50. 点と線
さて…………黒々ますく掲示板では、リッチの情報を在在センから取得することができなかった。しかし今は、情報を手に入れられる……奴が黒スマホではなく、大学のパソコンから送信してるからだろう。
……いや、まだリッチの奴が黒スマホの使い手と決まったわけじゃない…………しかし、それならどうして、黒々ますく掲示板では情報を手に入れることができなかったんだ?
やはり、リッチ……赤木大輔は、おれと同じ黒スマホを持っている……!?
「カケル君!」
「あ……!
ご、ごめん……美月さん」
「リッチからのメッセージは、それだけか?」
「うん……またなにかきたら、連絡するよ。
……電話がいいかな? それともゼータ?」
電話やだなあ……ゼータって言ってくれ。
「電話でいいよ。
今は春休みだからな、基本いつでも電話は出れる」
……ちっ。
「今、舌打ちしなかったか?」
「いいえ。
っていうか、休みなのに大学行ってるの?」
「……言ったろ、実験レポートの作成だ。
春休みでも部活動だったり、卒論や修論のことで教授に呼ばれたりで、何人かの学生が構内をうろついてるよ」
そういうもんなのか。
大学…………おれは、進学できるのかな……。
将来のことは考えたくなかったので、カケルはそこで思考を無理やり停止する。
また今度考えよう。
そう自分に言い聞かせて、どれくらい経っただろうか……。
「カケル君、そろそろ切るね」
「あ……ちょっと待って、美月さん。
最後に一つだけ」
「……なんだ?」
……ストレートに赤木大輔のことを聞くのはやめよう。まだ美月は信用できない。
「美月さんって、ブラマスのメンバーでしょ? えっと……稲田大学にも、ブラマスのメンバーっていたりします?」
「……わたしの知ってる限りだと、一人いるかな」
「誰です?」
「同じ一年の赤木大輔って奴だよ」
カケルは心の中でガッツポーズをとった。
美月さん、ガード緩くね? 欲しかった情報、ドンピシャでくれた!
「ブラマスでの名前は、red treeだよ。
苗字が赤木だから、レッドツリー。単純だろ?
まあ、ブラマスのメンバーって言っても、ハッカーって呼べるレベルじゃないよ、ただ名乗ってるだけの奴だ」
「そう……。
で、その人さ……最近、スマホ買い替えたりとかした?」
「はあ?
……おいおい、急に探りを入れてきやがったな、魔法使いさんよお~」
「いや、そんなんじゃ……」
「それ以外になにがあるんだよ。
日常会話で会ったこともない人のスマホ事情なんて、普通聞かないぞ、ペケゾー君」
……ちょいと、がっつき過ぎたか。
「まあ、今回は特別に教えてやるよ
大輔の奴、先月機種変してたぞ。
これで満足か、ヒキ板の魔法使いさん」
……赤木大輔は先月スマホを変えてると。
「どうも、そろそろ切りますね」
「ああ……じゃあな」
ハッカー集団、Black Maskのメンバー、美月との通話は終わった。
「ベル、仕事だ!
稲田大学一年生、赤木大輔について調べろ!」
『わかりました!
それで……マスターは、いつお仕事するんですか?』
「やかましい!
引きこもりに、仕事、登校の話はするな!!」
『はあ~~~い』
ベルが「妖怪か!」っていうくらいに、にやつきながら応える。
くそがよお、もう~~!
不機嫌極まりない顔をしているカケルに、ベルが赤木の情報を伝える。
赤木大輔 男性 19歳
稲田大学一年生
東京都西東京市西節見1丁目9ー22
顔写真も添えられている。注釈には、高校卒業時の写真。
その容姿は一言で言うならば……オタクだった。もしくはチー牛。
更にもう一言加えるならば…………デブ、である。
眼鏡の奥にある目は一重まぶた……団子鼻に、しまりのない頬……。
どう見てもモテる要素は皆無だったが、髪の毛には天使の輪が見え、清潔感は感じられた。
「ベル、赤木大輔が契約してるスマホを追跡できるか?
赤木は……赤木のスマホは、今どこにある?」
『GPSはオンになってますね。
信号は稲田大学から出ています』
現代人なんだから、スマホと一緒に移動してるだろう……つまり赤木大輔は今現在、稲田大学にいるで間違いない。
じゃあやはり、赤木大輔がリッチ……?
………………いや待て。
何者かが赤木の学籍番号とパスワードを使ってパソコンを操作していたかもしれない。ハッカーを名乗ってるBlack Maskのメンバーなら、それくらい造作もないんじゃないか?
結論は、まだ出すべきじゃないな…………もっとよく調べてみよう。
赤木大輔は稲田大学に受かったのを機に、上京して東京住みか。
その前はどこに住んでたんだ……。
埼玉県若緑市 底田691
……若緑市?
大林美月がマルバナ掲示板に書き込んだ時に使ったのが飛び降り自殺した酒井可憐のスマホだが、その可憐の住所は埼玉県若緑市。
「……ベル、大林美月が高校生の時の住所は?」
『埼玉県若緑市曾田592、です』
……こっちも若緑市か。
ひょっとして……この三人、同じ高校か?
カケルはベルが持ってきた、三人の個人情報を読み漁る。
……………………自殺した酒井可憐、その可憐のスマホを使っていた大林美月……そして美月が言う同じブラマスのメンバー、赤木大輔。三人とも同じ若緑高校の同学年だ。
それだけじゃない……小学校、中学校も同じ…………同じクラスだった時も何度かあるな……完全に知った仲か。
………………ん?
赤木大輔の経歴を見ていたカケルは、赤木に逮捕歴があることに気づく。
2X24年1月1日傷害罪で逮捕
傷害罪……カケルは赤木大輔の顔写真をもう一度見る。
オタク、陰キャ、弱者男性と言われて連想する顔がそこにあった。優しそうな顔つき……と言えば聞こえはいいが、実際は締まりのない顔つきだった。
ぶっちゃけ、殴られれる側の顔だろ……カケルは、そう思った。傷害罪って、どういうことだ? それも1月1日って……元旦じゃないか。正月早々、このオタクは誰を殴ったんだ?
逮捕の内容を見てみる。
2X24年1月1日 埼玉県若緑市一ノ谷邸にて、一ノ谷英磨に対し暴行を働いた疑いで逮捕、保護観察処分となる。
「……一ノ谷!?」
カケルは思わず、声に出して呟く。
一ノ谷……その言葉の先に紡ぎ出される思考は、一ノ谷発言。
" 在在センは既に人の手を離れた
神の統治下にあり、首相でさえアクセスすることができない
やがてAI専制派の一大攻勢が始まるだろう
日本国の全てが変わる……
いや、人間社会全ての価値観が変わるだろう!
人間達よ、己の叡智を守る壁となれ!! "
そして、それを発言した張本人……在在センの管理局局長、一ノ谷雅彦!
「ベル! 一ノ谷英磨の家族構成を調べろ!!
それと英磨本人の情報もくれ!」
『了解です』
一ノ谷……特別珍しい苗字ではないと思うが、だからといって、よくある苗字でもない……。
まさか…………まさか……!
『マスター、一ノ谷英磨の家族構成と、それぞれの職業です!」
祖父 一ノ谷十三
元法務事務次官 現在無職
父親 一ノ谷雅彦
日本国在住者及び在留邦人の個人情報センター中央システム管理局局長 現在行方不明
母親 一ノ谷清美
専業主婦
姉 一ノ谷愛
大学生
一ノ谷発言の当事者、一ノ谷雅彦!
そいつの息子か!!
『そしてこれが、一ノ谷英磨の情報です』
一ノ谷英磨 男性 19歳
帝国大学一年生
東京都二鷲市古川1丁目9ー22
……帝国大学在学中の、将来が約束されたエリート。
顔写真も添えられている。高校卒業時の写真……おとなしそうな顔つきではあるが、無造作のマッシュヘアとシルバーのフレームレス眼鏡が、彼を明るく陽気な学生と印象付けていた。
カケルは、一ノ谷英磨の経歴を見てみる……。
生まれは東京……中学二年生の時に、埼玉県は若緑市に引っ越している。
中学は若緑中学校。
進学した高校も若緑高校……可憐、美月、赤木大輔と一緒。
そして2X24年元旦、一ノ谷雅彦の息子、一ノ谷英磨はブラマスメンバー赤木大輔から暴行を受けた。
……酒井可憐が飛び降り自殺をしたのは2X23年12月28日……暴行事件は、その4日後だ。
なぜ一ノ谷英磨は、同じ高校に通う赤木大輔に殴られた……?
理由がある…………なにか理由があるはずだ!
2X23年、若緑高校でなにがあった!?
なぜ酒井可憐は、自ら命を絶たねばならなかったのか……。
そして……英磨の父、一ノ谷雅彦は、なんの理由でどこに消えた!?
今まで点でしか存在しなかった、それらの存在が…………徐々に一つの線で結ばれようとしていた。




