついた紙コップを取り出す。


「なにか暖かいもの、飲みたい気分だったろう?

 萌君は配信で、ホットココアが好きと言ってた思うが……」


 カマリはもえに、ホットココアを渡す。


「は、はい……言ってました。どうも」


「カケル君が過去に買ったコーヒーは、カフェラテが一番多かったね。これでいいかな?」


「……ど、どうも」

 おれのコンビニでの購入履歴まで調べられるのか……そういや電子マネーをよく使ってたし。


「じゃ、わたしはブラックをいただこうかね。肌がブラックなだけに……なんてね。ははは、今のご時世、こういったギャグは許されないのかな」


 ……知らないよ。


 三人は手に紙コップを持ち、ベンチ前へと移動し始めるが……


「えっと……わたしもいいの? 話に加わって……」

 もえがカマリに問いかける。


「……構わんよ。カケル君から話を聞いたのなら、君も関係者だ。

 しかし、その前に一応、仕事はさせてもらおうかな」


 そう言うとカマリはコートの内ポケットから、トランシーバーのような物を取り出し、カケルともえの身体をスキャンするような動作をする。


「それ、盗聴器を見つける奴……」


「ほう……さすがは人気コスプレイヤー翡翠もえ君だ。危機意識はしっかりしてるね。

 ……っと、大丈夫なようだね」


 カマリは盗聴発見器をしまう。


「不快な思いをしたかもしれんが、許してくれ。これも仕事でね」


 カマリはベンチに腰掛けながら言う。カケルはそのカマリの隣に座り、もえはカケルの隣だ。

 カケルが紙コップの蓋を取りながらカマリに聞く。


「……カマリさんの仕事って、なんですか」




「そうだな……地球防衛軍、ってところかな」


「え!? 凄い!」


「もえさん……そこ、信じるとこじゃない」


「フフ……カケル君、まったくの嘘じゃないぞ。

 わたしは……我々は人類の叡智エイチを守る為の戦いをしている。

 そして君は……その戦いに選ばれた」

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