19. 神楽坂カケルは主人公ではない
神楽坂翔琉は小学校、中学校と、いわゆるスクールカーストの上位にいた。
二重まぶたのはっきりした目に、女子のようなサラサラの髪。背は高くなかったが、可愛らしい顔立ちと相まって、年上から好かれることが多かった。バレンタインデーでは、複数の女子からチョコを貰った。
勉強もできた。私立の蒼中学には2位の成績で入学。エリートだった。
しかし…カケルは気づいていただろうか……。自分が学校でエリートでいられたのは、良くも悪くも父親の教育のお陰だったことを…。
父親の厳しい指導が学校での成績に表れた。
" 努力しろ、怠けるな! "という教えが、カケルの学校での立ち振る舞いに繋がり、学級委員を学年ごとに任された。教師からの評判は、すこぶる良かった。
神楽坂修の教育指導方法が正しかったかどうかはともかく……結果としてカケルは、学校での勝ち組になれていた。
しかし……その指導者、神楽坂修は心筋梗塞で倒れ、助かったあとは、ただの抜け殻となっていた。
カケルを…神楽坂家を支配していた父親という絶対的な存在が消えうせた。
父親の忠実な側近であったはずの母親は、父親と距離をとった。
息子のカケルは、勉強をしなくなった。
高校受験は受かったが夜更かしをするようになり、深夜アニメにはまった。成績はみるみる落ちていった…。
[今まで見下すように見てた奴に、成績を抜かれた]
PM欄にカケルが書き込む。
[面と向かって、なにか言われたわけじゃないけど…
おれのことを下に見てるのは、感じとれた
今まで下に見てた奴らに、今度は自分が見下された……]
[そっか…]
[だから学校に行かなくなった
中学まで、自分が世界の主役かと思ってた…
だけど違った]
[おれは主人公じゃない
むしろ……
主人公から、ざまあ~! される脇役
主役かと思って威張っていたら、真の主役に見下される、そんなつまんない役だった]
[ペケゾー君]
[これが、引きこもりになった理由
やな奴でしょ? 嫌いになったでしょ?
まあ、しょうがない]
すっかり日が落ちた部屋。
カケルはゲーミングチェアの上に膝を立てた恰好で座り、スマホの画面を打っていた。
さっきまで楽しくお喋りしていた女の子に確実に嫌われた…そう思い、椅子の上で丸くなる。
しかし全てを曝け出したことで、どこかスッキリした気分にもなっていた。
[ペケゾー君、話してくれてありがとう!
ごめんね、辛いこと話させちゃって]
……もえさん。
[嫌いになんてならないよ
言ったじゃん、わたしもウンコだってw
わたしの過去のこと知ったら、きっとペケゾー君の方が
わたしのこと軽蔑すると思うよ]
もえさんの過去か……中学の時は太ってたな。
母親との確執といい、いろいろ複雑な事情がありそうだけど………。
[ウンコ同士、仲良くやろうよw
どうせ毒親育ちのウチらは、社会でうまくやってけないんだからさ]
[またウンコって…w
もえさんはうまくやってるじゃないですか
フォロワー数12万のコスプレイヤー、凄いです]
[ありがと、ちゅ♪
そういえばペケゾー君、翡翠もえに応援コメントくれたよね]
応援コメント………?
あ! そういえば……。
カグラ @kagurazaka34 1月26日
雪の中、お疲れ様です!
遅ればせながら、今日あなたの事を知りました
ほんと可愛い! 応援してます
……してたな
思えば、あのコメントがきっかけで、もえさんと話せるようになったんだ…。
[今日知ってくれたんだ♪
なんだろ、配信の動画とか見てくれたのかな?]
動画は今見てるぞ…って、もうほとんど聞き流してるけど……。
視線をモニターに向けると、動画のシークバーは終了に近づいている。そろそろ終わるようだ。
えっとお……翡翠もえさん知ったきっかけって、なんだっけ?
[あ、DVDですね
フォロワーのセイイチローって奴が
買ってたのを知って、それで知りました]
[セイイチロー?
ああ、ひょっとして…配信にちょくちょく来てくれてる、あの子かな]
…そういやセイイチローの奴、配信内でスパチャしてたな。
[神奈川県在住の16歳
ああ、ペケゾー君も16歳って言ってたよね]
…動画チャンネルの登録者情報を見たのか?
[そのセイイチローで合ってると思いますよ
おれも神奈川住みだから]
[そっか
じゃ、セイイチロー君、フォローしとっこかな]
えええええええええ!!!!
[な、なんでフォロー!?]
いいよ、そんな奴フォローなんてしなくって!!!
[ん? だってさ、この子がいたから
こうしてペケゾー君と会えたんだしさ
恋のキューピットじゃん、彼♪」
き、キ…キューピットって……!
あのお~もえさん……。
セイイチローこと聖一郎って、坊主頭でニキビ面で、おまけに歯並び悪いんですけど!
[い、いいの?
ただのファンと、相互フォローの関係になっちゃって]
ちくしょーー! 今すぐ解除してくれ!
[大丈夫だよw
翡翠もえの公式アカって基本、イベントの情報発信してるだけだし…
そもそも発信してるの、わたしじゃなくて男性のスタッフさんだから]
[え? そ、そうなの?]
[そうだよ
セイイチロー君が仮に迷惑行為してきても、
スタッフが適当にあしらうでしょ]
「そ、そう]
[ねえ、ペケゾー君
また、お話…できるかな?]
え……!?
も、もえさんと…また?
[は、はい!
おれも…お話したいです!]
「ありがと!
じゃ、フォローしてね♪]
や、やったあ~~!!
セイイチローだけフォローされてズルい!
って思ったけど、これでおれも、翡翠もえさんと相互フォロワーだ!!
ぽお~~ん♪
スマホの通知音が鳴る。
鼻ウンコほじほじ @anegawaさんにフォローされました
は……!?
最高に、ひきつった顔したカケルが、スマホの画面を見入る。
[ウンコ同士、またお話しようね♪]
そ、そういや………翡翠もえのアカウントではなく…荒らしである、ウンほじのアカにPM送ってたんだった……。
カケルは、フォローバックのボタンをタップし、翡翠もえこと姉川萌こと、鼻ウンコほじほじと相互フォロワーになる。
[今更ですけど…なんですか、この名前]
[アハハハ♪
やっぱ、おかしい? そうだよね]
[いや、去年さあ~
大阪のイベントだったかなあ~
わたしがイベントの挨拶してたら、会場に来てた客で一人
鼻ほじってる、おっさんがいたのよ]
[お前、人が真面目に話してる時に、鼻くそほじってんじゃねえよ!
…って、思ってさあ……w
それがずっと頭にあって、鼻ウンコほじほじになりますた]
[いや、なりますた、じゃなくてwww
おかしな名前つけるなよw]
[アハハハハwww]
[しょうもないwww]
笑いながら椅子にもたれかかる。
モニターから翡翠もえの声。
[それじゃみんな、おやすみ~~
翡翠もえでした~~~♪ ちゃお~]
もえさんの動画、終わったか……こっちもそろそろ終わりかな。
二言三言、翡翠もえこと姉川萌と言葉を交換し、二人の会話は終わった。
余韻に浸るようにカケルは、スマホの画面を眺める…。
スピットファイアを組み立て終えたベルは達成感からか、作業机に突っ伏し穏やかな寝息を立てている。
なんか……今日はいろいろあったな…。
代り映えのないはずの引きこもりの日常……しかし。
今日に限っては、それはない。
異性とのめぐり逢いがあった……それも、人気コスプレイヤー翡翠もえとだ。
人気者との接触に喜びを感じようとするカケルに、ゼータのフォロワー、セイイチローがプライベートメッセージを送ってくる。
[おい、神楽坂~~!
オレの最新フォロワー見てみろよ!ww
なんと!!!
翡翠もえさん公式に、フォローされたんだ!!!]
…あっそ………
男のスタッフが発信してるらしいけどな…。
[つうかよ、神楽坂~!
お前、なにウンほじと相互フォロワーになってんだよwww]
あ………。
つうかこいつ、いちいちおれのゼータをチェックしやがって…!
ストーカーかよ、まったく…!
[引きこもって出会いがないと、女叩きに走っちまうのかあww
あ~やだやだwww
オレは来週、翡翠もえさんのイベント行ってくるけど、
てめえは家に引きこもって、ウンほじと仲良く女叩きでもやってろやw
だけどいいな、翡翠もえさんに迷惑かけんじゃねえぞ!!]
……………………ウンほじの正体知ったらこいつ、どんな顔するんだろうな…。




