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48. 不死王からの贈り物

 2月8日 火曜日

 翡翠もえ来訪からすでに二日が経っていた。時刻は午前11時ちょっと前。


「ふぁあ~~~あ……」


 引きこもりの少年は、太陽が昇りきろうかというこの時間になって、ようやく目覚めた。翡翠もえが訪ねて来た日曜日の起床時間は午前9時、昨日は10時ちょっと前……また再び、体内時計は一時間ずつズレていっている。



 ベッドから起き上がったカケルは、髪をかきながら部屋を見渡す……。



 日曜日、この部屋に人気コスプレイヤーの翡翠もえが来た。そしてそこで……もえとディープキスをした。

 本来なら、その甘酸っぱい青春の思い出にしばらく浸っていたいところだが、そのあとの騒動で、それどころではなくなっていた。


 水曜……だっけ? 夜のお散歩を約束されちゃったんだよな……。

 水曜日…………もう明日じゃないかよ、ちくしょう!

 …………外に出るのかあ……昨日はなんとも思わなかったけど、明日って意識したら、なんか緊張してきた……!


「ああ、もう~~なんで引きこもりの生活に、次から次へとイベントが起きるんだよ……!」


 ブツブツ言いながらカケルはパソコンの電源を入れたのち、朝食(というか、昼食)をとろうとドアに向かう。


 そうだ…………。

 リッチとかいう、正体不明の奴に個人情報バラされてた……掲示板に削除依頼を書いたが、昨日削除されてるのを確認した。

 在在センからデータをダウンロードできない、正体不明の存在……。

 くっそ……なんでそんな奴につけ回されなきゃいけないんだ。住所とか特定されたらどうしよ……。


 あれやこれやと考えにふけりながらカケルはドアを開ける。開けた目の前の廊下に白い箱が一つ……。


 なんだこれ……ネットでマウスを買った時、このくらいの箱で送られてきたな。


 箱の上には黒いメッセージカードが置かれており、テープで止めてある。カケルは箱の前でしゃがみ、カードを見てみる。




 神楽坂かけるへ 


 不死の王リッチより



 な……!!

 ちょっと待て、おい……!


 リッチって…………こいつ、家の中まで入って来たのか……!?


 カケルの頬に鳥肌が一瞬にして立つ。

 その脳裏に浮かぶのは、ローブを羽織った骸骨姿の魔法使いが夜中、音もなく神楽坂家に侵入してくる光景……!




翔琉カケル……それ、郵便受けにあったぞ」


「え!?」


 階下から父親が声をかける。


「ゆ、郵便……?」


 父親とは口をききたくないカケルだったが、今はそうも言ってられない。


「……お前宛ての荷物じゃないのか?」

 珍しく応対する息子に一瞬戸惑いながら父親が応える。


「あ、ああ……」


 そう返事するとカケルは、箱を持ってそそくさと部屋へと戻る。


 ……郵便?

 いや、住所とか書かれてないぞ……これ、直接うちのポストに入れたってことか?

 つまり………………リッチが家に来ていた!?


 カケルは" それ "をアクリル板のテーブルの上に置く。



 嘘だ!!!

 なんで……なんで!!


 トリップ番号のパスワードみたいに、住所か電話番号をなにかのパスワードに使った……?

 …………いや、いくらなんでも、そこまでマヌケなことはしてないぞ。

 じゃあなんだよ……どうやって……!!


 ……………………あれか…………

 おれが今までやってきたように……在在センにアクセスして、おれの情報を…………。


 ……いや待て。この黒スマホからは在在センに情報は飛ばないってベルは言っていた。

 じゃあいったい…………って違うよ!

 黒スマホから情報はいかないけど、パソコンからの書き込みは普通に情報飛ばしてるじゃんか! そっちから情報を抜いたってことか……?



 ………………もちろん、この推理は……リッチがおれと同じ黒スマホを持っている、という条件の上でだが……。

 しかし、それ以外に考えられない。



 テーブル前に座り込み、寝間着姿のまま考え込むカケル。



 ………………というか……この箱、なにが入ってるんだ。まさか爆弾とかじゃないだろな……。



 カケルはおそるおそる箱を開けてみる……中に入っていたのは…………。


 スマートフォンと充電器……それと一枚のメモ書き。

 スマートフォンには、ところどころに擦り傷が見える……新品ではない。充電器はおそらく、このスマホのだろう……そしてメモ書きには……


 連絡用 4444 


 とだけプリントされていた。


 この4444って、ロック番号か?

 カケルは、おそるおそるスマホを手に取ってみる……。


 あれ、このスマホ……。

 それはカケルが中学に入学するまで使っていたスマホと同機種だった。ちなみにカケルが使っていたのは、赤色ではなく青色だった。

 かなり古いスマホだな……なんでこんなスマホ、送ってきたんだろ。


 電源は入っている。番号を打ち込み、ロックを解除してみる。ホーム画面には不死王リッチを彷彿とさせる、不気味な骸骨のイラストが表示されていた。


 [simカードが挿入されてません]とのメッセージが出る。


 ……通話できないじゃん。これでどうやって連絡するんだよ。



 ………………骸骨が描かれたホーム画面には、アイコンが一つだけある。SNSアプリ、ゼータだ。

 なるようになれ、とばかりにカケルはゼータのアイコンをタップ。アカウントのホーム画面が映る。ヘッダー画像は西洋の墓地のイラスト……アカウント名はServitudeサービチュード 隷属を意味する。


 …………ふざけやがって……。


 そして紹介文に書かれたテキストは一行。



 自分のスマホとデザリングしろ



 ………………さて、どうする……ここまで" 奴 "の思惑通りに動いてきたが……カケルは左手を口に当て、一方の右手は左手の肘にくる姿勢で考える。

 デザリング……おれのスマホをモバイルルーター代わりにして、この赤いスマホをインターネットに繋げろってことだが……ハッキングされるんじゃないか?


 う~~~~ん……。

 伸びた髪を後ろで結いながら、カケルは考える。



 …………あまり恩を作りたくないが……美月に聞くか。



 " 困ったことがあったら、相談に乗る "


 向こうから言ってきたんだ……ここは素直に甘えるか。

 そもそも在在センから情報を持ってこれない以上、リッチについて知ってるのは美月しかいない……。



 カケルはゼータから美月……■酒井カレンにメッセージを送った。

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