表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/43

16.  言葉のリストカット

『マスター、部屋が暗いです。

 このままだと視力低下の恐れがあります』


 カメラ機能を通じてか、ベルが忠告をしてくる。

 しかしカケルは電気を点けない。明るい場所は嫌だ……惨めな自分が、さらけ出されるような気分になるから……。



「にゃ~~お」


 黒猫はカケルの膝元から飛び降りると部屋の片隅に歩いて行き、闇と同化しながら、隅に丸くなる。



 PM欄には姉川萌のメッセージ。


 [中学の頃だったかなあ…アレとババアの考えを否定するようになったのは]


 中学……もえさんの、中学校の卒業写真に写ってるのは、ぽっちゃりした女の子…。

 最初見た時は分からなかったけど…翡翠もえ、というネタバレ知った後で見ると、たしかに面影がある。

 ……太ってた事と、なんか関係あるのかな…。


 …………いや、女性に体形のこと聞くのは、失礼なんじゃないか?

 ……ここで聞くのは、やめておこう…。



 [こんな女には、なりたくない! って思った。

 色で男を釣るような女……男性の気持ちなんて考えもしない…ただ、自分の貯金だけを気にする女…。

 だけど………なってたんだよね…姉川萌。

 じゃなくて、翡翠もえ]



 モニターから、その翡翠もえの声が聞こえる。


 [Gの次はHカップ目指そうって…いやいやいや、大きくなるとさ…可愛い洋服とか着れないじゃん]

 [あ、みどたぬさん、スパチャありがとう♪]



 PM欄の鼻ウンコほじほじこと、姉川萌


 [結局さ……エロで男釣って、金稼いでるだけだもん、わたし

 クソでしょ? ウンコでしょ?]


「だから…女を叩いてるの?]


 [そうだよ

 翡翠もえも、アレみたいに男釣ってる女も、クソだしさ!]



 モニターから聞こえる、クソな女の声


 [えっとお…コメント読むけど……

 おっべえって、揉まれると大きくなるよね…いや、揉まれたことはないけど…

 自分で揉んだことはあるよ]


 [うん! だって一人だし…寂しいじゃん。揉むよ]




「…………リストカット」


 カケルがぽつりと呟く。



『マスター?』

 ベルが飲みかけのティーカップを手に持ち、問いかける。


 [まるで……言葉のリストカットだね]


 カケルが、そう書き込む。


 [ハハハハハ!

 上手いこと言うね

 言葉のリストカットか……

 そうだね、たしかにそう…

 自分を傷つけて……満足してる]


 [そういうの、やめようよ

 自傷行為で満足するの]


 [ええええ、いいじゃん、別に~!

 どうせ傷つくのは、わたしなんだし!

 そんなこと、君に言われたくないなあ~]



 なんか……段々、地が出てきてるような…



 [ごめんなさい

 引きこもりのおれに言われたくないですよね。

 だけど、やめましょうよ、自分を傷つけるのは……]



 もえ、しばしの沈黙……そして返信。



 [うん、ごめんね…責めるようなこと言っちゃって

 ごめんなさい

 アハハ♪ 翡翠もえの性格がクソなの、バレちゃった?]


 [クソとかウンコとか、やめて下さい

 もえさんのこと、別に変だとは思ってないです!

 おれも…似たような境遇だし]


 [ああ、そうだったね

 お父さんだっけ?

 ひょっとしてペケゾー君が引きこもったのって

 お父さんが原因?]



 ……………カケル、しばしの沈黙。


 [うん、そう]


 [わたし、知りたいなあ~

 ペケゾー君が引きこもった理由

 ねえ、今度はペケゾー君が話してよ]



 [え……?]


 話してって言われても……。


 引きこもった理由など、誰にも話したことはない…。そもそも話す相手がいない。

 いつだか役場からカウンセラーの人が訪ねて来たことがあったけど、両親と一緒にリビングで言葉を交わしただけ。今と同じく、引きこもった理由を尋ねられたが、答えなかった。見ず知らずの人相手に…それも隣には両親がいるのに自分の心の内を話すなど、絶対に嫌だった。


 でも今は……


 目の前…スマホ画面の向こうにいるのは、一度も会ったことのない女性、姉川萌。

 ネットを通じてテキストのみで話した相手。だけど……不思議と心を許せたのは姉川萌が話し上手だったわけでも、ちょっとえっちだったからでもない。



 気が合った。


 お互い、親の愛に恵まれることなく育ったからか……自分の分身であるかのように、親近感が持てた。



 [おれが引きこもったのは、あの人のせいなんだ]


「あの人…?]



 日が落ちた暗い部屋で引きこもりの少年は、ぽつりぽつりと自身の過去について語り始める。

 外からは…ぽつぽつと雨音が聞こえてきていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ