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18. あの雨の日の出来事

 [あいつはさ…志村さんを馬鹿にしてたんだ]


 [バカ殿?]


 [違うよw その志村さんじゃなくてww]


 [だってさww志村って言われたらさあ…w]


 [ごめん、言葉足らずだったw

 志村さんってのは昔、うちの近所にあったお弁当屋さんの息子]


 [そっかw 先に言え、ペケゾー! ぷんぷん!]


 [すみませんw]


 [wwwwww]




『すっかり仲良くなっちゃって……や~らしぃ』


 スピットファイアを組み立て終えだベルが、それを棚に飾りながら呟く。

 スマホの中に拡がる仮想空間……。

 その中に置かれた棚に、大日本帝国のゼロ戦と大英帝国のスピットファイアが並ぶ。



 [で、志村さんってのはさ…今のおれみたいな人

 いや、違うか…?

 家がお弁当屋さんで、車で弁当の配達とかしてたし]


 [働いてる人なの?]


 [う~~ん…配達はしてたけど

 弁当の配達が終わったら、フラフラしてたし……

 家のお手伝いって感じだと思う

 志村……武則タケノリさん、って言ったかな]



 [まともに働いてないからか、あの人はいつも志村さんを馬鹿にしてたんだよ]



 [志村は怠け者だ]

 [父親は真面目だったのに、息子は駄目だ]

 [30過ぎてるのに職につかず、家の手伝いをして小遣い貰ってるらしい

 どうしようもない]


 [子供の頃…リビングでジュース飲んだり、くつろいでる時に

 いつも聞いたセリフだ

 あいつは…志村さんを馬鹿にしてた]


 [うん]


 [だから、その時のおれも…

 志村さんは馬鹿で、見下していい相手だと思ってた]




 [中学一年の時さ…

 志村さんと道ですれ違ったんだけど、去り際に]


 [働けよ、バーーカ! って、言っちゃったんだ]



 思い出したくない暗い過去…。

 誰かにイジメられた屈辱の過去ではない。カケル自身が誰かを辱めたのだ。

 数年後……学校にも行かず、引きこもりになる人間が他者に「働けよw」とバカにする、この滑稽コッケイさ。



 [最低でしょ、おれ…そういう奴なんだ]


「うん、最低]


 姉川萌からの率直な返事。

 フォローの言葉の一つでも貰えるかと淡い期待をしていた少年の心に突き刺さる。



 [わたしと同じだね]


 [え?]


 [ほら、わたしもさ

 アレに気に入られたくて、パパの悪口言ってたから]


 [ペケゾー君も、そうなんでしょ?

 お父さんに気に入られたくて、お父さんが馬鹿にしていた奴を馬鹿にした]




「うん]

 姉川萌のフォローに乗っかるように、カケルは返事をする。

 しかしカケルは……薄々は感じていた。


 結局は、自分の意志で父親に従ったのだ。

 父親に反抗することなく生き、引きこもった…。



 [その志村さんに悪口言ったところを誰かが見てたんだろうなあ

 父親が知ってさ…家に入れてくれなかった]


 [その時は、なんで家に入れてくれないのか、分からなかった

 あの人が馬鹿にしてた相手を自分も馬鹿にしただけなのに]


 [そうだよね]


 [そのうち雨が降り出した

 まわりも暗くなってきて、どんどん不安になって

 泣き出して……だけど家には入れてくれなかった]




 湧き上がるように、あの日の出来事がカケルの脳裏に蘇ってくる。


 中学に入学したばかりの春…しかし日が落ちるとまだ肌寒い。

 降り出した雨は容赦なく少年の体に降り注ぐ。



「謝って来い」


「よそ様を馬鹿にする子は、うちには入れません」


 無機質なドア越しに父親と母親が言い放つ。

 カケルはわけが分からなくなっている。親のしぐさを見てその通りのことをしたのに、悪いのは自分……。

 意味を理解できないまま、濡れた道路を弁当屋に向かって走り出す。ズボンの裾は雨でびしょぬれになっていた。


 32歳になる無職、志村武則は、お人よしだった。

 雨の中、泣きながら「ごめんなさい」を連呼しているカケルを見て事情を察し、傘をさして神楽坂家まで一緒に来てくれた。

 ようやくカケルは許され、家の中へと帰還したが……。




 [優しいんだね、志村さん]


 [うん、だけどさ…その時のおれは]



 [お前のせいで、こうなったんぞ!

 って、心の中で志村さんを恨んでた

 終わってる、おれ……]


 [あああああ…]


 [そういう奴なんだ、おれは…

 おれのほうが、もえさんよりウンコだよ

 学校でも、そう…自分より下の奴を見下してた]


 [おれさ…今は引きこもってるけど、小中学校とモテたんだよw

 自分で言うのもなんだけど、顔も悪くない]


 実際カケルは、おしゃれに気を使えば美少年と言ってよかった。


 [だから、バレンタインの時とか、得意になってたよ

 おれは、そんな奴

 イジメられて引きこもった可哀そうな奴じゃなくて…

 弱い奴を馬鹿にしてた側]


 カケルはテキストを打つたびに、ウツになっていった。

 ヒキ板で荒らしを撃退する正義の魔法使い、ペケゾーのガワが剝がれ……醜い本当の自分が、姉川萌の前にサラけ出されていくのを感じていた。

 その姉川萌が聞いてくる。



 [じゃあ、なんで引きこもっちゃったの?

 イジメられてたわけじゃないなら、学校行けるじゃん

 というか、君のお父さん、よく君が引きこもってるの

 許してくれてるね 怒られないの?]


 [あの人は、もう怒らないよ]


 [なんで?]


 [おれが中三の時に心筋梗塞シンキンコウソクで倒れた

 その後は、ただの抜け殻]



 高校受験が差し迫る一月。

 カケルの父親にして神楽坂家の最高指導者、神楽坂修カグラザカオサムは倒れた。

 そこから……神楽坂家の崩壊が始まった。



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