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29. 引きこもり少年は変わる

 翡翠もえがカケルの家を訪ねる日は、2月6日の日曜日。


 現在の日付は1月31日の月曜日だ。

 時刻は0時30分。昼間ではない…夜も夜、真夜中ど真ん中である。

 一般人が明日に備えて眠りにつく時間帯に、神楽坂カケルは目が覚めた。

 昼夜逆転の生活をなんとか治そうと、昨日は午後4時まで起きていたが、それが限界だった。

 日が沈んでいくあの寂しくもハカナい雰囲気の中、カケルはのそのそとベッドへと、いざなわれ……そのまま眠りへと落ちた……。

 日常生活において身体を酷使するという場面がほとんどない引きこもりは、いったん目が覚めてしまうと、なんとか寝ようとしても寝れないものだ。これ以上寝れないと悟ったカケルは、仕方なくベッドから這い出す……。

 当り前だが外は真っ暗……目覚めがいいとは、とても言えない。

 気分は最悪だが毎日の習慣通りパソコンをつけ、インターネットと繋がる。現実社会で人との接触を拒んでるわりには、ネットを通じて人と交わろうとする引きこもり……。


 カケルは慣れ親しんだヒキコモリ板ではなく、コスプレイヤー板を覗く。

 翡翠もえのスレッドだ。



 [今週の土曜日は秋葉の三つ角(ミツカド)カメラ店で、イベントあるな

 お前ら、もちろん行くよな?]


 [行くけど、なんのコスプレすんだろな

 真紅のクロフェニアとか、やってほしい

 もえちゃん、原作の単行本全巻持ってるって言ってたから、レイのコスプレやってくんないかな]


 [真クロ流行ったのって2,3年前だろ?

 向こうも商売なんだから、いくら好きでもそんな昔のコスプレなんてするわけねえわ]


 [なんのコスプレでもいいよ

 もえちゃんのイベント初参加だから、楽しみだわ~~]



 イベントかあ……。

 そういやセイイチローも、イベント行くとか言ってたような……。

 この秋葉のイベントのことなんだろうな。



 ………………………………


 ま、そのイベントが終わったら、オレん家に来るんだけどな、翡翠もえ。

 カケルは翡翠もえスレッドの書き込みを眺めながら、しばし優越感に浸る…………しかし……。



 その優越感の後ろから……不安と恐怖が大きな音を立てて忍び寄る……。

 もえと来訪の約束をした時はウキウキ気分だったが、約束の日が近づくにつれ、他人と会うという事実が現実味を増し、日に日に恐怖が増していった。

 いっそのこと、断ってしまおうか……そう思いもしたが、人と……可愛い翡翠もえさんに会いたい! という下心がマサった。



 ……昼夜逆転を治すのもそうだが…………


 カケルはチラリと部屋に目をやる。

 汚部屋とまではいかないが、かといって片付いてるとは言い難い部屋。


 部屋の掃除もしないといけないな……めんどい。

 あと風呂……冬だからサボってたけど、入らないと…………。





 最初にカケルの異変に気付いたのは母親だった。

 脱衣所のカゴに、いつもなら週に1.2回しかないカケルの洗濯物が毎日あった。


 父親は遅れて気づいた。

 ゴミ出しの当番である父親が神楽坂家のゴミがまとめてある場所に行くと、段ボール箱が畳んで何枚も置いてあった。

 ネット通販の箱に、パソコンの周辺機器の箱……カケルが買った物だ。中身は出したのだろうが、箱はそのまま子供部屋に放置されていたのであろう。それがまとめて出されてあった。



 夕食の時間が終わったダイニングルーム。

 父親はコーヒーを飲み、母親は緑茶をすすっている。カケルはもちろんと言うべきか、今も夕食時もこの場所には居ない。


「あの子、最近ちゃんとお風呂に入ってるようなのよ」


「そうか……部屋の掃除もしてるみたいだ

 今朝、ゴミが出してあった」


「そう……学校に行く気になったのかしら」


「自分で努力しないと駄目だと気付いたんだ。努力は大事だ!」



 ふううぅ~~~!

 母親は呆れるように、ため息をつく……。


 この人は、まだそんなことを言っているのか…………。

 心筋梗塞シンキンコウソクで倒れた時もそう……わたしも翔琉カケルも、家と病院を何度も往復しながら世話をしたというのに、日常生活に戻れるようになったのは、自分がリハビリを頑張ったからだと主張する……。もう次倒れても世話をするのはよそう……それこそ自分で頑張って治してほしい。


 母親のため息など気にも留めずに、父親は飲み終えたコーヒーカップを流しに持っていく。

 母親のほうに振り向くと、「一緒に洗おうか?」とばかりに手を差し出すが、母親はまだ飲んでる途中だからと断る。仮に飲み終えてたとしても、自分で洗ったろう……夫の好意には応えたくなかった。それほど夫婦仲は冷えていた。

 緑茶をすすりながら母親は引きこもっている息子のことを考える。


 部屋にこもって、ずっとインターネットで遊んでるみたいだけど……そこで気の合う友達でも見つけたのかしら……。


 母親は父親より、我が子の状況を察していたようだ……。



 気の合う、" 異性 "の友達ができたカケルは、少しずつだが生活に変化が起きていた。




 そして時は流れ、2月6日の日曜日 時刻は午前10時過ぎ…。

 両親がともに出かけた神楽坂家の前に、一台の古い軽自動車が止まる。


 ピンポ~~ン♪


 玄関のチャイムが鳴る。鳴るとわかっていても、カケルはチャイムの音にドッキリする……。普段ならチャイムが鳴っても、シカトを決め込んでいたが、今日ばかりはそうもいかない。

 玄関モニターを見る。そこに映っているのは、動画で何度も見た美少女コスプレイヤー、翡翠もえ…………

 と、もう一人……太った中年の男が立っていた。



 え…………誰?

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